まおうくん大活躍 | ナノ
 落ちてきたのは”まおう”


博士の元にいつものグッズのメンテナンスで立ち寄ったある日のこと。

それじゃあ見てくるぞいと扉の向こうへ消えていった博士の背中を見送り、待ち時間に何をしようかとテレビのリモコンを操作していた時。
急に庭からガシャンと、何かそこそこのサイズのものが落ちてきたような音。
また博士の発明品が悪さしたのかと庭に向かうと、布のようなものにくるまれた”何か”が庭の隅に置かれたダストボックスに落ちてきたようで、大きなへこみを作っていた。
こんな住宅街で空から何か落ちてくるだなんて妙だと近づいて布をめくると、

「!!?!?」
「庭からとんでもない音がしたが、無事かコナン君!!……そ、それは…!」

音に驚いて部屋から飛び出してきた博士と共に発見したのは、布から飛び出た”人”の姿だった。

------


あの音とダストボックスのへこみ方を見て、まず普通の人間ならぺしゃんこになっているかあるいは重体になっているのが普通だ。
事件の可能性も考慮し、とりあえず布を取り払ってみるが…外傷が全くない。というか、上半身には何も身に着けておらず、外傷どころか、今落下してきたであろう傷も何もなく、スヤスヤと眠っているようだった。
明らかに日本人ではなさそうなプラチナブロンド、睫毛までその色一色で染まっており、寝ている状態でもわかる美しい顔立ち。背丈はおおよそ中学生くらいだろう。
後ろで「警察!いや救急に連絡か?!」と焦っている博士を放置して顔を凝視していると、長い睫毛が上を向く。その下にあるのは宝石をそのまま目に詰め込んだといっても過言ではない、青い瞳。

「なんだおまえたち、ここはどこだ?」

それはこっちのセリフだと言いたかったが、声が出なかった。
ダストボックスに体を預けているというのに、後ろから後光でもさしてるのではないかというくらい神々しかった。




「べーかちょう?」
「米花町、な」
「コナンくん、やはりここは警察に届け出たほうがいいんじゃ…」
「こなん?けいさつ?」
「コナンはオレの名前だ。色々聞きたいことが山ほどあるんだが…おめーは一体何者だ?」

正体不明の美少年の登場(しかも空から降って来るというオマケ付き)に博士もかなりうろたえているようで、椅子に座っているオレの後ろで慌てているのが見なくても分かる。
オレの発する言葉に何一つピンときていないらしく、何かを言っても復唱するだけ。何者だと聞けば少し考えた後、ニッと笑う。

「おれはまおうだ!」
「「…は?」」

ただでさえキラキラした目を一層輝かせて言う。
「おれはうばの願いをかなえにここにきた。かなえおわったからウチに帰ろうとおもったら、ここにおちてきた。」

まるで覚えたての日本語を話す赤子のような拙さで少しずつ説明するマオとやら。
ファンタジー要素いっぱいの物語を要約すると、

「オメーは魔王のマオで、育ての親が死に際に頼んだことが解決したからここに来た手順と同じ方法で家に帰ろうと思ったらここに落ちてきた、ってことか…?」
「そうだ!」
「アニメの見過ぎかなんかじゃねえのか…それとも落下のショックで頭イッちまったのかよ…」

突然の魔王発言にビックリした博士は、「何か着るものを探してくるぞい」と目をぱちくりさせながら別の部屋に逃げてしまった。
逃げたいのは俺も同じだっつーの。

「おいコナン!おれはまおうだぞ!本当だぞ!」
「はいはい魔王な。庭に落ちてきた理由がそれだとして、なんでここに落ちてきたんだ?米花町も知らないのに。」
「ウチはじごくのはてにあるからな。じごくに向かっておちてみたけど、全然たどり着かなくて寝た。長いことねむってたが、起きたらここだ。」
「顔をみるに本当に事を言ってるんだろうが、色々すっとんでで全然理解が追い付かねえ…。」
「しんじてないな!!!」
「誰が信じるんだよンなこと…。」
「じゃあ!!!!!」

あまりにもオレが信用しない様子を見て不満に思ったのか、眉を吊り上げながらマオが立ち上がる。
その下ったらずな言葉と、おおよそ中学生くらいの風貌がミスマッチで笑えるぜ、なんて現実逃避しながらのんきに茶をすすりながら眺めていたら。
どっからどうてもタネの仕込みようがない上半身裸の少年が、手のひらで文字通り青い火の玉を生み出し、飲んでたお茶を吹き出してしまった。

「おまっっ、なんだソレ?!?!?手品か?!?!?!」
「まぞくにしかあつかえない、青いホノオだ。なんだおまえ、ヒトガタのくせにそんなこともしらないのか。」
「バーロー!!手品でもなけりゃ手から火出すやつがこの世に存在するかよ!!」
「ばーろー!」

