TOA×シリーズ


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タンブリン砦の周辺にある茂みまで侵攻すると、アンジールさんが作戦内容の確認を行ってくれる。


「まもなくB隊が爆発を起こす。それが合図だ」

「その混乱のスキに俺たちが潜入する」

「ああ。俺は砦中心部に爆弾を仕掛ける。おまえ達は正面から突入して−−」

「うん。で、んで、んで、んで、んで?」


はしゃぐザックスに、アンジールさんの顔は諦めというか呆れたような表情が染み付いていた。
これが、アンジールさんが前に言っていた、落ち着きがなく集中力ゼロの"仔犬のザックス"モードか。


「好きに暴れろ」

「任せろ。そういうのは得意だ。まだかよ、B隊」


ザックスが待てずに茂みの中から立ち上がると、アンジールさんは愛剣のバスターソードを取り出し、いつものように剣を額の前に掲げて祈る。
祈る行為を不思議そうに眺めたザックスがぼやく。


「その剣使ってるところ、見たことないぞ。まじない専用なんて、もったいなくないか?」

「使うと汚れる、欠ける、磨り減る−−そっちの方がもったいない」


アンジールさんの真剣な眼差しに、ザックスは引き気味だったが、俺はそれこそがアンジールさんが一番大事にしている誇りそのものなんじゃないかなって、魂に刻まれた遠い憧れのように愛しかった。


「ああ−−俺は貧乏性なんだ」

「笑うところか?」


ほんのひとときの談笑を掻き消すように、爆発音と光が砦の中心部から巻き起こる。
それを合図に、アンジールさんは俺とザックスに目配せした。

ザックスは勢いよく茂みから飛び出していく。俺も追随して走り出そうとしたが。


「待て、フキ!」


アンジールさんに呼び止められる。
いつ猛ダッシュしてもいいように、その場で足踏みをしながらアンジールさんの二の句を待った。


「ザックスを頼む。それと……すまないな。おまえに迷惑をかけて」

「迷惑だなんて、思ってませんよ。俺一人じゃ耐えられなかったけど、セフィロス師匠やアンジールさん、それにザックスがいますから!」

「ならいい……呼び止めて悪かった。行ってこい、フキ」


どこか切なそうな笑みを浮かべて、アンジールさんは俺を見送ってくれた。
だからこそ、この作戦でウータイとの戦争が終わったとしても、今まで通りにいられるなんて、期待しちゃいけなかったんだ。
この時の俺は、ザックス以上に甘く、薄っぺらい理想に酔いしれていた。




土堀や石畳の小路は、昔ながらの街並みの中に現代の生活が自然に溶け込み、独特の風情が漂う魅力的なエリアが砦の中に広がっていた。
戦争でなければ、ウータイの豪華な建物と美しい庭園を楽しめていただろうな。

ただでさえ、迷路のような砦内を効率よく巡りたいのに、ザックスが全ての道順を埋め尽くしたいのか迷っているのか、さっきからやたらと敵に出くわしていた。
いくら陽動を担ったとはいえ、これは……要領が悪く思える。


「うわっ、また出てきた!」


回廊の途中に設置された回転扉にザックスが触れ、ウータイ兵の増援が俺達二人の前に湧き出てくる。
俺達二人は背中合わせになりながら、敵と間合いを取り、呼吸を整えると目の前の敵を近場にいる方から斬っていく。
遠距離武器を持つ敵には、レイピアを高速で振りぬき、地面を這う衝撃波を放つ魔神剣で仕留める。
近距離にいる敵には、烈破掌で掌底を叩きこみ、気を炸裂させて吹き飛ばした。

自分のノルマを達成させ、チラリとザックスの方を見やるが、無駄な心配だったらしく、彼を取り囲んでいた敵は全員地面にだらしなく伸び切っていた。


「や〜るぅ!アンジールの言った通り、すごい剣技だな」

「その分、パワーがあるザックスが羨ましいよ」

「ハハ、力仕事は任せろ!」


互いの拳を突き合わせ、ハイタッチを二回バンプして、指を絡めた握手をする。
相手への敬意と健闘を讃えた、ハンドシェイクだ。

俺達二人にしかわからない、内輪ノリを終えると、気持ちを切り替えて複雑な回廊を抜け出した。



回廊を抜けると中庭に出、中央の一際大きい建物に俺達は入った。
床に書かれた字や、壁際に置かれた銅羅とかを見る限り、ここは円形闘技場のようだ。

ザックスはあっけらかんとした態度で、闘技場の中央まで歩いていく。
特に何もないと判断したザックスが、闘技場の中央から去ろうとした時、頭上から獣のような咆哮と共に、筋肉の塊みたいなモンスターが二体降ってきた。


「ザックス!各自で一体ずつ倒す方向でいいか!?」

「よゆー、よゆー!」


ザックスから承諾を得て、マンツーマンでモンスターを倒すことになった。
が、見た目通りパワーのあるモンスターで、攻撃のモーションもデカく、回避しながら攻撃していくのは骨が折れた。
モンスターの攻撃を剣で受け止めても、想像以上の敵の腕力にガードが崩される。


(重い……な……!)


