「今まで、ありがとうございました…っ!」


京子ちゃんとお幸せに、俺を好きでいてくれてありがとう、ではまた明日。
そんな感じで涙を堪えて、自分にとって最上級の笑顔を愛しかったあのひとに精いっぱい贈って私は駆け出した。
頭の中で繰り返される最後の言葉を掻き消す様に一心不乱に駆けていく。彼と出会った時はまだ夕陽の光が辺りを照らしていたのに、今は闇が辺りを包んでいた。
息が苦しくなって足もがたがたに震えだしてその場に倒れ込む。街灯も少ない道路で孤独感が唐突に押し寄せた。



「っ…」

「――何してんだアホ女」



聞き慣れ過ぎた言葉と声に身体が震えた。
よりにもよって一番会いたくない人に会ってしまった絶望感と放っておいて欲しい気持ちが入り混じって頭がおかしくなりそうだ。何でここにいるんですか、と自分でも情けない位の声で吐き捨てると俺が何処にいたってお前には関係ないだろと返ってきた。正論だ。
足音が近くに来て自分の目の前に影が出来る。姿を確認する事も出来ずにひたすら嗚咽を上げながら泣く私に溜め息を吐く彼。



「泣いてんのか」
「っそうですよ、何か悪いですか」
「なに突っ張ってんだよ、一旦落ち着け。んで俺の顔見ろ」



いつになく優しげな声色に少し戸惑いながらも、とりあえず深呼吸してなんとか心を落ち着かせる事に集中する。
流れ落ち続けていた涙は次第に勢いを止め、やっと彼の顔を見る事が出来た。
携帯電話を片手に前に立っている彼は、少し困った様な表情を見せて口を開いた。



「十代目からメール来た」
「…獄寺さんにですか?」
「まあな。やっと終わったか、意味ねー足掻き」
「意味無いとか、言わないで下さいよ」
「結末は見えてたろ」
「世の中には逆転勝ちするラブストーリーもあるんですよ、知らないんですか?」
「知ってる、けどどっちも好き合ってたからまあ無理だろ、ってな」

「……そうですね」




彼の言葉は全て正解で、それは全て自分が今まで受け入れられていなかった事だった。
あの二人の事情を改めて彼から聞いて、やっと心の整理が付けられた気がした。



「獄寺さん」
「もう大丈夫です。なんかすっきりしました」

「…それは良かった」



私の初恋が終わった瞬間だった。









「獄寺さんって優しいんだか酷いんだかよく分かんない人ですよね。別にさっきのも励まされた訳じゃないですし」
「褒められてんだか貶されてんだか分かんねーよ」
「まあどっちでもオッケーなんです、けど今日は付き合ってくれてありがとうございました!ツナさんに言われて傍にいてくれたんですよね?」


「…俺は別に十代目に言われて居た訳じゃないけどな」

「へ?」
「なんでもねー」




さようなら恋心


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2011 November 24


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