中編 | ナノ
 小五郎さんと昔話


長い事務作業期間に嫌気がさした俺は、風見さんに直談判という名の駄々をこねて、やっとこさ現場に復帰することが出来た。今日の業務は国外からくる政界の要人が参加するパーティの警備。正直そんなもの、お抱えのボディーガードにでもやらせとけと思ってしまうが仕事は仕事、きっちりこなす。
風見さんと降谷さんも現場にいて、俺のような末端の人間に指示を出している。俺は緊急用に地図の暗記と、日本語が通じない人がいた場合に通訳をする程度しか任せられなかったので、準備が終わり暇を持て余している所だった。まだ参加者もこない、警備の人間しかいない空間で時間までどうしようかとぼーっとしていると、反対側の扉の前に若きあの日に憧れた背中があった。

「あっ……小五郎さん!!」
「んぁ?って、善じゃねえか!!」

そんなに大声を出すつもりはなかったのに、気持ちが前に出すぎてしまい割と大きめの声で呼んでしまった。俺の呼びかけに振り返ったのは、10年ほど前お先真っ暗だった鴻少年の未来を修正してくれた救世主、毛利小五郎さん。と、そのご家族もいた。以前ならばコナンくんがいた位置には、先日の事件で少し顔を合わせたあの有名な高校生探偵の工藤新一くんもいて誰かと話し込んでいるみたいだった。もし事件が起きたとしても今日は俺の出番はないかもな、なんて心の中で笑う。

「結構入院してたって聞いたがピンピンしてるみてーだなあ。」
「丈夫なのが取柄なんで!
「鴻さんって事件の時にたまにお会いしますけど、結構クールな感じだと思ってました…。お父さんの前だと結構イメージ違うんですね!」
「小五郎さんは俺の恩人なんでね。」
「おだてても何もでね〜ぞ、コラ!」

恩人という言葉に気をよくした小五郎に手のひらで背中をドン、と叩かれる。

「今は公安だっけか?忙しいかもしれんがちったぁ顔見せに来いよ。お前は息子同然なんだからな。」
「……!うっす、今度休みにお邪魔しに行きます。」

顔も見たこともない両親を恋しいと思ったことは一度もないが、自分に父親がいるのであれば小五郎さんのような人がいいとずっと思っていたので、息子同然という言葉に嬉しくなる。

「蘭、おじさん、悪ぃ話が長くなって…って、鴻、さん?」
「あ、工藤くん。」
「先日はどうも、お久しぶりです。今日はお仕事でこちらに?」
「警備任せられててね。工藤くんたちはどうしてここに?」
「それは…。」

三人に話を聞くと、このパーティーは政治の話だけではなく、鈴木財閥の開発計画が噛んでいるらしい。「タダで高級ホテルのランチ食べ放題よ!」という文句で園子さんに誘われて来たようだが、タダメシパーティーがあるからという理由で面白くもない政界の集まりに園子さんが蘭さんを招くとは思えないし、招待客に何かあったらすぐ解決したい、ならば蘭さんを誘えば小五郎さんや工藤くんも付いてくるだろうという鈴木財閥トップの下心を感じる。だとしたらかなり信用されてないな、公安。
雑談をしていると蘭さんの携帯に着信があったようで、小五郎さんと蘭さんは園子さんをエントランスまで迎えに行ってくると言ってその場を離れるが、工藤くんは動かない。ちらりと見るとこちらをじっと見ていて、どうやら俺に話があるみたいだ。

「そういえば、おじさんから聞きましたけど、最近まで意識不明の重体だったとか
。以前お会いしたときはすごく元気そうだったので驚きましたよ。」
「最近っていうか結構前にデカいヤマがあって、その解決の時にちょっとね。」
「ちょっとって…、無事解決したんですか?」
「そうなんだよね!俺の上司と、小さな探偵さん…と、FBIの怖いお兄さんが見事に頑張ってくれたよ。」
「それで怪我の方はもう特に問題なく?」
「バッチリ健康体だよ。まあちょっと心残りがあるんだけどね。」
「…心残り?」

