獄寺は知っていた。自分の崇拝する十代目が頂点に立つのを頑なに拒みながらも自らその頂点の座へ登っていく事の理由を。
綱吉は自らの永久の平穏を望む事をいつの間にか止め、自分の周りの人間の平穏を求めるようになっていた。自分一人で背負えば周りの人間は何の変わりもない平穏の日々を過ごす事が出来る、そんな自己満足の主張を掲げて周りの為に進みたくもない茨の道をひたすらに進んでいっている事を右腕の立場である獄寺はより近くで、はっきりと感じていた。



「十代目」
「何?」
「……貴方の考えは綺麗事ですよ」
「うん。分かってるよ、でも俺はこうする事でしか進んでいけない駄目な奴だからさ、」



…嗚呼もう、なんで隼人が泣いちゃうかな。俺のほうが泣きたいのに。


目に触る。何も零れていない。綱吉の方を見ると綱吉は呆れた様な顔をしていた。
隼人の心が、泣いてるんだよ。
なんて何処の口説き文句だと思いながら獄寺は言葉を紡いだ。



「十代目」
「何?」
「俺にも背負わせて下さい」
「嫌だね」
「煩い」
「えええ何その返し」
「当たり前です。
 大体勝手に自分を犠牲にした所て周りが平穏を保つなんて事ある訳無いでしょう」

「…なんで?」



本当に不思議そうに首を傾げる綱吉に苦笑した。




「――貴方は自分が思っているより信頼されて敬われて、愛されているんです」







獄寺は知っていた。
この世界には頂点に君臨する者に身を捧げて生きている者が沢山存在する事を、それは此処でも例外ではないという事を。
その上絶大な信頼を置かれている十代目が姿を消せば小さな平穏など簡単に崩れ去ってしまう事を。


そもそも平穏など、この世界に染まった時点で無くしてしまっている事を。


全て、知っていた。
分かっていた。




嘲笑少年の滑稽な告白


―――――――――――

右腕の苦悩はきっと理解している


2011 November 24


| →