まおうくん大活躍 | ナノ
 じゅんこくと、まおう。と後日談


上から合流するのは難しそうだったので、地上でコナンのニオイを探す。ニオイをたどって進んでいくと、ちょうど風見という男と何かを話している所だった。このまま話しかけたらまた面倒なことになりそうなのでしばらく様子を見ていると、大怪我をしている銀髪の女が風見に連れられて車に乗り込んでいく。結局名も知らぬまま顔も合わせずお別れすることになってしまったが、あの巨大な棒がついた車を動かしたのも彼女なのだろう、無事に生きて帰ることが出来ただけ良かったじゃないか。
話し終わったのか、帰るためにこちらを振り向いたコナンと目が合う。その瞬間、ニッコリとわざとらしい笑顔に額に青筋を立てるというオプションを付けながら口の端を引く付かせていた。いかにも”怒ってます”と言いたげな顔になった。

「オレが何言いてえか分かるよな、マオ?」
「ウ……ごめ…。」
「目立つことすんなって日頃から口酸っぱく言ってるよな?!」
「すっぱい…。」
「ああもう!!!」
「江戸川くん、その辺にしてあげなさい。……結局マオのお陰でどうにかなったところもあるんでしょう。」
「……。」

灰原にそう言われて怒られて悲しそうなマオの顔を見る。確かにそうだ。あのヘリを撃退する案を考えている間にも建物の状況は危なかった。そしてあの変なお面のお陰で組織の連中にはマオの顔がバレてないのがせめてもの救いだ。あんな人外じみたことをしてみろ、連日追いかけまわされるに決まってる。だけど、だ。

「オメー安室さんになんて言い訳するんだよ…。」
「それは、どうしよ。」
「だろーな…。」

このやりとりに呆れた灰原は自分はこの問題に関与する気はないらしく、「帰るわよ」と一言いうと先に歩き出す。居心地が悪くなった様子のマオも、急いで灰原の後を追う。コナンは先ほど蘭から受けた連絡に返事をするため、二人とは反対方向に歩き出す。







事件から暫く経ったある日のこと、阿笠邸に一人の訪問者がいた。

博士も灰原も、少年探偵団との約束で外出しているらしく家には自分一人しかいない。一人でまったり日本語の勉強をしていると、チャイムが鳴る。もう一人でインターホンを確認することだってできるんだぞ、と一人得意げにディスプレイを見る。おかしい、教えてもらった方法だとここを確認したらニンゲンがうつるハズなのに…、と困っていると、玄関から気配がする。勝手に入ってきた…?
この世界は玄関に鍵をかけて、他人が勝手に家に入れないようにするらしい。―――マオの世界だと鍵は魔力が込められている特別なモノしか存在せず、主に宝や遺物を守るためにあるもので、それぞれが強い力を持ち襲って来ようものなら返り討ちにしてしまうようなものしか存在しないそこでは部屋や玄関にかけるとは聞いたこともない話、というのは置いといて―――チャイムというのは自分が扉の家の前にいることアピールするために使い、玄関の鍵を内側から開けてもらうためにあると思っていたのに鳴らしておいて勝手に家にはいるとはどういう了見なのだろう。一発顔にお見舞いしてやろうと気配に向かって足音を立てて近づいていくと、見知らぬ糸目の男が紙袋を片手に突っ立っていた。しかしこのニオイは。

「こんにちは。」
「…おまえ、あの時の黒い男…?」
「…この姿でもキミには分かってしまうのか。」

挨拶をしてすぐに正体を見破ってしまうと、また声色が変わる。この声は、やはり先日の事件でコナンと一緒にいたあの男だったようだ。どちらにしても知らないやつなのには変わりないが、コナンの知り合いというアドバンテージがある為、出会い頭の一発は回避したようだ。

「ニホンだと家に勝手に入るとダメじゃないのか?」
「日本どころかどこの世界でもそうだろうよ。この姿だと警戒されると思ってな、勝手にお邪魔させてもらったよ。」
「チャイム鳴らしたのは…。」
「出迎えの準備もできていない家に入るほど無礼なつもりもない。」
「おまえがいってること全然わかんない…。」

訳の分からないことを言う男を客間に連れていき、いつも灰原がしているようにお茶を用意する。湯呑にいれたそれを渡すと、すまないなと言って笑った。男は”赤井秀一”と名乗り、コナンとは協力関係にあり事件の度に一緒に解決したり、共通の敵と戦う間柄らしい。

