まおうくん大活躍 | ナノ
 豪華ホテル以下略、終幕


安室と二人マオを追いかける。安室は上階、コナンは下階と二手に分かれて探す。建物自体が危ないと感じた時には子供のコナンがすぐ脱出経路へ行けるように配慮されてのことだ。

揺れる階段を駆け下りていく最中、ジュエリー展示会の看板を見かけた。もしや、と思い足音を立てないように慎重に近づいていくと、複数の声が聞こえてきた。暗がりの中にいたのは、廊下の真ん中で集団の前に立ちふさがるマオの姿。強盗らしきそいつらの手には大き目のバッグ――先ほど展示会場から盗んできたであろう宝石類が詰め込まれている。

「なんだガキ…こんなとこまで付いてきて、非常口はこっちじゃありませんよ〜?」
「よく見たら良いツラしてんじゃねえか、こいつ”も”売ったら高くつくんじゃねえの?」
「そのオンナ、離せ。」
「あ〜?ガキがナメたこと言ってんじゃねえぞ。」
「半殺しにしてやっからよ。」

ニヤニヤと笑いながら男たちがマオへの距離を詰める。運動神経が良いと言ってもあの人数じゃヤバい、見たところ5,6人はいるだろう屈強な男たちに囲まれるマオ。かといって、魔術を使うハメになったらマオが人を殺すことになってしまう。まずい。この状況を打破できる案を考えないと―――!

「ヒトゴロシはコナンに怒られる。でもハンゴロシはオッケーだ。」

マオが地を蹴る。
それを捉えるよりも早く、男の顔面にマオの足がめり込む。周りの男どもは目を見開いて倒れ込むそいつを眺めていた。すぐに我に返った男もまた、ナイフを振り回して襲い掛かるも顔面に拳をお見舞いされて吹っ飛んでいった。「手加減は難しい」と呟くマオにあっという間に制圧されてしまった。自分の出る幕なんて一切なかった。

「マオ!!!」
「コナン、逃げてなかったのか。」
「こんな危険な場所に置いてどっか行くわけねーだろ!安室さんもオメーのこと探してんだ。さっさと合流してここから脱出するぞ。」

マオは腰を抜かした様子のレイチェルさんに手を貸して起こしてやる。恐怖のあまり話すことすらできないのか、うつむいたままでその表情は見えない。そういえば、レイチェルさんはなんで拘束されていないんだ?さっきまでは人質にされていたのに、自由に歩けるのは逃げられないと思っていたのか。

「安室さんにメールしたから、さっさと下の階いくぞ。」
「分かった。」

先導し、マオとレイチェルを下まで誘導しようとしたその時だった。レイチェルが急に走り出し、マオの背中にドス、と音を立てて静止する。

「キャハハハ!!!お前たちガキどものせいで計画がパーだよ!!!このジュエリーは全部アタシのもんだ!!」
「マ…、マオ…?!」

勢いよくマオからレイチェルが離れる。その手にはナイフがあり、暗い通路を差す月光が血を映している。おそらく刺されたであろうマオは、お腹を押さえたまま少しも動かずに俯いている。慌てて駆け寄ると、その顔には表情はなく、瞳の中の宝石はただ一点を見つめていた。

「そうか、お前もワルイやつなのか。」
「そうよ!!そこのガキも始末してやる…から…、」
「じゃあハンゴロシだな。」

くるっと振り返るマオ。そして女の顔に何てことするんだ、とすら思ってしまうほどの一切遠慮のない鉄拳がレイチェル(仮)に打ち込まれる。2mくらい吹っ飛んだんじゃないかアレは。みっともなく鼻血を吹き出し、白目をむいたその姿はせっかくの衣装が台無しな仕上がり。レイチェルなんて放っておいて、刺されたマオが心配で駆け寄る。

「って、何やってんだ!刺されたところ見せてみろ!」
「ダイジョウブだ。」
「大丈夫なわけねーだろ!あんなナイフで刺されたんだ、血止めねえと大変な…ことに…。」

応急処置を、と急いでジャケットとベストをはぎ取りシャツをはだけさせると、そこには何の傷もなかった。服には確かにナイフが刺さった形跡があるのに、体には傷なんて一つもない。ちらりとナイフを見ると、体から抜いた時には見えた血も綺麗さっぱりなくなっている。

「一体どうなってんだ…。」
「まおうだからな。」

日本語にはだいぶ慣れたと言っていたマオだが、自分の職業の名前すらまだマトモにいえないらしい。そういえば初めて会った時、空から落ちてきた際の怪我が全くなかったのは”まおうだから”か。たぶん考えたって無駄なんだろう、マオが無事ならそれでいいじゃないか。とにかく、この倒壊しかけている建物から逃げないと非常にマズい。仮にこの建物がぶっ壊れたとしてもマオは無事に生還するだろうが、自分はそうはいかない。そして何より、マオを探しに上階に行った安室も心配である。

「マオくん!!コナンくん!!大丈夫かい!」

噂をすればなんとやら、上階につながる階段から安室が急いで降りてくる。

「上階じゃあ全然見つからないから降りてきてみたけど…無事二人とも合流みたいだね。」
「安室は大丈夫だったのか?」
「こっちはなんとも。人っ子一人いなかったからね。」

