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「昇格試験!?俺が!?」
いつもの如く、ソルジャークラス・1stの三人のうちの一人、アンジールさんの訓練を受けている最中にその話はやってきた。
「ああ。神羅がウータイと戦争をしているのは、知っているな?」
「はい。確か、ウータイで魔晄炉建設するしないとかで揉めてるんですよね?」
「まあ、端的に言えばそういうことだ」
「で、そのウータイ戦争に行ってソルジャーとしての成果を出せば、昇格するってことですか?」
地位とか権力に関しては、全くもって俺の競争心は働かない。
だから、アンジールさんの話も半分しか聞いていない。
人の命を奪わなきゃ武勲を立てられないっていうなら、クラス1stなんて……クソ喰らえだ。
それに、いくら訓練を積み重ねてきたからと言っても、俺はまだ人を殺したことがない。
それこそ、八番街を除けば、神羅ビルやセフィロス師匠と暮らしている家以外の場所には行ったことすらない。
こんな世間知らずで実践経験のない俺が戦争に参加したからと言って、即戦力になるのだろうか?
そもそも俺って、ソルジャーのクラス、なんだったんだ?それすらも知らないんだけど。
昇格試験に好色を示さない俺に、アンジールさんは急かすような事をせず、遠回しに勧めてくる。
「慎重になるのは当然だが、クラス1stになるには俺やジェネシス、セフィロスの三人の誰か一人でも推薦しなきゃ、昇格するのはまず無理だ。だが、タイミング良いのか悪いのか、三人共お前を今回の作戦に加えて昇格してもらうよう、統括に推薦した」
「そういう時に限って、息を合わせないでくださいよ!」
「心配するな、今回の任務にジェネシスが着いてきてくれることになった。それに俺達三人がお前をソルジャーとして育てて来たんだ。お前には十分、ソルジャーとしての資質も実力も身についてる」
「アンジールさん……」
いやいや、騙されるな。俺。
自分の子が見習いの過程を終えて、晴れて一人前になりましたね、みたいな親の顔をするアンジールさんに思わず、流されかけられたけども。
「でも、ジェネシスさんは戦争に参加して大丈夫なんですか?この前、トレーニングルームでセフィロス師匠と派手にやり合って、怪我したとか聞きましたよ?」
ジェネシスさんが戦場に行くと聞いて、俺は数ヶ月前のことを思い出した。
俺はちょうどその日、クラス1stの三人組と行動を共にしておらず、家に帰ってきた時にセフィロス師匠から結構濁した事後報告を聞いたのだ。
そのことがきっかけなのか、俺もセフィロス師匠もジェネシスさんとは会えていないし、ジェネシスさんも俺と師匠を避けているみたいだった。
「その時の怪我なら、完治した……。ウータイでの任務は一週間後だ。それまでに準備を整えておけよ?フキ」
なんとも歯切れの悪い切り方をされ、アンジールさんはトレーニングルームから去ってしまった。
ジェネシスさんのこと、聞かなきゃ良かったのだろうか?
でも、どんなに悪いことだったとしても、ジェネシスさんの話を聞かないことを選んだら選んだで、俺は絶対に後悔するんだろうなぁ。
訓練後のストレッチと部屋の後片付けを済ませてから、俺もトレーニングルームを出た。
その日の夜、家でセフィロス師匠が帰ってくると俺は、師匠と昇格試験のことで話し合う。
「師匠、俺のことを1stに推薦してくれてたんですか?」
「まあな。アンジールも、今のお前ならどんな任務に出しても大丈夫だろうと言っていたしな」
「ハハッ、ありがとうございます。それと師匠、ジェネシスさんも俺を推薦してくれていたみたいなんですが、師匠は最近ジェネシスさんと会うことがあったのですか?」
禁句とまではいかないが、この数ヶ月、俺と師匠はジェネシスさんの名前すら話題に上げるのを避けていた。
それなのに、1stの三人が俺を昇格させろと上に推薦してくれたのだ。
ジェネシスさんの話題をそろそろ、解禁してもいいはずだろうと、俺は躊躇なく師匠にジェネシスさんのことを尋ねた。
「会ったというか、廊下ですれ違ったが正しい。お前を推薦したという話も、ジェネシス本人からではなく、アンジール伝いに耳に挟んだだけだ」
やっぱり、まだ和解はできてないのか。
うんざりというか、参ったような面持ちで師匠はジェネシスさんの話題を投げ捨てた。
これ以上は、師匠の機嫌を悪くさせるだけだと悟り、俺は別の話を振る。
「そういえば師匠、俺、前から疑問に思ってたというか、聞かなかったから知らないだけなんですけど……」
「なんだ?」
「俺って、ソルジャーのクラス、2ndなんですか?それとも3rdですか?」
淹れたてのコーヒーが入ったマグカップを師匠に差し出したが、俺の話の振り方が悪かったのか、受け取った瞬間、師匠はマグカップを床に落とした。
そして、今までにないぐらい驚き、俺を凝視している。
「お前……自分のクラスを把握してなかったのか?」
「勿論です。誰にも、"お前のソルジャークラスはこれだ"と言われなかったものですから」
開き直って師匠に言い切ると、久しぶりに大きい長息が師匠の口から吐き出された。頭も抱えている。
最近、俺の訓練に付き合ってくれなかった罰だと師匠に向けて、俺は爽快なしたり顔を示すのだ。
× × × ×
ソルジャーとしての、自分の階級を知らなかったという衝撃の日から一週間が経った。
いよいよウータイに乗り込む日、もとい、昇格試験の日がやってきた。
ブリーフィングルームで統括から任務の詳細を聞き、それが終わると急いで足早にヘリポートに向かい、指揮官のジェネシスさんに挨拶をしに行く。
数ヶ月間避けられていたから、ジェネシスさんに無視されることも覚悟の上で、もう一人の師匠に駆け寄った。
「ジェネシスさん、よろしくお願いします!」
「ああ、今日はお前の初任務だったな。死ぬなよ。俺が後でセフィロスにどやされる」
「は、はい!」
俺とセフィロス師匠を避けていた事などなかったかのように、ジェネシスさんは普段通りの憎まれ口を叩いてくれた。
在りし日のジェネシスさんとの関係に戻れたみたいで、俺は体が震えるほど喜びがこみ上げた。
ジェネシスさんとは、乗るヘリも一緒だったから、ウータイに着くまでの間、俺とジェネシスさんは他愛ない話題で、久しぶりに心を通わせていた。
俺は満足感から浮かれっぱなしだった。