TOA×シリーズ


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「合同、練習?」

「そうだ。来週の水曜に、2ndと3rd達の何十人かを集めてやろうと思っていてな」

「へぇ〜」


雑談を交えながら、俺はアンジールさんにトレーニングルームで稽古をつけてもらっていた。
師匠やジェネシスさんは任務に駆り出されているので急遽、アンジールさんに面倒を見てもらうことになったのだ。


「そこでなんだが……フキ、お前も合同練習に参加してみないか?」

「えっ……」


アンジールさんが持ち出した誘いに、俺は言葉を失う。


「嫌なのか?」

「嫌……ではないです」


正直に言うと、心境的には不安になる誘いだ。
ただでさえ、裏口入社の立場である自分を、士官候補の時からソルジャーとしての訓練を積んでいる彼らにとっては、この上無いくらい妬ましい存在だろう。
更に言うならば、自分は養成所にも通わず、ソルジャーのトップであり、英雄と謳われるセィフロス師匠とその友人のジェネシスさんに指導してもらっているのだから、余程の自信家でない限り、一般のソルジャー達の訓練に加わる気など起きない筈だ。

ソルジャー・クラス1stである三人の有名人に世話を焼かれている時点で、俺は心許ない思いを常に感じていた。


「まあ、無理にとは言わん。……来てほしいとは思うがな」


アンジールさんは名残惜しそうに呟く。
そんな顔をされたら、ちょっと良心が痛むじゃないか!

何か声をかけねばと思い、アンジールさんに話しかけようとした時だ。


ピピピピピ…


アンジールさんの腰から、電子音が鳴り響く。
ポケットから携帯を取り出すと、アンジールさんは手慣れた手つきで操作する。


「どうやら、俺にも急遽任務が入ったようだ」


携帯画面を閉じると、普段は緩やかな視線を真剣なものに変え、空色の瞳が俺を捉える。

「フキ、悪いんだが、合同練習で使うために仕入れたマバリアのマテリアを、俺の代わりに道具屋に行って、取ってきてくれないか?」


急用の任務らしく、アンジールさんの顔は焦燥感で満ちている。

さっき、アンジールさんに失礼なことしちゃったし……お使いぐらいは頼まれよう。


「わかりました、任せてください」

「頼んだぞ。場所は八番街のLOVELESS通りだ。分からなかったら、周りの大人に聞くんだぞ?」


俺の頭をガシガシと撫でて、アンジールさんはお金を俺に渡すと、足早にトレーニングルームを去っていった。



× × × ×



「迷わずにこれた……!」


渡された地図の通りに進み、俺は八番街の噴水広場を突き抜け、LOVELESS通りにやって来た。
栄えた地区のようで、人通りが多い。
初めてくる街に俺は目移りした。

勿論、頼まれた用事は忘れたわけではないので、寄り道せずに目的地へ向かう。


(あ、俺の好きそうな店、発見!)


途中で俺を誘惑する店が何件かあったけど、お使いの役目さえ果たせば、あとは何をしても自由だ。
楽しみは後にとっておこうと、視線だけはそちらに向け、店の場所を把握するとすぐに前へ戻す。

目的地の道具屋を見つけるのに、そう時間はかからなかった。


「まいどありー」


店員からお釣りを受け取り、俺は駆け足で道中、見つけた雑貨屋へ向かった。
そう急がずとも店が逃げるわけではないけれど、好奇心が勝り、急がずにはいられなかった。


雑貨屋に入ると、店内に焚かれた香の匂いが俺の鼻を擽る。
どうやら、アフリカン系の雑貨屋のようだ。
天井には服や染め物の布が垂らされている。

店の奥へ少し進むと、アクセサリー売り場が展開されていた。
元々、アクセサリー好きな性格でもあるので、自然と売り場に引き寄せられるように歩み寄る。
俺は流眄で商品を見ながら、何か掘り出し物は無いかと考えていた。

