まおうくん大活躍 | ナノ
 まおうと話し合い



”マオと友にポアロまで”という連絡を受けてやってきたコナンとマオ。
いつかはこうやってきちんと話をする日が来るとは思っていたが、いざ話さなければいけないと思うと緊張してしまう。マオの方もさすがに同じなのか、少し硬くなっている。
着いてみれば何やら言いたげな微笑みの安室が出迎えてくれたので、案内されるまま着席する。

「とは言っても大事な話をするのにポアロって、誰か来ちゃったらマズいんじゃないの?」
「今日は定休日なんです。この場を設けるために無理を言ってマスターにお借りしました。」

どうにか話を逸らそうとしたものの失敗した為、観念してマオについて話し合うこととなった。
それなりに日本語が流暢になったものの、自分の説明のせいで話がまとまらなくなるのをマオが嫌がった為、安室もそれを受け入れてコナンの説明を聞き始める。

出会いは偶然、庭に落ちてきたところから始まる。
とある「オネガイ」というものを達成するためにこことは異なる世界から渡ってきた自称魔王のマオは、魔族と言われる種族の一員で、人ならざる力をもった存在だそう。
蘭を始めとする京極、赤井、安室だって普通の人からしたらかなり鍛えていて運動神経は人並み外れているとはいっても、夜空に滞空しているヘリコプターに飛び移れるほどではない。何か一つ見せたほうが早いかと思ったが、人通りが少ない上にガラス張りの壁にはブラインドがついているとはいえ、何かの拍子に道から中が見えるかもしれないこの店で魔術を披露するわけにもいかないのでここで証明することはできない。だけどコナンはこの目ではっきりと見たし、実際先日の事件ではそういった能力のお陰もあって無事だったのが何よりの証明だ、と。

「ナルホドね…、事情は把握した。で、そのオネガイというのは全部達成できているんだね。」
「そうみたいだよ。こういう話、安室さんには受け入れがたいとは思うんだけど、誓って嘘はついてないよ。」
「ウン。全部ホント。」

安室は眉間に指をあてかなり考え込んでいるみたいだった。急にこんな非現実的なことを言われたらそうなるのも無理はない。知り合ってまだ長い時間を共にしたわけではないが、彼がファンタジーの世界と現実を混同するような人間には思えないし、受け入れがたいのも分かる。ただ、あの日のマオを見てしまった以上、理解は追い付かなくても事実として受け止めるしかない。一旦この空気を変えたくて、コナンが話題を振る。

「そういえばマオは元の世界に帰ろうとして博士の庭に落ちてきたんだよな?」
「そうだぞ。」
「だったらまた帰ろうとか思わないのか?」
「……ウン、本当はすぐ帰ってデイジーのお墓に行こうと思ってたんけど、大事なこと忘れてて。」
「大事なこと…?それってその、オネガイっていうのが関係しているのかい?」
「ん。」

コナンとマオの話に興味を持った安室がそう聞き返すと、マオはとんでもないことを言いだした。

「人を生き返らせた」と。

マオの世界には禁術と呼ばれるものがいくつかあって、”禁術”という名前の通りそれを使うと、追放裁判にかけられてしまうのだが、本人的にはそれは問題ないらしい。
マオが使った禁術は3つ。「世界を渡り」「時を越え」「人を蘇らせる」。
世界を渡ったというのは間違いなく、マオがこの世界に来た術だ。時を越えるというのは、「オネガイ」の為に4人の人間を死という運命から救うため、こちらの世界でいう数年を越えて各時間にワープしたようだ。時間というものは進むことしかできず、戻ることはできないらしい。だから今から時を遡り過去を修正するこは不可能。そしてこの二つの術はかなり高位の魔族であれば簡単に使用できてしまうらしい。
一番の問題は、「人を蘇らせる」という禁術。マオの力によって蘇った者は、マオの存在あって生きているようなもの、世界を隔ててしまうと魔力の糸が切れてしまい、その時点でそいつは死んでしまうらしい。魔力によって蘇えった人間との繋がりが切れてもう一度死んでしまうと、もう二度と蘇らせる方法はないらしい。
そしてその人間を生き返らせるのに寿命の一部を削る程の大量の魔力を消費してしまった為、こちらの時間であと100年くらいたたないとその魔力は戻らないらしく、どちらにせよ世界を渡る術は使えなくなっていて当然とのこと。だから術が失敗して、数年間次元の狭間を彷徨ったのちに博士の庭に落ちてきたようだ。

