まおうくん大活躍 | ナノ
 豪華ホテルディナーショー…?


ホテルの会員の中でもグレードの高い、高級会員なる者のみが入手できるチケットと園子が言っていたが、納得した。
案内された部屋はショーをするには少し狭いと感じるものの、壁の一面がガラス張りで、日も落ちてきたこともあり夜景を眺めることが出来るようだ。室内もあたり一面に豪華な装飾が施されており、一番奥のステージは中央に置かれたマイクスタンドがスポットライトで照らされていた。見てるだけでも眩暈がするような、一歩間違えれば悪趣味といっていいほどきらびやかな空間である。
着席してキョロキョロと見回してみれば、明らかに富裕層といった面々が各席に散らばっている。ここで事件でも起きたら大変だな、なんて思っていると、

「今夜の招待客は錚々たる顔ぶれですね。政界のトップや各界の著名人でいっぱいですね。」
「安室さん詳しいんですね!」
「たまたまですよ。僕が知っている人が数名いるだけなので、ほかにどんなお客さんがいらっしゃるかまでは分かりませんけどね。」
「ちょっと緊張してきちゃったかも…。」

安室の一言で緊張してきたのか、顔を赤くしてもじもじとする蘭。そんなことは気にせずに食事を堪能する気が満々の小五郎と園子。マオはというと、水族館の時にはそう気にならなかった人混みをようやく意識したようでソワソワとし始めている。招待客もまた、マオの顔を見て少しざわついているようだったが。
次々と運ばれてくる食事を堪能してくると、客の視線がステージに集まってくる。
今夜の司会と共にレイチェルが舞台上に現れたようだ。

「お集まりいただき、まことにありがとうございます。今宵のゲストは何と!アメリカの歌姫レイチェル・ベス!」
「ハジメマシテ、ヨロシクオネガイシマス。」

少しオーバー気味な紹介と共に、外国人特有のカタコトな挨拶をして、レイチェルが深々と頭を下げる。THE・アメリカ美人といったところか。その美しい容貌に観客はまだ歌ってもいないのに満足気にステージを眺めている。しかし、隣でワクワクしている人間離れした美人を見たらその見た目も薄味に感じるのも悪く思わないでほしい。マオを除いた四人も同じ様子か、と思えば一人だけ何やら難しそうな顔でステージを見ている者がいた。

「安室さんどうかしたの?」
「…ん?いや、彼女の顔…。」
「顔?」

顔がどうかしたのか。まさか自分と同じことを思っているのか、まさかな。
そうしている間に司会が終わり一曲目が始まる。マイクの音を伝えるスピーカーはあるものの、特に楽器も音響設備もないのに急に音楽が流れてきたことには吃驚したが、よく見るとステージの下にオーケストラ陣が収まっているようで。
レイチェルが美しい歌声を披露していると、急に室内のすべての照明が落とされた。小さい悲鳴が聞こえるものの、演出と信じている観客は大人しくしている。すると、

ドン。ガシャン。

そして女の悲鳴。

と同時に照明がすべて点灯する。急にすべての明かりがついたものだから、明暗の差に目が眩む。
ステージに目を向けると、黒ずくめの(といっても例の組織ではなさそうな)武装集団がステージ上のレイチェルを人質にとったように拘束し、片手には大振りのナイフを首に突き付けていた。

「全員机の下に跪け!余計な事したらコイツの命はないぞ!!」
「ヒッ……タ、タスケテ……!!」
「レイチェルさん…!」

急展開に頭が追い付かない蘭たちは、動転し動けない様子だった。小五郎が蘭と園子の手を取り机の下に伏せさせると、安室とコナン、マオもそれに従った。他の客も恐怖のあまり声も出ないようで、犯人に従って机の下に引っ込んでいく。
一報マオはこれも演出なのか、こういうショーなのかと少しワクワクした表情で机の隙間からステージを眺めている。蘭たちには顔が見えない方向で屈んでいた為見られてはいないが。
人質を取ってはいるものの、結局なにかをしろと指示されたわけでもなく、強盗かと思えば金品を奪い取られることもなく。ただひたすらに時間だけが過ぎていく。



「アイツ燃やしてもいいか?」
「バーロー!ダメに決まってんだろ!悪人だろうと人殺しはナシに決まってんだろ!」
「でもアレ、危ないだろ。」
「どうにかして考えんだよ…!」

机の下で一緒に屈みながらコソコソととんでもないことを提案してくるマオを小さい声で叱ると、しょんぼりしながら犯人に捕まっているレイチェルを指さす。たしかに魔術の一つでも使えばこの場は難なく切り抜けられるだろうがそうはいかない。観客も多いし、蘭たちに魔術を見せてどう説明すればいいのかわからない。特に安室にも。
ステージ上の集団に動きがあったのは、それからまたしばらくした後だった。
その場を離れていた一人が部屋に戻ってきて、レイチェルを拘束していた男に何やら耳打ちをしている。眼鏡の望遠鏡機能で口元を追ってみると『準備ができました』と。準備、だと?

男がニヤリと笑った瞬間、轟音と共に地響きが鳴り、またすべての照明が落とされた。「爆弾だ」だれかが叫んだ。机から這い出て窓から建物を見ると、確かにこの建物は爆発したらしく、下の階から煙が上がっていた。そうこうしているあいだに建物は揺れ始め、この場にいては危険だと誰しもが思った。

「蘭こっちだ、早くこの避難するぞ!!」
「皆さん避難して!非常口はあのランプです!!」
「逃げるのよ!早く!」
「あっ…コナンくん!!!!!」

小五郎と蘭が避難の誘導をすると、ランプに向かって人が我先にと滝のように流れてきたせいで蘭、園子、小五郎を非常口の方へと押し出しいき、流れに乗り遅れたコナン、安室、マオは三人とはぐれてしまう。ステージの集団は、レイチェルを連れて避難していく客とは別方向に向かって逃げ出していた。逃がすものかと机から這い出たマオは、人の波をするりとかき分けて猛スピードで追いかけて行ってしまった。

「マオ!!!オメー何やってんだよ!!」
「マオさん?!?!」

呼びかけた時にはもう遅し、謎の集団を追いかけてマオは部屋を出て行ってしまった。









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