まおうくん大活躍 | ナノ
 じゅんこくと、まおう2



ガラス張りのエレベーターに乗り込み頂上へ向かう最中、予想通りにかかってきたコナンからの電話を無視する子供たち。エレベーターから見える景色はとても綺麗で、ホテルの時には見れなかった都会の街並みを見てマオも感激する。すると、観覧車の目の前にある噴水が勢いよく吹き上がる。

「わぁ〜!すごい綺麗!!」
「皆さんみてください!虹が出てますよ!!」
「ニジ?」

窓にへばりついて下を見る子供たちに倣って窓際に立つと、彼らが”ニジ”と呼んだものが目に入る。

「これが、ニジ…。」

この世界にはこんなにきれいなものが存在しているのか。初めてこの世界に来た時、こんなに色鮮やかな場所があるものかと驚いたのを思い出した。地の果て――地獄にある魔界は魔族の統率する闇の世界。食うか食われるかの戦いを強いられるそこは、世界そのものが薄暗く、こんなに光輝くものが存在していることはまずなかった。そんな暗い世界で、乳母のデイジーは亡くなるその日まで、寝る前に本を読み聞かせてくれた。

”悪と戦う正義のヒーローたちのものがたり”

悪によって脅かされている世界をヒーローである5人組が暗躍し、人々に平和をもたらすという話を聞かせてくれたデイジーはこう言っていた。「私が死んだら、この人たちを助けてあげて。」「この世界で出会うすべての人は、マオにとってとても大切な人達になるのよ。」「そのために、この物語を捻じ曲げてでも、助けてほしいの。」「オネガイ、ね。」と。そのためにマオはこの世界に渡ってきたのだ。
デイジーが死んでもう100年以上経つというのに、まるで母親のように愛情をくれた彼女の事を思うと心が締め付けられる。そういえば、その「オネガイ」によって助けたヒーローたちは今頃何をしているだろうか。元の世界に戻ろうとしたときに眠ってからそこそこの時間が経っている。この世界は地獄にいた時とは時間の経過がかなり違うように感じる、というより人間の老いるスピードがとても早い。そう考えると、それなりに経っていているだろう。今も彼らが誰かを救うヒーローとして頑張っているといいな、なんて物思いに耽っていると、景色を眺めていた銀髪の女性が頭をおさえ、うめき声をあげながら倒れ込んでしまった。何かを言っているようだ。

「おい女、大丈夫か。」
「スタウト…アクアビット…リースリング……うう…。」

声をかけたマオや子供たちの心配をよそにうわごとのように繰り返す。歩美がコナンに電話で助けを求めている横で、光彦が女の言葉をメモしていく。観覧車が無事到着し、その場で待っていた救急隊と合流することが出来た。頭を抱えたまま蹲った女性はそのまま医務室へと運ばれた後、警察病院に搬送されたと聞いた。コナンと灰原はそこで子供たちと別れ、子供たちを引率する阿笠博士にマオを任せた。


博士たちと共に以前行った喫茶店で時間をつぶしていると、コナンから電話がかかってくる。光彦があの女性が言っていた言葉を伝えると、電話越しのコナンが何やら焦ったような声で喋っていたようだった。博士はコナンから頼まれた携帯の修復に帰ってしまったので、マオが引率となって行動することになってしまった。マオに子供を任せることになってかなり心配そうにしていたが、子供たちがあまりにも強引に大丈夫だと主張するので博士も折れてしまった。その場から博士がいなくなったことを確認した子供たちは、マオの手を引いてコナンに内緒で警察病院に行こうと計画する。「コナンくんに言っちゃダメですよ、絶対怒られますからね!」という光彦を見て、これはもう逃れられないなとため息をついた。

光彦が高木刑事に連絡をとってコッソリ面会し、子供たちは真っ白なイルカのキーホルダーを渡すことに成功した。穏やかにオセロで遊んでいると、後ろから部下のような集団を引き連れた、長身で眼鏡の男性――公安の風見と名乗った男が銀髪の女性の身元を引き渡せと言い出した。このニオイ、安室と初めて会った時の感覚に似ている。その人そのもののニオイではないものの、雰囲気とか、はりつめた空気が似ている。

するとマオは風見に歩み寄り、「うーん…」と目を細める。男は目の前に現れた謎の美少年に思わずたじろぐ。

「オマエ、安室と同じニオイがするな。」
「んなっ、に、匂い?!」
「あー!マオおにーさん!知らない人についていっちゃダメなんだよ!」

風見という男に近寄るマオの手を取り歩美が引きはがす。銀髪の女性が病室の戻るのを確認すると、自分の匂いを嗅いで確認しているところからすぐに冷静になった風見は目暮警部と共に部屋の奥へ消えてしまった。残された子供たちは銀髪の女性と約束した観覧車の景色を写真を撮って送ろうと言い出した。さすがにもう相手しきれんぞとジト目で子供たちを見下ろすと、「もちろん来るよね?」と言わんばかりにニコニコした子供たちの圧に負けた。もうこの子たちには勝てないと思ったマオであった。