「人を蘇らせるなんて……そんなこと、本当にできるのかい…?」
「こっちの世界のニンゲンには無理だろうけど、マゾクに不可能はないぞ。」
「……その様子だと、安室さんにも生き返ってほしかったお友達がいるの?」

コナンがそう聞くと、安室はとても悲しそうに「ああ。」と短く返す。もしかしてそれは、赤井さんと衝突しているのに何か関係があるのか、とコナンは聞きたくなったが彼の名前を出すと厄介なのでやめておいた。

「正直、蘇ったという男が羨ましいよ。僕の友人は、死体すらどこかへ消えてしまったからね…。」
「安室さん…。」
「ニオイが分かればソイツを探せるケド、見つけてもあと100年はその術は使えないし…。……文句は、えーっと、”ゼロ”?ってやつに言うんだぞ。」
「ゼ…?!?!今、なんて…?」
「あのオトコが生き返れたのは、おれの力もそうだけど、”ゼロ”がいたから。」

ゼロという言葉に反応し立ち上がった安室に驚くコナン。
どうしたんだと言わんばかりの顔をしながら話すマオ曰くは、簡単に蘇らせたとは言ったものの、ただ単純に死んだ人間に魔力を注いでもそうそう蘇るものではない。かなり強い残留思念がないと、中身が空っぽの人形にしかならないのだ。マオが蘇らせた男は、死んだ瞬間「ゼロ」という人か物への後悔の思念が強く残っていて、それを頼りに命を手繰り寄せたらしい。

「その、マオくんが助けた男っていうのは今どこにいるんだい?!?!」
「あの場所がどこかはおれもわかんない…。」
「そう、なの、か…。」
「あの時はニホンゴも分からなかったし、アイツの頭の中でゼロって呼ぶ声がしたことだけ覚えてる。」
「もしかしてマオが助けたのってその、安室さんのお友達だったりする…?」
「そうだと、いいんだけど、ね。」

張りつめていた糸が切れたように安室さんがずるずると椅子に座り込む。安室にとってそれほど大事な男だったのだろう。

「マオくん、お願いがあるんだけど。」
「うん?」
「その男を助けたときのこと、思い出せる範囲で良いから何か話せないかな?」

いつもの凛々しい姿と打って変わって安室の縋るような瞳に、マオは目をつぶってその日のことを思い出す。
何かが爆発するような音――今思えばあれは銃声――と男が口論する声が聞こえる。遠目にしか確認できないが、デイジーが救ってほしいと願っていた男は胸から血を流して倒れていた。移動する時間が少しずれてしまっていたのか。2人の男がこちらに背を向けて口論している隙に、気配を消してその遺体を持ち去って行く。
かなり離れたところまで移動できたのを確認し、間に合えばいいなと思いながら男の胸に手を当てると、そこが光の泡に包まれる。触れた先から男の思念が伝わってくる。たくさんの後悔と、「ゼロ」という言葉が頭の中に響いてくる。良かった、心は死んでない。「ゼロ」というしるべを頼りに冥界から意識を引き抜くと、男が目を覚ました。


「俺は君に助けてもらったようだね?」
「…???タス??…ダネ?」
「外国の子なのかな、っていうか俺が生き返ってるっていうことはそもそも天使か何かなのかな。」
「…??」
「俺の、名前は、諸伏、景光。って、分かんないか…。」
「モロ…ミ…?」
「モロってなんかいやだなぁ!えっと…ああ!ヒロ!」
「ひ?」
「ヒロ!ヒ〜〜ロ〜〜!」

目覚めた男は現状を何とか受け止め、マオに日本語が伝わらないと理解すると自分を指さしながら「ヒロ」と連呼していた。そいつがヒロと言う事だけは分かった。これでデイジーの「オネガイ」は全てチェック。その場にまだ何かわけのわからないことを言っているヒロという男を残して魔界の門を開き、その場から消え―――博士の家に落ちた。


「ヒロ。」
「今、なんて。」
「ヒロ。あいつはヒロ。」

安室の瞳をじっと見返して、思い出したことを口にすると先ほど同様、安室は急に立ち上がったと思えばマオを思い切り抱きしめる。その様子にコナンとマオも驚いてしまう。

「安室さん?!」
「急にどうした安室。………泣いてる?」

マオを抱きしめながら声も上げず静かに涙を流す安室。
状況をなんとなく理解したコナンは隣にあった窓のブラインドを下げ、優しい目でその様子を眺めていた。当のマオは、自分が何かをして泣かせてしまったのかと困惑したままだったが。


しばらくそうさせてやっていると、安室がマオからゆっくりと離れて元の席に座る。先ほどの件で目元が少し赤くなっているものの、憑き物が落ちたようにスッキリとした顔の安室がそこにいた。

