TOA×シリーズ


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「作戦内容は、ブリーフィングルームで聞いた通り、天然の要塞となる地形を持つタンブリン砦の攻略だ。いくらシュミレートを重ねたところで、地の利は敵にある。大勢で攻めるより、九つの分隊を三隊にずつ左右正面に配置し、砦を落とすぞ」

「「「はい!」」」


統括からウータイで砦を攻めろとは言われたが、どう攻めるかまでは1stのジェネシスさんの判断に任せるとのことだ。
LOVELESS以外のことで饒舌に話すジェネシスさんを見るのは、なんとも稀有で驚くことばかりの光景だった。


その後、俺はタンブリン山の麓の右翼側の分隊に配属され、山道を登っていた。
訓練でそれなりに体力をつけた方だと思っていたが、山などの登り降りするための体づくりはしていなかった為、他のソルジャー達に比べてすぐに息が上がる。

数十分かけて、中腹辺りにまで来ると、右翼側にあてがわれた三つの分隊は小休憩を挟む。


「おい、そこのお前!」


水分補給を終えたところで、ソルジャーの一人が俺に声をかけてくる。
そちらに顔を向けて立ち上がれば、反射的にそいつも立ち止まる。

確かこいつは、俺の隊の分隊長らしき男だったような気がする。


「なんスか?」

「セフィロスさんやジェネシスさん達の秘蔵っ子なんだろ?索敵ぐらい、できるよな?」

「できますけど、メンバーは俺一人ですか?」

「五歳のお子ども様じゃないんだ。一人で十分だと思うが?」


分隊長の揶揄で、辺りから下卑た笑い声が上がる。

そんな周りの雰囲気に歯噛みするが、こんな奴らと一分一秒でも長い時間離れられるなら、索敵でもなんでもやってやるさ。
俺は索敵に行ってきます、と述べると逃げるようにその場から去った。

本当は剣でも抜いて、コテンパンにしてやりたかったが、アンジールさんの同士討ちは軍律違反だ、という言葉を思い出し、ちょっとやそっとの侮辱ぐらいは耐えるしかないと自分に言い聞かせる他なかった。
すぐにでも分隊長に言い返したかった言葉を、山道から外れたタンブリン山の密林で俺は喚きたかった。



密林を進んで行くと、俺が立っている崖の下に異国情緒が溢れる要塞が見えた。
これが、今回俺たちが攻め落とす砦なのだろう。

暫くその場にうつ伏せになりながら、砦の作りや兵の配置を観察する。
数十分が経って粗方、ウータイ兵の配置や巡回ルートを頭に叩き込むと、俺は自分の隊に戻ることにした。

うつ伏せ状態から起き上がり、汚れのついた体の前面を両手で払い落としていると、後ろからパキッと音がした。


「死ねっ!神羅の犬め!!」


浴びせられる罵声を合図にして、振り向くと同時に俺の利き手は剣の柄を握り、鞘から抜き取ると対象物に向かって、刀身は分厚い肉の中へと吸い込まれるようにウータイ兵の鳩尾に刺さっていた。

訓練で切り刻んだりしていたズダ袋とは違い、突き刺す時の重みとそれによって湧き水のように溢れ出す、鮮血。
全身にかかってきそうな重みから逃げようと、覆い被さりそうになるウータイ兵を剣で刺したまま、押し退けて倒した。

物理的な重さが消えたというのに、入れ替わりで違う重みが俺にのしかかって来る。
襲ってきたウータイ兵は、俺を殺そうとした時のような恨言を返してくれるわけでもなく、物言わぬ死体となって俺を責めていた。

完全にウータイ兵が事切れたことに俺はハッとなり、口元を手で覆うとした。
だが、いざ手のひらが口元まで来ると汚臭の生臭ささで、返り血が顔につくのも構わず、間に合わずに吐瀉物を吐いた。


「おうぇええっ!」


ウータイ兵の死体と俺がしゃがみ込んでいる空間だけを綺麗に切り取り、密室に閉じ込めたかのように血の臭いがそこだけ充満していた。


吐くものがついに無くなって、短く早い俺の呼吸だけが音となり、それが唯一、静まりかえった孤独な世界から俺を救ってくれていた。




「フキ、こんな所にいたのか!?」


初めて人を殺し、堪え難い恐怖と纏わりつく吐き気のせいで横向きに倒れていると、俺を抱え起す腕が必死で呼びかける声の主だということを証明してくれる。
起きあがろうと、俺を抱えてくれている人間の肩口に一度、頭を置く。
そして、うつらうつらする意識を無理矢理覚醒させる。


「ジェネシスさん、なぜ、右翼側に?」

「お前がここで倒れている時に、すでに砦に奇襲をかけていたんだ。砦を落とすことは叶わなかったが」

「なら、俺の昇格は無しですね。なんの武功も上げてません」


乾いた笑いで、昇格を蹴ったことを俺は自虐的に話す。
ジェネシスさんから少し呆れたような、でも、ほっとしたような笑いが溢れた。



「フキ。正式に俺に……俺だけを師事しないか?」

「どういう、意味ですか?」


俺に向けていた顔を、ジェネシスさんは密林に覆われた夜空に移した。
その横顔は、今まで見たこともない穏やかな顔をしていた。

きっと、ジェネシスさんの問いかけに賛同していれば、この顔をずっと間近で見られるような気がしてならない。


でも、俺は……。


「何を言ってるんですか!ジェネシスさんも、アンジールさんも、セフィロス師匠もこの先ずっと、俺の師匠でいてくださいよ。まだまだ、学ぶことがいっぱいあるんですから!!」

「……そうだな」

「はい!」

「他のソルジャーはもう、帰還している。タークスに迎えを来させてやるから、お前はこれでも食べていろ」

「えっ、もう他の奴ら、帰ったんですか!?……っと、バカリンゴありがとうございます!」


どうやら、俺が気を失っている間、作戦は終わってしまったらしく、俺以外のソルジャーは皆ヘリに乗ってミッドガルに帰ったんだと。あのクソ分隊長め……!


俺はジェネシスさんから投げ渡されたバカリンゴを頬張りながら、タークスに電話をかけに行った彼を見送った。
去り際、何かぼやいてたようにも聞こえるけど、俺のいる位置からはジェネシスさんが何を言っていたのかまでは、聞き取れなかった。




「お前が"セフィロス師匠"を選ぶのは、分かっていたさ……」




× × × ×




「おい、シスネ!いくらお前でも、嘘つくんなら、許さねーぞ!!」


俺はシスネの胸ぐらを掴みながら、怒声を浴びせる。
とりあえず、この手を離せと彼女の両手が俺の手を優しく包んだことで頭が冷え、彼女の胸ぐらから即座に手を離した。

彼女も乱れた襟元を直しながら、俺に真剣な眼差しを向ける。


「ウソじゃないわ。ジェネシスは、戻ってこない」



−−彼は、今回の任務を境に姿を消した。あなたを除いた、大量の2nd・3rd達と。


ジェネシスさんと入れ替わりに、俺を迎えにきたシスネは合流して真っ先に凶報を告げた。


今では餞別となってしまったバカリンゴの味を、俺は嫌いになることができなかった。
バカリンゴをくれた、ジェネシスさんも。








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