ケラケラと笑いながらゆらゆらと燃える火の玉は、作り物なんかではなく正真正銘熱を持った本物で。
目の前で起きたことに理解が追い付かず頭を抱えているオレを置いて、気が済んだのかマオとかいうやつはソファーではねて遊んでいる。
考えても無駄だと思ってると、そういえば博士はまだかと振り返ると、数枚のシャツを持ったまま硬直していた。ずっと昔に新一として泊まった時の服だなありゃ。


「あの頭の出来から考えると、組織の関係もないと思っていいと思う。」
「じゃ、じゃが…手のひらから火を出していたようじゃが…。」
「見たところタネも仕掛けもない、本当に手から生み出してたみたいだった。こんな超常現象、理解できねーけど…実際目に見ちまったもんは受け入れるしかねーよ博士。」
「そうは言ってものォ…。」
「おいマオ。」

少し離れたところで博士と会話した後、元居たソファに戻る。
マオはテレビすら初めてみたという顔をして、液晶にベタベタ触っては「こんなうすい板にヒトガタが挟まっている…」と呟いていた。

「お前、ジンやウォッカって知ってるか?」
「なんだそれ、べーかちょーの仲間か?」

きょとん、とアホ面をかましてきた。普通の人間がやったらむかつく表情なんだろうが、もともとの造形美が邪魔をしてそれすら美しい絵画の一コマになっている。

「……、分かった。オメーのさっきまでの話信じる。」
「し、新一!!」
「ホントーか!!」
「ただし!」
「おん?」
「オメーのこと、洗いざらい話してもらうぜ。」

驚愕する博士を後目に、マオと向き合う。信じるといわれたソイツは嬉しそうにはにかんでいた。


あれから暫く、博士と一緒にマオの話をひたすらに聞いていた。
青い炎が出せるのは魔力のある純血の魔族だけで、魔界はその血族で長いこと納められているらしく、マオはその魔族の中でも特に魔力が高いらしい。
母親は自分を出産する際に、自分の魔力に耐えられなくて亡くなってしまった。それに絶望した父親には愛情を一切注がれなかった。
それに同情した乳母が我が子同然に育ててくれたが、寿命が来て死亡。死に際に言われたある「オネガイ」によって、世界を渡る禁術を使って「オネガイ」を達成しに来た、と。
それが終わったから同じ方法で魔界である地獄に帰ろうと思ったが、落ちても落ちても到着しないから寝てしまった。長いこと寝てたような気がするらしい。
ってか魔王っていうけど、父親が健在なら王子なんじゃねえの…っていうツッコミは置いておいた。

「っていうハナシで合ってるんだな?」
「おん!」
「新一…こういう厄介ごとは警察やら、そういう団体に任せたほうじゃいいんじゃなかろうか…。」

マオに聞こえないようにボソボソと博士が耳打ちしてくる。
オレも最初はそう思ったが、
「バーロー。手から火の玉出すやつの話なんて警察が信じるかよ。」
「じゃがのォ…。」
「それに、」
「それに?」
「こんな世間知らず放って置いたらどこ燃やすかわかんねーだろ。……本音を言えば、あの組織にコイツが渡った時、どうなるか…。」

組織について言及した瞬間、博士の空気も変わった。

話してみる限り、マオを表現するであれば「純粋」。この世の何も知らない彼が、もし何かのきっかけで黒の組織にわたるようなことがあれば。
手から火の玉を出すのを序の口と言っていたし、もっと隠されたファンタジー的な異能力を持っている可能性が高い。
マオの話が全部本当だとして、こちらの戸籍も無いだろうし、手元で監視していた方が後悔しないだろう、というのがオレの判断。

「だから博士、しばらくマオはここに置いといてくれな!マオも家帰れねーみたいだし、それでいいだろ!」

にっこりと笑いながら博士にそう言うと、博士は面白いくらいに慌て始めた。
当のご本人マオは「いいのー!」なんて言いながらソファーではねる遊びを再開していた。

「哀くんにはどう説明したらいいんじゃ!」
「テキトー言うか本当のこと話すかどっちかじゃねーの?」
「そんなカンタンに言うんじゃないぞ!」
「冗談だよ。オレがちゃんと話通すって。」
「新一ィ……。」

涙目になって困っている博士も、少し悩んだ末に「確かに身寄りがない少年を野放しにするのは良心が痛む」と承諾し、先ほど持ってきたシャツを着る手伝いをしてやっていた。さっきまでは焦っていたクセに、そうと決まれば嬉しそうに世話をしている当たり、実はほっとけなかったんだろう。
阿笠博士の海外の知り合いの子供で、両親が亡くなって身寄りがないから預かることになった。”阿笠マオ”として生活して貰うことになった。

こうして世にも奇妙な”自称魔王”との生活が始まった。

(------その後、帰宅した灰原にも説明したが、めちゃくちゃ難航したので火の玉を出してもらったら気絶した。)




back
- ナノ -