ゆっくりと重厚な蓋を開けると、目に飛び込んできたのは沢山の花々の中で眠っている彼。まるで直ぐにでも息を吹き返すのではないかと思える程の綺麗な顔に吃驚した。
生きているのではないかなんて馬鹿げた想いを抱きながらそっと頬に触れてみる。
その頬の冷たさに彼がもうこの世界には存在していない事を改めて実感し、落胆した。


――あの優しい笑顔が戻ってくる事はもう、ない。













「…ねぇ獄寺君、ツッ君は最後になんて言ってた…?」



私の言葉に獄寺君は顔を歪ませ、ぽつりと呟いた。彼の、最期の言葉。

――またね、なんて貴方はそれだけ意地悪なの。もう帰ってこれない事くらい貴方には分かっていたのでしょう?
そう私が彼に問うと、獄寺君は彼の腕を力の限り握り締めた。本当ですよと呟いて。
十年前の獄寺君では考えられない、彼に対する反抗的な態度は本当の意味で獄寺君が自分に心を開いた証なのだと嬉しそうに話していたのを今でも鮮明に覚えている。

ねえツッ君、貴方は自分の犯した罪に気づいてはいないでしょう?


「十代目は馬鹿なんだ。他人の事をいつも優先させていつも自分の事は後回しにする…命だって、そう」




そう、貴方は人が自分のせいで苦しむのを見れば喜んで自分の命を捧げる様な…そんな人でしょう?
その行いは決して良い物ではない事を貴方は分かっていなかった。…その行為に一体どれだけの人が悲しむかなんて貴方は一切考えてはいなかったのでしょう。





「……先に、戻ってる」



二人になりたい気持ちを察してくれたのか、獄寺君はこの場を離れていった。

獄寺君が見せた涙の数は、これで三度目だったような気がする。










「ねえ、ツッ君――」




貴方はこの世界にいろんなものをのこしていったんだよ。




貴方が遺していった最大の悲しみ。
貴方が残していった最後の過ち。
貴方が忘れていった沢山の愛。






「――君の大切な人達が今、泣いているよ」





彼の冷たい手の平に顔を押しつけて静かに涙を溢した。



――ねぇ、君が残した私のこの想いはどうすれば良いの?
愛してる、よと呟く声は風で揺れた木々の音で掻き消された。




のこされたものたち


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自己中な十代目


2011 November 24


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