そこへ、一組のボールピアスが目に入る。
デザインはシンプルなもので、素材はステンレスでできているようだ。

ピアス穴を開けていない為、買う意味なんてないのだろうけど、どうもその品が気になってしかたがない。
この際、これを機にピアス穴を開けるのもいいかもしれない。

そんな考えが脳裏に過り、俺はそのボールピアスに手を伸ばした。


「え?」

「あ!」


ピアスを掴んだ俺の手の上に、他者の手が重ねられる。
俺は反射的に、手を重ねた者の方へ視線を向けた。


黒い髪に、アンジールさんと同じ空色の瞳。
あどけなさが残る、少年の顔だ。

お互いの視線が絡み合うと、手に持っているピアスが自然に俺の手から離れていく。
ポス、と重力に身を任せて地にピアスが落ちると、互いに、はっとした顔でピアスを拾おうとする。


「ほらよ。これ、欲しかったんだろ?」


素早くピアスを拾ったのは、少年の方だった。


「でも、君も欲しかったんじゃないの?」

「そーだけどさ、俺、穴空いてないし」


髪をかきあげ、自分の耳を指しながら少年は緩頬する。

もしかして、この子も俺と同じような事を考えたのかな?


「だったら、このピアス、片っぽずつ分け合わない?片売りしてるみたいだから」


俺は片売りと表示された紙を指しながら、少年に提言する。


「まさかお前も、ピアス開けてなかったり?」

「するね」


やっぱり、俺と少年は同じ考えを持っていたらしく、自然と意気投合した俺達は麗らかな表情になる。


「お前となら、お揃いのピアスも良いかも!」

「俺もそう思う!!」


双方の同意の上で、俺は手にしたピアスをレジへ持っていく。

会計を済ませて店を早々に出ると、包装紙から買ったばかりのピアスを取り出した。
厚紙から片方だけピアスを取り外し、それを少年に渡す。


「ありがとな。俺、ザックスってーの。お前は?」

「フキ。フキ・フォン・ファブレ」


自己紹介を軽くすませ、握手を交わす俺達。


「フキはさ、どっから来たんだ?」

「俺、神羅ビルから来たんだ。ザックスは?」

「奇遇だな!俺も神羅ビルから来たんだよ!!」


思わぬ偶然で、話は盛り上がる。


「じゃあ、俺達いつでも会えるね」

「だな。俺、基本はソルジャーフロアにいるから、会いに来いよな!」


ってことは、ザックスってソルジャーなのか?


「ザックスは、ソルジャーなの?」


俺は確認の為に、尋ねてみる。


「おうよ!今は2ndだけど、いずれはクラス・1stになって、セィフロスみたいな英雄になるんだ」

「ちゃんとした夢があって、すごいね」


自分のことじゃないけれど、師匠の事を目標にしてソルジャーになったって言われると、なんだか嬉しいな。


「もっと強くなって、1stまで登り詰めたら、女の子にモテるしな」


一瞬でもザックスのこと、偉いなって思った感動を返してほしいよ……。


「そっか。ザックスは、強くなりたいのか」

「男だったら、誰だって強くなりたいと思うだろ?」


さも、それが当たり前のことだとザックスは首を傾げる。


「確かに強いっていいことだけど、強い以外にも必要なことって世の中にはあると思う」


それがどんなことなのか、まだ理解はできないけど。
でも、力以外にきっと何か、大切なことがあると思ったから。


「フキって、俺の知り合いと似たようなこと言うんだな」

「知り合いと?」

「うん。よくわかんないけど、ソルジャーになりたかったら、夢と誇りを持てとか言われる」


ザックスの知り合いの言葉に、俺も頭を傾げるが、なんとなく伝えたいことはわかる気がする。

ソルジャーとしての信念、みたいなものかな……?
もっと複雑な気もするけど。

アンジールさんに今度、聞いてみよう。


「あぁ!もう昼休み終わっちまう。フキ、わりぃけどまた今度な!!」


ふと思い出したように、ザックスは慌てて駆け出す。
力いっぱい俺に手を振りながら、彼は走り去っていった。

その後ろ姿が、落ち着きのない仔犬みたいで、俺はほくほくした気持ちになりながら、ザックスの背を見送った。







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