09
俺が超振動で半壊させてしまったが為に、トレーニングルームは一ヶ月くらいかけて建て直しすることになった。
当然、稽古する場がないので、代わりになる場所を探した結果、ジェネシスさんの私室を拝借することにした。
勿論、剣の稽古はやらないよ?
危ないし、家具とか壊れたら迷惑だから。
それぐらいの一般常識は、俺にだってありますよ。
ジェネシスさんの私室を拝借してまで何をするのかというと、この世界の一般教養を教えてもらうために、座学用の部屋として使わせてもらうのだ。
なんでも、ジェネシスさんの部屋には大量の本があるから、それ使って勉強しろよ的な事を師匠に言われた。
まぁ、この世界の基本的な理を知っておいて損はないしな。
俺が日常生活以外の事を知らないので、一から丁寧にこの世界の仕組みを教えてくれた。
頼んでもいないのに、ジェネシスさんが世話を焼いて、魔法の理論とかも教えてくれる。
あいつ、弟子はとらない主義なのに、って師匠は苦笑してた。
そして、知らない間に俺の師匠が勝手に増えていた……。
「今日はマテリアについて、教える」
今日はセフィロス師匠の講義なんだけど、いつの間にかジェネシスさんが講師を務めていた。
師匠に目で、貴方が教えてくれる内容なのでは、と訴えるが、頭を横に振られた。
どうやら、講師の座をぶんどられたらしい。
「魔晄エネルギーが凝縮されるとマテリアができる。マテリアの中には、いわゆる古代種の知識が封じこまれている。大地、星の力を自在に操る知識だ。その知識が星と我々を結びつけ、魔法を呼び出す……というわけだ」
分かりやすいように説明してくれてるんだろうけど、今一つ理解できないなぁ。
魔法って。
「ん〜」
ジェネシスさんの言葉が、わけのわからない単語の羅列にしか思えなくて、俺は短く唸った。
「つまり、魔晄エネルギーが凝縮した形で蓄積された鉱物的な物が、マテリアで、マテリアを媒介として利用し、傷の治療や発火といった様々な効果をもたらすのが…魔法ってこと?」
「理論的に言うと、その通りだ」
当てずっぽうの発言が、運よく合っていたようだ。やったぜ。
「お前、マテリアの使用法も知らないのに、よくあれだけの術技が使えるな」
師匠は呆れ返りながら、俺の顔をまじまじと見つめる。
「確かにな。感覚だけで、あれだけ多才な術技を使えるわけがない」
ジェネシスさんも師匠の言葉に同意する。
「だって俺、マテリアなんか使えなくても、治癒術とか使えますもん」
「「はっ?」」
そんな綺麗にハモらんでもいいじゃないか。
「あれ?セフィロス師匠、俺が異世界の人間だってこと、忘れてません?」
「…………あぁ!」
忘れてたな、この人。
俺もその反応を見るまで、自分の境遇を忘れてたけどさ。
「どういうことだ?」
一人おいてけぼりになっていたジェネシスさんが、尋ねた。
今、思い出した俺自身の生い立ちを師匠の時と同様に、ジェネシスさんへ説明する。
「マテリアを必要としない体質、か」
訳を説明した後、物珍しそうに俺を見るジェネシスさん。
「科学部門の奴等に目をつけられるわけだ」
「タークスにも、だ」
それは初耳だ。俺、タークスにも目ぇつけられてんのか。
「便利だが、一応マテリアは使用しといた方が良いんじゃないか? 俺達は気にしないが、他のソルジャーや軍の連中に不審に思われる」
「それもそうだな。フキ、試しにデスターンのマテリアをジェネシスに使ってみろ」
「殺されたいのか貴様!」
「なんなら死の剣でもいいぞ?」
どんな効果を与えるのか知らないけど、名前からして物騒なマテリアを師匠に渡される。
ジェネシスさんの怒気がはんぱないので、雰囲気からして無闇やたらと人に使っちゃダメなんだろうな。
「フキ、お前のバカ師匠に急所切りを使ってもいいぞ。俺が許す」
ジェネシスさんまで、危険なものを出してきた……。
大人げない二人の熾烈な戦いがヒートアップしていき、気持ち悪いぐらい、部屋中に沢山のマテリアが散乱している。
二人の喧嘩をサクッと、止めるマテリアってこの中に落ちてないかな……?
床に転がっているマテリア達を吟味する。
適当に、手にしたマテリアを二人に向けて意識を集中させた。
「ま、待てフキ!!それは即死効果100%の"デス"だっ!!」
「嘘!?もう発動しちゃいますよ、これ!」
マテリアに強い光が灯ち、魔法を発動させようとしている。
ピキィッ!
途端に、石が砕けるような音がした。
マテリアに灯っていた光が拡散し、手の中の水晶玉が浮遊するような感覚を味わう。
「あっ……」
持っていたデスのマテリアが、ものの見事に、真っ二つに割れていた。
「……どうやらお前は、マテリアとの相性が悪いらしいな」
「そうじゃなきゃ、俺達の身が危険にさらされていた」
「ともかく、二人が無事で良かった……」
二人に怪我がなくって安心したけど、マテリアが使えないのは少し残念に思った。