片膝をついた瞬間、次の一振りが来そうだった。
まともに受けたら、やられると本能的に察知し、転がりながら俺は距離を取る。

ドンッとさっきまで俺がいた場所に、鈍い音を立てて、モンスターが持っていた棍棒で床に大きな凹みができていた。
避けれて良かった……。


モンスターの動きが鈍いため、俺はそこを見逃さず、床に叩きつけられた棍棒を踏み台にして、飛翔する。
高く飛べたのを利用して前転運動の遠心力を乗せ、剣を叩き込む。

その渾身の一撃で、俺が相手をしていたモンスターは地に崩れ落ちた。
ノルマを達成し、ザックスの方も気がかりだった俺は、彼に目を向ける。
ちょうどその時、ザックスもモンスターを倒したところだったのか、俺が戦ったモンスターと僅かな差でザックス側のモンスターが倒れると同時に、その後ろから軽い怪我を負ったザックスの姿が見えた。

手当をしようと急いで駆け寄ると、ザックスの携帯から着信音がなる。


「支障がない程度に治療できるから、出ろよ。ザックス」

「サンキューな。ソルジャー・クラス2ndザックス、向かうところ敵なし!」

『上出来だ。急いで離脱しろ。あと5分で爆発するぞ』

「了解!」


ザックスが電話を切ると、俺たちは闘技場を出ることにした。

ところが、爆発まであまり猶予は残されていないというのに、ザックスは一向に闘技場を出ようとしない。
闘技場の隅で、どこにいるか分からないラザード統括に声をかけている始末。

出入り口まで走っていた俺は、ザックスを急かす。


「ザックス、早く!」

「悪りぃ!急げ、俺!」

「! ザックス!避けろ!!」

「えっ!?」


退路を確保していた俺の方からは、ザックスに目掛けて落ちてくるモンスターが天井にいたのが目に入っていたのだ。
ザックスが持ち前の反射神経でモンスターの襲撃をかわせたことに、俺はほっとした。

モンスターはついさっきまで、俺とザックスが相手していた奴と同じ種類みたいだ。
だが、さっきの奴らよりも図体はデカく、パワーも倍らしい。

モンスターが手に握っている鉄球を真横に放り投げると、闘技場が半壊していた。


譜歌の詠唱に入ろうとしたが、ザックスには余計なお世話だったらしく、モンスターは彼に瞬殺された。かに思われた。

不用意に近づいたザックスが、辛うじて最後の足掻きを仕掛けたモンスターに、殴り飛ばされる。
一瞬のことで見切れなかったが、立ち上がる埃や木屑の煙で、ザックスは闘技場の柱に打ち付けられたことが推察できた。


「ザックス!」


ザックスに狙いを定め、にじり寄るモンスターの背後を取ろうとレイピアを投げた。
しかし、モンスターの皮膚が硬いのか、レイピアはガチャリと不吉な音を立てて折れてしまう。
これだから支給品は……!


モンスターが、鉄球をザックスに振り下ろそうとしたその時、俺の横を黒い何かがもの凄い速さで通り過ぎた。


ブスリ、と綺麗な袈裟斬りを後ろから受け、モンスターは正真正銘の最期を迎えた。
モンスターを仕留めたのは、アンジールさんだった。


「またひとつ貸し、だ」


反則のかっこよさだ。
アンジールさんが手元を見ると、いつもの支給品のレイピアではなく、愛剣のバスターソードが握られていた。

それにザックスも気づいたらしく、目を泳がせながら問いかける。


「それより、その剣、欠けちゃったりしたんじゃないの?」

「剣よりもおまえの方が大切だ−−ほんの少しな」


痺れるようなアンジールさんの言葉に、俺はそれ以上、二人の間に入り込むことなど出来なかった。
あれは、ザックスとアンジールさんの二人が培ってきた時間や関係があるからこそ、相手に言える言葉なんだ。



少しばかり悔しい気持ちが、俺をその場にいるのを気まずくさせた。








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