まおうくん大活躍 | ナノ
 "まおう"のはじめてのおつかい


あれから数か月たち、おれも”にほん”とかいう国に慣れてきた。

乳母のデイジーのお願いを叶えにこの世界に来たけど、やはりニホンゴというものは難しい。特に敬語なんてそうだ。
コナンに敬語を教えてもらったときは、「簡単に説明すると、敬語は言葉の最後に”です”とか、”ます”ってつければいい」と言われた時は驚いた。
デスなんて、魔族の中でも限られたモノしか扱えない上級魔法をこの世界のヒトガタは日常で使っているのかと聞いたら笑われた。
どうやらこの世界のヒトガタ---人間は魔法は扱えないらしい、というか魔力が存在しないらしい。確かにコナンやハカセからは魔力がひとつも感じられなかった。
だから、この世界で目立たずに生きていくには、人間の前で魔法は使ってはいけないらしい。
一人で思い出しながらフフフと笑っていると、後ろでハカセが、

「しまった!」
「どうしたハカセ。」

何かあったのか、と近づく。
ハカセはとてもいい奴だ。最初こそ少し警戒されていたような気がするが、ひとたび打ち解ければデイジーと同じように優しく接してくれる。そんなハカセが大きな声を出すなんて珍しく、何か困っていることがあれば助けてやりたい。

「ああいや、新一に頼まれていたものを渡しそびれてしまったようじゃ。」
「しん…ああ、コナンに?」

最初はコナンのことを新一と呼んでいたようだが、と聞いたら事情があってそう呼んでいる。お前はそういう切り替えが苦手そうだからコナンで通せ、とのこと。

「今日中に受け取りたいと言っていたが…ワシはこのあと用事があるんじゃ。仕方ないメールで謝っておくかの。」
「じゃあ、今からおれが届けるぞ。」
「マオくんがか?!」
「ウン。」
「しかし…いや、頼んでもいいかの。おそらくは毛利さんのところか、ポアロにでもおるんじゃろうが…ちょっと待て地図を…、」
「イラナイ、ニオイで分かる。」
「に、ニオイ…。」

もう突っ込むまい、と言いたげなハカセから荷物を受け取る。中にはキカイが入っていて、強い衝撃は与えないようにと注意された。
両手で大事に持つと、靴を履いて外にでる。この靴というのもおれにとっては驚きだ。魔界では靴なんて履かん。

嗅ぎなれたニオイをたどるように道を進んでいく。
この入り組んだ道はとても面倒で、屋根と屋根を飛び越えていく方が絶対に早いだろう。前にやろうとしたら全力でコナンに止められてお説教を食らったからもう絶対にしないが。
暫く歩いた先にやっと見つけた。道路の反対側、ミセの中にコナンと似たような背丈の数人のコドモと、女が2人いた。
さっさと渡してこの”オツカイ”のご褒美に美味いご飯でも作ってもらおう、と道路を渡りその店に入る。
入ったと同時に2人の女が目を見開いて硬直しているが無視してこちらに背を向ける目標に一直線。


「おいコナン。」
「ん?どうした…の………んなっっっ?!?!?!?マ、マオ?!?!?!」

そういえば前話したときに言っていたような、コナンは”ネコヲカブッテイル”と。
つまり振り返ったときの声と笑顔は余所行きの顔だったらしい。まあその顔もすぐ驚きのあまり崩れてしまったが。

「ハカセがコレ、コナンに渡してほしーって。」
「わざわざ届けに…ってかオメーよくここまで…、
「ちょぉっとガキンチョ!!誰なのよその美しい少年はぁ〜〜!!」
「……はぁ、っぱこうなるんだよな…。」

コナンとの間に割って入ってきたショートカットの女。さっきミセに入ったときに固まっていた片方だった。
さっきまで硬直していたくせにいつのまにか復活したのか、顔を硬直させて鼻息荒く近づいてくる。

「園子おねーさん…えっと、この人はね…、」
「マオ。ニホンじゃないところからきたデス。」
「マオくんってゆーーのねーー!!日本じゃないって言い方からしてぇ〜〜〜海外?!キャ〜〜〜!!海外のオトコノコってぇ、やっぱりお美しいのねぇ…!」
「ちょっと園子!…すいません急になれなれしくって…。えっと、コナンくんのお友達?
「そうだよ!えっと、阿笠博士のところでお世話になってるんだって!そこで友達になったんだ!」

興奮気味にまくし立てる女と、それをなだめる女。挟まれて苦笑いしつつもコナンが上手いこと説明してくれたから、おれから何かいう必要がなくなったのがありがたい。
またいらんこと言ってコナンに説教されるのも面倒だし、コドモはなんだかワクワクしながらこちらを見てるしで居心地が悪いので、さっさと帰ろうと思っていると、コドモの一人がミセの入り口を指さしながら言う。

「あー!安室さんだー!」
「オヤ、お友達かな?」

また新しいニンゲンが増えた。





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