立って話すのもなんだから、と新一くんを連れて近くのベンチに座る。

心残り。そう、コナンくんのことだ。
彼とはとある事件で鉢合わせてから、様々な場面で遭遇していた。もはや君が犯人なんじゃないかと言いたくなるくらいの遭遇率だ。そして難解な事件の解決の糸口を見つけては、困った時にヒントをくれていた。彼無しでは解決できなかった事件だってある程に。そして降谷さんが”安室さん”としてポアロで働いていた時にも会えば会話を楽しんでいたし、小学生にしてはかなり優秀な頭脳を持っていたからか歳の差を感じることなく、かなり年下の友達ができた感覚だった。
そのコナンくんも組織壊滅の時、現場に居合わせていた。あの事件を解決した3人の中の”謎の小学生”は彼だ。あの時のことはいつでも思い出せる。


―――


「善さんしっかりして!!もうすぐ救急隊がかけつけてくれるから!!」
「…コナン、くん、は、無事かい…。」
「善さんがかばってくれたお陰で、怪我なんて一つもしてない…!」
「よか…った…。つぎの事件も、たのんだ、よ。…ちいさな、たんてい、さん。」
「善さん!!!目を開けてくれよ!!……善さん!!!」


―――




それが彼との最後の会話。彼とはもう事件が解決してからは一切会えていないし、意識が戻ってから病室にお見舞いに来てくれた降谷さんにコナンくんは元気にしているかと尋ねると、遠くにいる親戚の元へ戻るらしく引っ越してしまったと告げられた。事件の時、迫りくる銃弾から身を挺して庇ったし、爆発する建物から彼を抱えて飛び降りた。あんなにしてやったのにありがとうの一つも言わずにいなくなるなんてなんてガキだ!そりゃあ意識不明の状態が結構長かったわけだし、だったら手紙くらい書いてくれてもいいんじゃねえか!………というのは冗談で、さよならも言わずにいなくなってしまうなんて、とても悲しい。そりゃ自分の倍以上も年上の男を友達とカウントしているかは微妙だが、一年というそれなりに長い時間、「コナンくん」と「善さん」という名前で呼び合うほどの仲になったんだから、別れの挨拶くらいしたかった。とはいえ小学生の男の子に会うためにわざわざ住所を調べて突撃するほどアホでもないので、会いに行くという選択肢もなく、こっちで使っていたスマホは阿笠さんが契約していたものなので連絡もつけようがない。降谷さんには引っ越したと教えてくれたのに、俺には何もない。
バイバイも言わないで引っ越してしまった小学生への愚痴なんて恥ずかしいなと思いながら洗いざらい話すと、工藤くんはなんだか悲しげな瞳で俺を見つめていた。

「そういえば工藤くんはコナンくんにソックリだよね、親戚なんだっけ?」
「は、……ああ!よく言われますよ、ガキの頃にソックリだって。」
「じゃあいつか、コナンくんと会う時があったら伝えてくれるかな。」
「伝言ですか?良いですよ。」
「数少ない大事な友達が急にいなくなっちゃって悲しい、ってね。大の大人が何言ってんだって感じだけどね、俺にとっては大切な友達だったからさ。」
「……必ず、伝えます。」
「うん、ありがとう。」

話題の選択をミスってしまったのか、なんだかおセンチな空気に耐えられなくなりそうだったので、切り替えるために近くの自販機まで工藤くんを誘う。お兄さんが奮発してジュースでもおごるぞというと、ニッコリ笑った工藤くんが「あざーっす」なんて言いながらついてくる。やっぱりその笑顔もコナンくんにソックリだった。

「っていうか、鴻さんって本当に身長高いですね。」
「タッパだけが取り柄だからね、大体190に届くくらい。」
「おじさんよりデカいのか、すごい迫力あります。めっちゃ足長いし。」
「俺が出てくと大抵の犯人はビビってくれるからね、結構便利だよ。」

自販機のラインナップにジュースが存在しなかったので、アイスコーヒーを買って手渡しながらそう言うと、電車乗る時とか部屋入る時とか、頭ぶつけてめっちゃ不便だけどな!というと工藤くんは爆笑していた。