「だが、この格好の時は沖矢昴と呼んでくれると助かる。」
「オキヤ、スバル。ニホンでは名前が二つあるやつが多のか?」
「それもまた、日本に限った話じゃないのかもしれないな。」

コナンと同じ二つの名前の男―オキタスバルがそう言って笑うと、実は今日は話が合ってな、と切り出した。
マオは今日、赤井が阿笠邸を訪れた理由がなんとなくわかっていた…というか、一つしかない。この前の事件の際に見せたマオの異能力、というか超人的な運動神経のことだろう。結局事件後は人だかりがあったのと意図的にマオが安室と沖矢の二人のニオイを避けたのもあって、安室と赤井には会う事なく帰宅することが出来た。…まさか家まで来るなんて、嗅ぎなれないニオイだからちょっと油断してしまった。

「あの後コナン君にきみのことを探ってみたんだが、ジャングル育ちでわんぱくなただの平凡な美少年だ、と。」
「そうだぞ。」
「ホォー…、あくまでもその姿勢は変わらない、と。」

好奇心か懐疑心か、マオの正体がきになる沖矢―もとい赤井は、疑う目を止めることなく、その偽物の細い目でマオを見つめ続ける。真実を話すまではここを離れる気はないぞと言いたげなその瞳にマオは困ったように切り返す。

「ホントのこと言ってもいいけど、おれなんて言えばいいかわかんない。」

コナンの知り合いなのであれば、そうしたほうがいい。たとえ知り合いでなくてもそれが一番な気もするが。自分がここにいるということを知っているということは彼に聞いたんだろう、それなりの信頼関係がないとコナンであれば居場所を伝えるなんてことはしないハズだ。…それか本当にコイツが悪い奴で、あわよくばマオに成敗して貰おうとしているのならまた話は別だが、先日協力しているのを実際に見ているのでその線はナシということにしておいた。

「コナンにきいてほしい。コナンの友達なら、それがイチバン、イイ。」
「聞かれて困る話だと思っていたんだが、説明下手だから自分からは言えないと?」
「それに、ヘンなこといってコナンを困らせるのはダメだ。」

この世界について学んでことさらにコナンと阿笠、そして灰原の優しさを強く感じることが多くなった。地獄や魔界、魔力やそれによって生み出される魔法が幻想として扱われるこの平和な世の中で、あのたどたどしい説明で自分の言いたいことを理解し、受け入れてくれた彼らに迷惑をかけるなんて出来ない。そしてマオ自身も、今の楽しくて平和な日常を失いたくはない。
しっかりと目を見て話すマオに赤井は、「負けたよ」と一言いうと、

「きみがコナン君の敵ではないことがはっきりわかったということで、今日のところは勘弁してやろう。」

それに君は彼に特に気に入られているようだからな、と一言添えると用意された茶を全部飲み終えた沖矢が机越しにマオの頭を撫でる。

「いつか君に力を借りるときがくるかもしれないから、その時は頼んだぞ。」
「……ウン、任せて。」

マオの返事に満足した沖矢は、傍らに置いてあった紙袋の中で何かを探し始める。そういえばなんか持っていたな。

「今日はそれを聞きに来たのもあるんだが、コイツを渡しに来たのが本命だな。」
「コレ……ケイタイ!!!!」
「コナン君から頼まれて代わりに携帯ショップまで受け取りに行ったんだ。今日はどうしても都合が悪いからとね。」
「コナン…!!」

コイツ、と言って渡されたのは携帯だった。いつもコナンがいじっている所を横目に見ては羨ましがっては「おれもほしい」と駄々をこねていたことを覚えていてくれたのか。ツルツルとした薄い板を沖矢から受け取り、我が子のように撫でたりして可愛がる。その様子を見た沖矢が最低限のセットアップは済ませてあるが使い方を教えてやろうかと言ってくれたけど、動画というものを見たりするのにたまに使わせてもらったりしたときに少し教えてもらっているから基本的な操作は問題ないはずだ。

「俺やコナン君たちの連絡先はもう入れておいたから安心するといい。」
「ウン!!ありがと沖矢!!」

また紙袋から取り出したお茶菓子と一緒にお茶を楽しみながら沖矢とのんびりした休日を過ごした。



蘭たちと少年探偵団の面々に合わせて安室も一緒、よくいるメンバーでテニスをしに来ていたコナンは、知らない番号からの電話に怪しみつつも出ると、よく知るあの魔王の声が。思わずマオと大きな声を出してしまったせいで光の速さで反応してきた安室に捕捉され、マオの連絡先を聞き出そうとする安室から逃げるのが大変だったというのはまた別の話。







back
- ナノ -