いろは唄 | ナノ
くのたま6年

>> 蜥蜴の尻尾みたいに切り捨てられたらどれほど良いか


六年生になったある日、垣根の向こうには天から女の子が落ちてきた。らしい。

その子はくのたま長屋の一室を与えられて寝起きをしている。

日中は食堂のおばちゃんや事務の小松田さんたちのお手伝いをしているようだ。

食堂や正門の管理なんて、身元も知れない人にさせていいのかしら。

不安に思ったけれど、彼女一人でさせているということでもないらしい。

それでもやっぱり、不安は不安ね。あの人が帰ってきたら、ちょっと相談してみようかしら。


律儀なもので、一年生のときにした約束は、今も続いている。

時にはあの人に言付けられた忍たまの子が顔を出して断りを入れてくる。

先輩は今日は忍務でお出かけをしているので、来られませんって。

そういうときは、用意していたお菓子をお駄賃代わりに渡してあげることにしている。

そうすると、その次の時にあの人が、お菓子の感想を後輩から預かってくるのだ。


この間のお休みは、言伝を預かった一年は組のよい子たちがじょろじょろと集団でやってきた。

あの人は、忍務でお出かけ。でも次の約束までには戻ってくる。ですって。

あんまりにたくさんで来るから、お菓子はひとりひとつしか渡してあげられなかった。

でもとっても喜んでくれるから、一年生ってとってもかわいいわね。

手を振って垣根の向こうの子供たちを見送る。


その次の約束の日、あの人はいつもと同じ笑顔で顔を出した。

は組の子たちの感想を教えてくれて、そのあとはいつもと同じ。

いつもと違ったのは、別れ際だった。


「ごめん、ちょっとしばらく、来られないかも」


垣根の向こうを気にしながら、疲れた顔で言う。


あの人のせいだ、と咄嗟に思った。

天から落ちてきたという女の子。

その周囲にいる忍たま上級生たちの異変は、こちらにも伝わっている。


「わかったわ、また来られるようになったら言ってちょうだい」


どう答えるのが正しいのか、わからなかった。

けど安心したように笑ってくれたから。

いつもと同じ笑顔を見せてくれたから。

それでよかった、と思うことにしたの。


(また来てね。きっとよ、きっと)


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