「大の大人が子供の前でメソメソ泣くなんてみっともない所を見せてしまったね。」
「おれからしたらニンゲンなんて赤ん坊みたいなものだ。」
「そりゃオメーからすればな…。」
「ははは、手厳しいな。」

恥ずかしそうに頬をかくと、「よし!」と言って両手を叩く安室。

「マオくんとコナンくんが言っていたこと、全部信じるよ。」
「本当?」
「ああ。マオくんの救ったヒロというのが、僕の知っている人物と同じなのであれば…、ヒロが生きている方に賭けてみたい。」
「…ありがとう、安室さん。」
「でも一体どうしてその、デイジーさんはヒロを助けてってマオくんにお願いしたんだろう。」

そう言われて先日の水族館でデイジーとの思い出を振り返った時の事を思い出す。
デイジーが救ってほしいと願っていた男は4人、名前はしらないけどデイジーが描いた人相書きで顔だけは知っていたし、物語ではその人たちが死ぬ時間まで細かく指定されていた。安室の友人のヒロという男も、そのうちの1人だ。この世界のヒーローで、人々を守るために戦った男たちだったが、悪の手によって命を落としてしまうというストーリー。なぜ救って欲しかったのかはもう聞けない、彼女が亡くなった後、マオは禁術で救おうとしたが彼女は人生に満足して眠ってしまったから起こすことはできなかったのだ。
「私が死んだら、この人たちを助けてあげて。」「この世界で出会うすべての人は、マオにとってとても大切な人達になるのよ。」「そのために、この物語を捻じ曲げてでも、助けてほしいの。」「オネガイ、ね。」と、マオはデイジーの言葉をそのまま告げる。

「4人かあ。」
「安室さんは何か心当たりがあるの?」
「いや、僕の大事な友人が丁度4人いてね。ヒロもそのうちの1人なんだ。」
「へえ〜…、ちなみに今その人たちはどうしてるの?」
「言わずもがなヒロは消息不明、残りの3人も仕事が忙しくてね。ずっと疎遠になっているよ。」
「……もしかしたらそのデイジーさんが本当に救ってほしかったのは安室さんだったのかもね。」
「どういうことだい、コナンくん?」

コナンの推理に興味を示す安室。

「だって、マオの話だと、デイジーさんのお話はその、小説とか何かのお話みたいだったんでしょ?」
「そんな感じ。」
「デイジーさんが話していたヒーローは5人組、でも、”オネガイ”で助けてほしかったのは4人。」
「つまり、その話は僕たちの事…ということかい?」
「彼らは何らかの理由があって4人は命を落としてしまう。けど、”その事実を捻じ曲げてでも、助けてほしい”。」
「助けて、欲しい…。」
「デイジーさんが本当に助けてほしかったのは、最後の1人。安室さん、あなたなんじゃないかな。」

そんな都合のいい物語あっていいものなのか。
魔界から来たという話もまともな人間なら信じられるものではないし、その物語だって何かの偶然かもしれない。でも、禁術と呼ばれるような危険を冒してまで自分の大切なものを救ってくれた存在が、実際に目の前にいる。救われたのは彼の気まぐれで、もしかしたらその「オネガイ」が果たされなかったかもしれない。もし彼が現れなかったら、この話が全部事実だったら。警察学校時代の大切な友人たちを思って自分はもっと絶望していたことだろう。たまには非現実的なことを受け入れてみるのも悪くないのかもしれない。

「さあ!重苦しい話はここまでにして、今日は気分が良いので特別にお昼をご馳走するよ。」
「メシ!!食べたい!!」
「こらマオ、急に大声出すなって。」
「フフフ。良いんですよ。丁度新しいメニューを思いついていたところなので、」

そう言って調理場に戻り、マオとコナンのことを思いながら新作を作り始める。カウンター越しに彼らを見ると、マオがスマホの画面をコナンに見せて笑いあっていた。あの赤いスマホカバーは後で没収してゴミ箱行きだな。

いつか、マオと共にヒロや友人たちにに会いに行こう。
そしてその時、この物語の答え合わせをしよう。









余談
デイジーは転生者で、現代から魔界に転生した元人間。転生して魔界に来ても特に強くなったわけではなく、乳母としてマオの親代わりになる人生を選択した。
マオの世界も漫画として存在しており、現代ではコナンを愛読していたファンで、漫画の知識を寝る前に夢物語としてマオに語っていた。

かっこよくシメたけど全然最終回ではありません。







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