「久しぶりだな、この城も」



息を殺して物音を立てない様に窓を開けた。
俺がいつこの城へ訪れても良いように常に鍵を開けているこの部屋だが、俺としては是非自分の保身としても閉めておいて欲しいと思っている。
部屋の中は王族に相応しい装飾を施されているインテリアや家具が綺麗に配置されている。ここへ訪れる度についこれを売ればどの位の値段がつくのかと考えてしまうのは一種の職業病だと思っている。

目当ての人物はすぐに目に留まった。美しい黒髪を靡かせて机に伏せている彼女――ガーネット王女。



「…寝てるのか」



ガーネットは太陽の光に照らされながらすうすうと寝息を立てて眠っていた。その余りにも無防備な姿になんともいえない感情が沸いて来る。
彼女は旅で培った経験があるのでそこらの女性よりかは遥かに強くはあると思うが、それを差し引いてももう少し危機感を持って欲しい。
俺の様にこうして侵入してくる者がいたら案外簡単に連れ去ってしまえる、と思う。(勿論外には沢山の兵士が待ち構えているので誘拐を完遂する事は厳しいと思うが)


と、俺の想いが通じたかは分からないが彼女はゆっくりと体を起こした。そして瞼を擦りながらこちらを振り返る、目が合った瞬間思わず吹き出しそうになった。



「…うん……?」

「おはようございます王女様」

「え……、っ!?」



呆然とした表情から一変してみるみる顔が赤に染まる。
ああそういう所も相変わらず可愛いなと素直に口に出すと寝る直前に書いていたであろう手記を投げつけられた。若干痛い。



「っ早く起こしてよ…!!」
「ガーネットの安眠を邪魔する訳にはいかないだろ?
 それとも俺に早く会いたかったから起こして欲しかったのか?嬉しいねえ」
「っ!!」



赤く染まった顔を隠すように両手で塞ぐガーネット。目覚めからのあまりの表情の変わり様に笑いを噛み殺せないまま、俺は彼女を抱き上げた。
誰にも気づかれない様に二人、姿を消して当てもなく短い旅をする。この愛の逃避行は時間こそ限られているが、それでも一緒に過ごせるだけで俺達は満足だった。




「さあダガー、今日は何処に行こうか?」



多分これが幸せってやつなんだろうと思う。


君が隣りにいるだけで、何もかもが輝いて


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ガーネットでもダガーでも好きさ

2011 November 24


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