「コナンとは友達、だったんですよね?」
「小学生の男の子となんて変だとは思うんだけど、俺はね!そう思ってたよ!」
「じゃあ、これからは俺とも友達になってくださいよ。」
「え、工藤くんと?」
「俺じゃ不満ですか?」

高校生の男の子に握手を求められながら友達になってくださいなんて言われる日が来るなんて思わなかった。というか友達になってくださいなんて言われたことは今までの人生で一度もない。差し出された手を握り返し、「こちらこそよろしく」と返すと満足気に笑う工藤くんに嬉しさと気恥ずかしさでいっぱいになった。
ニコニコとしている工藤くんの手を離すタイミングが分からなくてたじろいでいると、遠くから降谷さんの声が聞こえる。

「鴻〜〜〜。仕事サボっていると思ったら、高校生と仲良く握手なんていい度胸してるじゃないか…。」
「降谷さん!いやあの違うんですこれ、任された仕事の方は、もう、バッチリっす!」
「やだなぁ降谷さん。これは新しい友との交友を深めているんですよ、な〜善さん!」

いつの間にやら名前で呼んでくる工藤くんの手を慌てて離しながら弁明する。降谷さんに「違うんです」って言うのは今年に入って何回目だろうか。彼と会う時は何故かいつも変な状況で、それについて問い詰められることが多い気がする。

「…まったく、冗談だ。鴻がサボるなんて最初から思っていないよ。」
「よ、良かった…。」
「何やらコバエの気配がしたから飛んでやってきたわけなんだが…どうやら新一くんだったみたいだねえ。」
「おーおー。相変わらず手厳しいですね、降谷さん。」

今をときめく高校生探偵をコバエ呼ばわりとはさすがやりおる降谷さん。工藤くんには全く効いていないみたいだけど。

「さっき入口で毛利さん達と会ってね、ここに新一くんと鴻がいると聞いたから寄ってみたんだよ。そろそろ時間だから戻るぞ鴻。」
「了解っす。」
「僕の持ち場はこの建物の別会場だからね、そう遠くはないけど、何かあった時は頼んだよ、新一くん。」
「任せてください!」
「俺にも任せてくださいよ降谷さん…。」




なーんて言っていたのにまたこの状況か。以前はコナン君が事件ホイホイだと思っていたが、そうではなかったみたいだ。
この会場のパーティーが始まって暫くすると、突然入り口の扉が音を立てて開かれる。一見して分かる、”僕は悪い奴です”と言わんばかりの恰好をした集団が会場に勢いよく流れ込んできて、「動くんじゃねえ」なんてお決まりのセリフを言いながら周りの招待客を威嚇している。外にいる警備たちは何やってんだ…とため息をつくのは許してほしい。
現状を確認すると、銃を持った男は一人だけ、あとは警棒程度の武装。運悪くこのタイミングでこの部屋にいる警備担当は俺だけしかいない。が、腐っても公安。銃が一丁だけならやりようによっては上手く鎮圧できる自信がある。しかしその時、蘭さんを庇いながら新一くんが何やら後ろにあるものを取ろうとした瞬間を運悪く見られてしまった。

「妙な動きするんじゃねえって言ってんだろ!」

銃を持った男が新一くんに銃口を向ける。―危ないと思ったときには体が動いていた。新一くんの前の前に躍り出て銃弾を背中に喰らう。熱した太い針が貫通したかのような痛みが襲い、飛び出した勢いを殺せずにそのまま床に倒れ込んでしまう。その時に頭を打ってしまい、意識が遠のいていく。

「そいつは部屋の隅にでも転がしとけ、他のやつらは動くんじゃねえからな。」

この銃をもったリーダーらしき男の指示に従い、男たちは鴻を部屋の隅にずるずると引きずると部屋にいる全員を縄で拘束し始めた。一部の女性は恐怖のあまり泣き出してしまっている。




先ほどの件で警戒されているせいで、目の前の男に銃を突き付けられながらこの状況を打破する案を考える新一。両手を後ろで拘束されているから出来ることもない、鴻は自分を庇って撃たれてしまった。もう絶体絶命だと思ったその時だった。武装集団の後ろから見慣れた影がゆらりと現れる。先ほど銃に撃たれて倒れたはずの鴻だった。