高木刑事に連絡したように、光彦が電話した園子のツテで入場できることになり、裏口から係員に案内されて貸し切りになったという観覧車に乗り込む直前、建物の上部から知ったニオイがした。

「ゴメン、コナンに呼ばれたからおれ行く。」
「えーー!マオおにーさん行っちゃうの〜!」
「ウン。コドモだけで楽しんで。」
「しょうがないですね、あとでいっぱい写真見せてあげますよ!」
「じゃあな〜!」
「あ、マオおにーさん。これあげる。」
「なんだ、コレ。」
「お顔につけてね!お顔隠さないといっぱい注目されて大変そうだなって思って、さっき買ってたの。」

いつのまに買ったのか、歩美からイルカのお面を受け取り、子供たちが乗った箱が浮き出したのを見送ってからコナンのニオイを追いかけるために道から外れた階段を駆け上り始めてすぐに建物の照明が落ちた。暫くすると上の方から何かが落ちてきたような音がしたと思ったら、大量の爆発音と壁が崩れる音がする。何が起きているか検討もつかないが、この音がなっている様子だとコナンも危ない状況に違いない。周囲に人がいないのを確認して壁から壁へと飛び乗って目的地までの時短を図る。このニオイ、…見えた、あの頭だ。


「この状況…一体どうすれば…!」
「無事か、コナン。」
「ああ、なんとかな………って、マ、マオ?!?!?!?!?!」
「マオくんだって?!?!?!?!」

突然のマオの登場に驚くコナン。安室もコナンの声を聞いて手すりから乗り出し、マオを確認すると言葉を失っているようだった。その場にいる全身真っ黒の男も初めて見る男だが、突如現れた美少年に驚きのあまり目を見開いている。イルカのお面を持ち、猫が描いてあるのに”いぬ”という文字がプリントされた白いTシャツに半ズボンというかなりシュールかつラフな格好のマオはこの場にあまりにも不釣り合いだった。

「話すのめんどう。それで、あれがジャマなのか。」
「まぁな、どうにかしてあれの対処法を考えないと…。」
「分かった。」
「あ?分かった…って…。」

コナンが答えるや否や、イルカのお面をかぶったマオは軽く助走をつけて闇夜に跳躍する。上にいた安室にいたっては驚きのあまりに手すりから落ちそうになっていた。

「「マオ/くん?!?!?!?!?!」」
「あのボウヤは一体…。」

そのまま遠くに飛行する黒い鉄の塊に着地すると、この鉄の塊には人間が数人乗っているが確認できる。これでコナンたちを攻撃しているのかと理解する。

「なんか飛んできてぶつかりましたぜ…!!」
「飛んできただとォ…?」
「おまえら、ジャマだからどっかいけ。」
「なん…?!」

世間知らずのマオでも運転手というものは分かる。阿笠博士の車でよく見たこの世界の鉄の塊は、運転手が操作しないと動かないということを学んでいた。右側に張り付き、拳で窓ガラスをぶち破る。その勢いで運転手を喉をつかみ、外に宙づりにする。なんだか喚き声をあげているし暴れる面倒だからこのまま落としてしまおうかと思ったが、コナンが言っていた「アクニンだろうとヒトゴロシはナシ」という言葉を思い出した。

「あ、落ちたらしぬか。じゃあ寝ろ。」

一度は宙にぶら下げた女を座席に戻すと、顔面に一発お見舞いして気絶させる。運転手が消えた鉄の塊は大きく揺れるが、すぐに持ち直した。後ろにいる男が焦ってハンドルを握っているみたいだ。同乗した男が小さな鉄の塊――銃で撃ってくるが、白いシャツにじわりと赤い染みを作っては消えて、イルカのお面で正体を隠したマオはひるみすらしない。この回転する羽根が鉄の塊を浮かしているのかと理解すると、一番近くにあった羽根を鷲掴んでへし折った。

「右のプロペラがやられた…!!マズい、以上破壊されたら持たない…!」
「振り落として退却だ。」

リーダーのような雰囲気の目つきの悪い男がそう告げると、ぐわんぐわんと車体が揺れて振り落とされそうになるところを棒のようなものを掴んで我慢する。
このまま落としてしまおうか、どうしようかと考えながらちらりとさっきまでコナンたちがいた建物を目を凝らして見ると、倒壊しかけている所をどうにかしようと奔走しているみたいだ。カンランシャという箱のついた建物には子供たちのニオイもするし、とりあえずコナンとは早く合流したいところだ。このまま落ちたらこいつら人間は死んでしまうだろうな、と考え人が死んでコナンに怒られるのは勘弁だと鉄の塊を蹴り上げて跳躍し、観覧車に着地する。自分が鉄の塊で遊んでいるうちにこちらの騒動も収まりつつあるらしい、どこか遠くで銀髪の女が「とまれ」と叫ぶ声が聞こえたと共に不安定な建物が安定し始めた。先ほどまで懲らしめていた鉄の塊がどこかへ逃げていくのを確認しコナンを探す。

月明りに照らされた観覧車とクレーンが寄り添うようにそこに佇んでいた。





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