せかいでいちばん

 色とりどりに並べられたフルーツたちをクリームでコーティングされたケーキに並べていく。二人で食べるには丁度いいサイズの、四号サイズのショートケーキ。今日の主役である日和くんに「なにが食べたい?」と尋ねてみたら「きみの作ったケーキが食べたい」なんていうから、いつもみたいにキッシュかな、と予想をしていた私はほんのすこしだけ拍子抜けして、それでも彼の希望を叶えるためにキッチンに立っていた。
「なまえちゃんの作るものはなんでも美味しそうだね」
「そうかな? 自分じゃよくわからないけど」
「ぼくが言うんだから間違いないね!」
「日和くんが言うんだから間違いないかぁ」
 いつの間にか私の背後に回っていた日和くんが、腰に巻きついて顔を覗かせる。日和くんのふわふわな髪が肌にあたり、少しくすぐったいけれど私の大好きな彼の匂いが鼻腔をくすぐった。穏やかなひと時に、頬を寄せ合って微笑み合う。
「んむっ」
「褒めてくれたお礼。メロン、おいしいでしょ」
 日和くんの髪の色に似た、メロンを彼の口に運ぶ。ケーキにトッピングしようと思って、切りすぎてしまった余り物。
「ん、甘くておいしいね!」
「ちゃんとケーキにも乗ってるよ」
「本当だ。それにしても随分とカラフルなケーキだね?」
 日和くんは私の手元にあるケーキを見る。真っ白なケーキの上にはメロン、それから林檎に桃、ブルーベリーとキウイに苺。ケーキを食べたいと言われ、味はどうしたものかと悩んだけれど、私はどうしても日和くんにこのケーキを作ってあげたかったのだ。
「日和くんの未来が、彩られた素敵なものでありますようにって願いを込めて」
 私の、日和くんへの想いを詰め込んだ世界でひとつだけのケーキ。
 反応がないことを不思議に思い、首を傾げてすぐ近くにある日和くんの顔を見ると、大きな瞳をさらに大きくさせ、驚いた表情を見せたのも束の間。酷く満足そうな表情で私の腰をぎゅっと強く抱きしめた。
「……なまえちゃんに出会えてよかった」
 耳をすまさなければ聞き逃してしまいそうな、消え入りそうな声で日和くんが呟く。その言葉がじんわりと私の胸に響き渡る。
「――日和くん、お誕生日おめでとう」
「うんうん、それから?」
「大好きだよ」
「ふふっ、ありがとう。ぼくもなまえちゃんのことがだいすき」
 ふと、頬に温かく柔らかな感触が伝わり、気付けば日和くんが私の頬にキスをしていた。二、三回ほど繰り返されるそれにくすぐったさを覚えて身を捩ると、満足したのか、日和くんの腕が腰から離れる。背中にあった温もりに寂しさを感じるも、振り返った先で待つ、「おいで」と両手を広げ、色っぽい声で誘う日和くんに私は勝てない。吸い込まれるように日和くんに抱きつき、首に腕を回して数秒間見つめ合う。
 言葉はなくても、通じ合う思いはひとつ。背伸びした私を抱き止めるように、世界でいちばん優しい口付けを交わした。

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