「高校生に銃向けるたぁ……いい度胸してるじゃねえか……。」
「善…さん…?」

いつもとは雰囲気の違う鴻に驚いて思わず呼びかける新一。
無表情なのは相変わらずだが、眉間には深くシワが刻まれていて相当怒っているのが分かる。頭から血をたらしながら現れた長身の彼に恐怖を感じているのか、銃を持った男は自分が圧倒的有利のはずなのにピクリとも動かなくなってしまった。

「道徳のお勉強を忘れた悪い大人には……公安のお兄さんが正義の鉄拳喰らわすぞゴルァ!!!」

言うが早いか、銃を持っていたリーダー格の男がぶん殴られて吹っ飛ぶ。その衝撃で持っていたハンドガンが新一の足元に転がってきたので、遠くに蹴飛ばす。これで残っているのはナイフや警棒のようなもので武装している者のみ。
死んだと思っていた男の登場に驚いて固まっていた武装集団も、吹っ飛んでいった男を見て我に返り、「やっちまえ!」という小物の決まり文句を言いながら鴻に襲い掛かる。奴らの攻撃を華麗に躱し、殴る蹴る。鴻の動きは降谷のようなボクシングスタイルでもなければ、小五郎のような柔道でもない。あれはどこからどう見ても不良の喧嘩だ。長い手足を生かし、圧倒的な強さで男たちを伸していく姿は修羅にしか見えない。いつもの優しくて冷静な鴻さんはどこかへ行ってしまったのか、「ぶっ殺すぞコラァ!」なんて夜露死苦と言わんばかりの罵詈雑言を添えてあっという間に暴漢を鎮圧してしまった。あなた先ほど撃たれてましたよね。



別会場でも同様の事件が起こっていたらしく、キレッキレの鴻が最後の1人を倒したタイミングで降谷と風見もこちらに合流してきた。

離れたところで鴻が腹部の怪我を救急隊員に見てもらっている間、事後処理が終わった公安の二人が小五郎たちのもとへやってきた。鴻のことが心配で様子を聞けば、どうやら命に別状がないどころか元気な方らしく、適当に処理して戻らせてくださいと言っていたからしっかり叱っておいたらしい。最後にコナンとして一緒に居たときも、迫りくる攻撃からコナンを庇った鴻はそれはもう満身創痍で死んでしまうんじゃないかと思ったくらいだったのに、今日は新一として初めて会えたと思ったら先日の怪我なんて最初からなかったですよと言わんばかりにピンピンしてたから驚いたものだ。本当に不死身なんじゃないかと疑ってしまう程。

「毛利さんと皆さん、今日は巻き込んでしまって申し訳ない…。」
「安室さん…じゃなかった、降谷さんのせいじゃないですよ!あの犯人たちが悪いんです、気にしないでください。」
「蘭の言う通りですよ、降谷さん。……それにしても善さんスゴかったな。」
「アイツは元々地元じゃ有名な不良だったからなあ、俺にとっちゃ見慣れたモンだったな。」
「えー!全然そんなイメージなかったのに。」

