TOA×シリーズ


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ジェネシスさんが大量の2nd、3rdクラスのソルジャー達を引き連れて、神羅を脱走してから一ヶ月。
俺はあの時のこと忘れたくて、ラザード統括にせびり、モンスター相手の実戦任務ばかりを斡旋してもらっていた。


ジェネシスさんがいなくなったばかりの頃は、セフィロス師匠やアンジールさん、ラザード統括や軍のお偉いさんと言った、沢山の人に事情聴取をされまくる忙殺の日々を半月送った。
その最中、ジェネシスさん達と行った任務の唯一の帰還者と言うことで、晴れてソルジャー・クラス1stに昇格……してしまった。

ラザード統括に「おめでとう」と言われた時は、即刻昇格の取り消しを頼んだが、神羅としてはソルジャー……しかも、クラス1stの人間が脱走したなんてゴシップを世間に存知されたくないらしく、ジェネシスさんの穴埋めも早急に必要だという事で、俺の直談判は虚しくも、統括や残りのクラス1stメンバーには聞き入れてもらえなかった。
これじゃあ、コネでクラス1stになったみたいじゃねーか。
いや、ソルジャーになった時もコネだったけどさ。

コネだけでソルジャーになったんじゃないってことを証明しようと俺は、躍起になりながら任務や修練で戦闘技術の向上を図った。



今日も実践任務の後にトレーニングルームを貸し切って、俺はひたすら修練に明け暮れた。


仮想世界での百人組手のミッションを操作版に打ち込み、対人戦を行おうとするが、自分に向かって走ってくる兵にレイピアを振り下ろそうとする度、タンブリン山で殺したウータイ兵の亡骸が忘れられなくて、癖になってしまった嘔吐反射で吐き気を催す。


「おぇっ……!」


吐瀉物を吐き出すわけでもないのに、発作のように起きる生理的な反射が、憎たらしく思えた。

名工が打った剣でもないのに、たかだか支給品のレイピアが、人を殺したあの感覚を落としてくれない。
今でも剣を握ると、皮膚を裂き、何重にも重なった脂肪と肉を突き刺す感覚が、刃先から水が流れ伝うような速さで柄まで降りてくる。思わず、レイピアを床に放り投げた。

だからと言って、急いでレイピアを取りに行くわけでもなく、俺はその場に座り込むと、揃えた両膝の中に顔を埋めた。



「ここの使用時間、とっくに過ぎているぞ。フキ」


声のした方に、頭だけ起き上がらせて仰ぎ見る。
こんな情けない姿、見せたくなかったな……。

三日かかる任務を半日で終わらせて戻ってきた、セフィロス師匠に力なく笑ってみせた。
俺の愛想笑いなど、お見通しと言わんばかりに頭を利き手で掴むとぐしゃぐしゃと撫で回す。

撫で回すセフィロス師匠の手が止まると、俺は思いっきり甘えるように師匠の手の平に頭を寄りかからせた。


「フキ……人を殺すのが怖いか?」


そんなの当たり前だ、と言いたげに俺はセフィロス先生の手から頭を外した。


「慣れなきゃいけないのは分かっているんです。でも、どうしてもあの感覚が……人を斬った時の感覚や圧倒的な紅が……記憶が蘇る度に、動けなくなるんです」


セフィロス師匠の、あの魔晄と同じ色をした目に見つめられると、本音を話そうとする声が震える。
声だけじゃない。足や手の震えも止まらない。

こんなことが起きる度に、俺はここに何のためにいるんだろうと悩まされる。


「だから、モンスター相手の任務しか受けていなかったのか……」

「はい……」


何が、ソルジャー・クラス1stだ。
この様では、足手まといになってばかりじゃないか。俺。


俺の覚悟の足りなさに見兼ねたのか、セフィロス師匠は先程投げ捨てた俺のレイピアを出し、空いた手をレイピアで切って見せた。
横一直線に切れた皮膚から、ドバドバと紅い血液が滴り落ちる。


「なっ、何をしてるんですか!?セフィロス師匠!」


思いもよらない師匠の行動に、俺は激しく動揺し、心臓の鼓動が速くなった。
動揺を師匠に悟らせまいと、切った手の平を俺の両手で包み込み、治癒術をかける。

傷は綺麗に塞がったが、流れ出た血液が俺の両手を紅く染めた。
それを見て、独特の臭いを嗅いだ瞬間、動揺は頂点に達し、強烈な吐き気が襲ってきた。

ヤバい、我慢できない……!
考えが過ぎるや否や、俺はえずく。


「この程度では、失格だな……ただちに克服しろ。できなければ、ソルジャーをあきらめろ。足手まといのソルジャーなど、神羅には必要ない」


師匠は冷静な表情でそう告げた。

とうとう、師匠にまで見捨てられた。
やっぱり……俺は、……役……立た……。


「いいか、フキ。血が怖くない奴なんていない。俺もアンジールも、あのジェネシスさえも、初の実践任務で人を殺した時、怖かったはずだ。だが、この闘いこそがソルジャーとしての闘いでもあると、お前くらいの頃の俺達は自覚した。俺達が怯むわけにはいかない」


涙で滲んだ目からも、セフィロス師匠の表情は固く、真剣なものだったがしっかりと窺えた。


「例え味方だろうと、敵だろうと、俺たちが触れているものは一人の人間が流す血……生命(いのち)そのものだということを忘れるな」

「いのち……」

「そして、ソルジャーになった理由もだ」


理由……。
最初は、ツォンに強制で連れられて来たから、ソルジャーになるしかないって思ってた。

でも、今は色んな人たち出会って繋がって、自分の意思でソルジャーでいたいって考えるようになった。


セフィロス師匠が拾ってきたレイピアを手に取り、柄を握る。


「最初こそ、違ったかもしれないが、お前は大事な人を守るためにソルジャーであり続けようとしているんだろう?もし、その大事な人が敵にやられそうになった時、お前は黙って見ているのか?」

「いいえ」


これには、首を横に振って即答した。


「傷つけるのは自分だけにしてほしい……なんて、そんな弱者の都合を敵は聞いてくれない。本気で強くなるということは、勝たなければいけない時に戦える力を身につけることだ」


天啓が下ったような閃きが、暗雲が立ち込めていた俺の胸の中を照らしてくれた。
それほどまでに、セフィロス師匠の言葉は凄まじい光、そのものだった。


「3rdレベルの任務に就くのは終わりだ、フキ。来週から、アンジールが推薦している奴と一緒に、この前の雪辱をもう一度、ウータイで果たしてこい」

「はい……師匠!」


セフィロス師匠に背中を押されて、俺は晴れやかな心持ちで籠城に使っていたトレーニングルームを飛び出した。








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