そう言いながらチラ、と安室が二人の後ろを見やる。完全に伸びている後ろの集団を見ると、片眉を上げてこちらを見つめてくる。この状況をどうにか言い訳できないものかと頭をぐるぐる回していると、そういえばこの建物は爆破されていたという重要なことを思い出した。

「と、とにかくここから逃げないと!」
「その心配は無いみたいだよ。」
「え?」

マオの手を取って移動しようとすると、それを安室が制す。そういえばいつのまにか建物の揺れが収まっている、つい建物の倒壊のことを忘れてしまうほどに。

「さっき上の階から確認したら、今くらいにやっと客も外に出始めたみたいだね。」
「…ほんとだ…。」

その言葉に近くに会った窓からホテルの玄関を見下ろせば、まばらに人が集まってきているのが分かる。眼鏡でアップにして確認したら、蘭たちも逃げきれているようだ。

「元々、驚かすくらいの爆弾しか準備していなかったみたいだね。何か目的があって爆破したとしても、自分たちが逃げ切れなきゃ意味がないから。」
「ホテルから人を全員消すために、ってことか…。」
「それは良しとして、後ろのアレ、と……どうしてマオくんが裸なのか説明できるかなぁ〜?」

そういえば腹の調子を見るために服を脱がせたのを忘れていた。裸は言い過ぎだが、最後の砦のシャツは見事にはだけて前が全開になってしまっている。言い訳が全く思いつかない、困った。

「あいつらが…急にランボウしてきて、お互い殴り合ってたおれた。」

しょぼーん、と聞こえてきそうなくらい眉を下げたマオが上目遣いで安室を見つめる。言葉足らずなせいで自分を取り合って男どもが格闘したのかと言っているようだが、おそらくは本来の目的であるジュエリー泥棒の仲間割れの途中で自分がまきこまれたのだと主張したいんだと思う。だがこの雰囲気はまるで前者だ、あの安室がそんな適当な言い訳でゆるしてくれるなんて信じられるか。そう思って安室を見ると、まるで王子様かと言わんばかりにマオの元に跪き、手をとって見つめ合っていた。

「そうだったんだね…、マオくんが無事で本当に何よりも良かったよ。ほら、僕のジャケットで良ければどうぞ。風邪をひいてしまうから羽織っておくといいよ。」
「アリガト。」
「は、はは…。」

まるで自分は蚊帳の外。「せっかくのデートが台無しだね」なんて言いながらマオの手を取って外に向かう二人を我に返って急いで追いかける。デートってなんだデートって。お前はついてきただけだろうが。
移動の最中、安室がこの事件の推理を語ってくれたが、コナンが考えているものとほぼ同じ内容だった。ホテルから観客が避難する程度の爆弾騒ぎを起こし、その機に乗じて展示されているジュエリーを根こそぎ頂くという算段。ショーの始めに安室がレイチェルを見たときの違和感。それは、ホテルの玄関で見た今夜のショーの垂れ幕に描かれたレイチェルの写真と実物の雰囲気が違うと感じたらしい。この場に来たレイチェル自体もこの強盗のために用意された偽物なんじゃないか、と。本物のレイチェルがどうなっているかは警察の出番だろう。
話しながらホテルを出ると、蘭たちが心配した様子で駆け寄ってきた。後ろには誰かが呼んだであろう警察も到着していた。

「コナンくん、マオくん!安室さん!もう、中々姿が見えないから本当に心配したんですからね!!」
「ごめんなさぁ〜い。でも、事件は無事解決したみたい。」
「そういえば、レイチェルさんや強盗の姿が見えないけど…。」
「なんだか仲間割れを起こしたみたいですね。」

仲間割れ?と頭にハテナマークを飛ばしている蘭の後ろから見知った顔ぶれが近づいてきた。

「すみません、警視庁捜査一課の佐藤と、こちらは高木刑事です。事件についてお話を…って、コナンくんたちじゃないの!」
「佐藤刑事と高木刑事!」

佐藤刑事はまたあなた達なのね、と言わんばかりに苦笑いしている。その後ろでやあと手を上げ挨拶する高木刑事。それはこちらも言いたい、また自分たちです。事件の重要参考人として安室とコナンで二人に詳細を話をしていると、

「それでその、マオくんっていう子からも話を聞きたいんだけ…ど…。」
「マオデス。ニホンゴヨクワカラナイ。」
「そう、みたい、ね…。」

必要以上に話してはマズいと本能的に理解したであろうマオがいつもよりも大げさなカタコトで自己紹介をする。そんなマオの外見に驚いた佐藤刑事が見事に固まっている。後ろにいてメモを取っていた高木刑事なんて、顔を真っ赤にして目をかっ開いているし驚きのあまり手からペンを落とす勢いだ。

「それで、マオくんはあの人たちに襲われたってことね?」
「ウン、こわかった。」

わざとらしく悲しそうな顔をしてそう主張するマオに、二人は完全にやられてしまっている。完全に母性をくすぐられている二人は、うんうん怖かったねえとまるで子供をあやすようにマオの相手をしている。これは放っておいても大丈夫だな。散々なショーだったな、と肩を落としながら帰りましょうという蘭について帰路に就く。


事件以降しばらくして佐藤刑事に偶然町であった時、犯人たちは「あのガキにやられた」と本当のことを洗いざらい話したようだが「あんな可憐な子供になにができるというのだ」と全く取り合ってもらえなかったようだ。まあそうだろうな。




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