突然の小五郎のカミングアウトに声を上げて驚く蘭。周りの人間も初耳だったらしく、声は出さないもののかなり驚いていた。特に降谷は興味津々な様子だった。

「初めて会ったのはあいつが中学生くらいか?」
「ホォー、詳しくお願いできますか。」

降谷の申し出に小五郎は得意げに話し始める。
孤児院でもうまく馴染めず、せっかく入った中学校でも中々友達もできずに孤立していた鴻少年は、見た目のせいで喧嘩を吹っ掛けられることが多かったらしい。当時まだ小五郎が現役で刑事だったころに、集団で襲われそうになっている鴻を助けようとしたら逆にそいつらをボコボコにし返している時に出会ったそうだ。小五郎を見た鴻はそれもう大層不機嫌な顔になって逃げようとしたがとっつ構えて説教をしたらしい。男とは何たるか、「拳で語るより背中で守れ」とかっこよく言った時には中々響かずに暫く町で見かけては追いかけっこをする日々を過ごしたそうだ。
鴻少年が変わったのは、ナイフを持った半グレに襲われた時、小五郎が身を挺して彼を庇った時だった。肩から血を流す小五郎に驚いた鴻少年は「なんで庇った」と問い詰めてきた。さすがにナイフで刺されたのはショッキングだろうし、心配をかけまいと「男の背中は守るためにあるんだよ」と恰好つけると、年相応に泣いて謝ってきたそうだ。彼の幼さを目の当たりにしたその日から、小五郎はできる限り鴻の親代わりになってやろうと中学の卒業式から高校の進路相談まで、蘭の用事に被らない限りは積極的に鴻の面倒を見ていたらしい。そういえば、たまに蘭たちと出かけるときにヤボ用だからパスだと言って不在だったのはそういう事情があったのか。面倒だから逃げているんだとばかり思っていた。
初めて会った時と警察学校の卒業式で撮った写真を見比べると本当に成長を感じて嬉しい、昨日のことのように語る小五郎。「ちなみにその時に撮った写真がコレとコレだ!」と自慢気にスマホを掲げる。スマホの写真を見るために我先にと接近する一同。表示された画像を見てみると、ものすごく目つきの悪い嫌そうな顔をした若き日の鴻少年と強引に肩を組む、同じく若き日の小五郎の写真。新一が代表して画面をスライドすると次に映ったのは警察官の儀礼服を着た今より少し若く髪も短い鴻が「成績優秀者表彰状」と書かれた紙を持ってニッコリと笑い、一つ前の写真と同じく肩を組むスーツを着た笑顔の小五郎が写ったなんとも微笑ましい写真だった。「こんなにしっかりとした笑顔の鴻は貴重だ」と言った降谷がその写真をみて譲ってくれと小五郎に詰め寄っていると、

「ちょっと何してんすか小五郎さん!」
「お、善じゃねえか腹は大丈夫か。」
「お腹壊してトイレ行ってたみたいに言わないでくださいよ!てか!俺の黒歴史掘り返すのやめてください!マジで恥ずかしい!」
「ん−だよいいじゃねえか、俺とお前の大事な出会いの話くらいちったぁ自慢させろ。」
「話すだけでいいじゃないすか!ほんとにやだ!」

遠くから状況を見ていたらしい鴻は、小五郎が見せていたスマホの画面にみんなが反応しているのを見て色々と察したらしく、手当をさっさと切り上げさせて急いで戻ってきたようだった。一生懸命スマホを取り上げようと小五郎に食って掛かる鴻を見ると、本当に親子が掛け合いをしているで微笑ましい。

「小五郎さん俺の話するとすぐこの写真引っ張り出してくるから怖い…。」
「減るもんじゃねえし良いじゃねえか。それに今はこういうギャップがある男がモテるんだぞ。」
「小五郎さんにモテを語られたくないっす!」

小五郎には前科があるらしい。だからと言ってその写真を強引に消させようとしない辺り、鴻にとっても大事な思い出なのだろう。
小五郎が言ってたことにも一理ある。ギャップだ。鴻と言えば落ち着いていて無表情、なのに今日はいつもと違ってコロコロと表情を変える姿に、降谷にも思わず笑みが零れる。彼も親の前では一人の子供なのだろう。

「お前はもう背中で守れるし、拳で語れる大人になったんだな、善。」
「俺もう27っすよ、小五郎さん。」

昔のことを思い出して照れてしまったのかぶすくれて返事する鴻の髪を、父親の顔でわしゃわしゃと撫でる小五郎。

一応現場にいたからと事情聴取を受けた後、新一は無茶をしようとして怪我をさせてしまったと鴻に謝罪しに行くと、「今度は俺に任せてね」なんて優しい顔して言うから、思わずときめきを感じてしまった。後ろから降谷の刺すような視線を感じて我に返ることが出来たが。

この一件のせいで公安の某部署では「元ヤンの鴻」という不名誉なあだ名が少しの間流行し、現場に戻した途端に銃で撃たれるとは何事だと風見さんにしこたま怒られたのは言うまでもない。







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