>> 9月9日 「相っ変わらずの巻き込まれ不運だな、留三郎は」 「……都竹?」 「よ。今日はどうした、ずぶ濡れで」 「薬草を取りに行って、川に落ちてな」 「なるほど。風邪をひくぞ、伊作は俺が背負っていくから、乱太郎だけ連れて先に戻ったらどうだ」 「……すまん」 「気にするなよ、いつものことだろ」 「いつものことだから気にするんだがな」 「誰の不運だかはわからないが、小さい身体で風邪を引くと難儀だろ、早く帰ってやれ」 「あぁ。気をつけろよ」 「お前もな」 「独り言を言おう。俺は前々から留三郎が忍者に向かないのではないかと考えていた。あれは人が好いからな。伊作はあからさまな不運とお人好しでなんだかんだとほだされる。タソガレドキの忍び組頭がいい例だ。文次郎や仙蔵も、お前には甘いところがある。しかし留三郎は抱え込みやすい上にあの頼れるお兄さん気質で、罷り間違っても護ってやる対象にはならない。今回は川に落ちる程度ですんだが、いつか留三郎がその優しさゆえに窮地に立たされないか、俺は案じてやまないよ」 「都竹なら、どうする?」 「ん? 起きたのか」 「気づいてたくせに」 「んん?」 「……僕と乱太郎が崖から落ちかけていて、都竹はどちらにも手が届く位置にいる」 「なるほど。よくある二択だな」 「どちらも助けようとすると、3人もろとも崖下にまっ逆さま」 「今回留三郎はこれをやったんだな」 「どちらか片方なら、多分助けられる。だけど、選ばなかったほうは崖下に落ちる」 「……なるほどねー。俺が伊作と乱太郎のどちらを助けるか、か」 「そ」 「……状況によるけどさ」 「例えば?」 「落ちたら死ぬかとか」 「うん、落ちたら死ぬ」 「……難しいな。選ばなかったほうは絶対に落ちるんだな?」 「選ばれなかった側は絶対に落ちて死ぬよ」 「じゃあ、そうしたら俺は乱太郎を助けるかな」 「ふぅん。……僕は見殺しなんだ?」 「お前は、俺たちも認める不運だ」 「見殺しにされるのって人為的不運だっけ」 「その反面、しぶとさも俺たちの認めるところだ。保険委員会委員長だし、落ちても処置できるかもしれない。6年生だし、乱太郎には無理でもお前なら受身を取れるかもしれない。そういう期待を込めて、俺は乱太郎を助けた後お前を探しに行くよ」 「……何それ」 「ん?」 「都合よすぎ。都竹もお人好しじゃない」 「……ばーか。俺が乱太郎を引き上げる間くらい根性で堪えな」 「文次郎じゃ、あるまいし……根性でなんとかなったら、誰も死なないよ」 「お前のそういう性格さ、嫌いじゃないけど、お前ももうちょっと優しく生きればいいのに」 「自分で言うのもなんだけど、十分優しいよ、僕は」 「優しいけど、優しくない。伊作はさ、根が優しいから余計に心配なんだよ」 「お人好しだから、でしょ? わかってるよ」 「……もう一回独り言を言うから、黙って聞かなかったことにしてくれよ。俺もそうだけど、仙蔵や長次はさ、適当を知ってるんだよ。どこまでなら自分を追い詰められるのか、自分でちゃんとわかってる。文次郎はさ、あんな性格だから、自分で自分を追い詰めすぎても回りから突っついて息抜きだってさせられる。伊作は優しいからいつかぽっきり折れる気がするんだ。追い詰めすぎる嫌いがあるからさ、なんか見てて不安になる。甘やかしてやってくれよ。背負いこみすぎてくれるな。だって、人の命は重いんだろう? 保険委員会委員長」 「……別に、さ」 「んん」 「全員を救えると思っちゃいないんだ。そこまで自惚れては、いない」 「わかってるよ」 「けどやっぱり、辛いなぁ」 「……ん」 「救えないってわかってても、ね。救いたい。……都竹のこともだよ」 「俺?」 「都竹だって、大変でしょ?」 「そこまで気負ってないよ、俺は」 「気づいてないだけ」 「じゃあ、甘やかして」 「うん」 「よろしく」 「……ありがと」 戻 |