学級委員長委員会委員 >> とろとろふわふわ。 さてさて、学級委員長委員会がきりきり舞をしている最中、羽鳥幽助くんはのんびりと歩いていました。 1年生だから特別免除というわけではありません。残りの2人は今も仕事をしているのですから。 あまりに寂しそうにしているので、委員長の少年が仕方ないなと苦笑いで送り出してくれたのです。 1年い組の学級委員長と1年は組の学級委員長は、羽鳥幽助くんが寂しがっていることを知っていました。 だから、見つからなかったら戻って来いよと言って、見送ってくれたのです。 困ったような表情で、それでも優しく見守られる羽鳥幽助くんは人間関係に恵まれています。 周囲の人間に恵まれた羽鳥幽助くんは幸せ者ですが、それでも寂しいときは寂しいのです。 いつも時間を過ごしていた蛸壺を、もうずっと見かけていないのです。 羽鳥幽助くんは、最後に蛸壺に入ったのがいつか、思い出せません。 それはもう思い出せないくらい、ずぅっと前のことなのです。 自由気侭な羽鳥幽助くんは、その実拘るときにはとことんまで拘るのです。 その拘り具合といったら、偏執狂とでも呼べる域に達しています。 羽鳥幽助くんの数少ない拘りの1つが、綾部喜八郎くんの掘る蛸壺なのです。 見つけるのだと意気込んだ羽鳥幽助くんは、見つけるまでは諦めません。 傍から見れば迷子の羽鳥幽助くんですが、迷ってはいないのです。 居場所も目的地も定かでないので、そもそも迷うはずがありません。 羽鳥幽助くんは蛸壺を見つけられないまま立ち止まってしまいました。 じんわりと涙が浮かびます。ここで素直に諦めて委員会室に帰ればいいのかもしれません。 そうすれば優しい先輩たちが抱き上げて頭を撫で、優しい同輩たちが涙を拭ってくれるでしょう。 のんびりやの子供は愛されているので、寂しがっていれば慰めてもらえるのです。 ところがそれができないのが羽鳥幽助くんの偏執狂たるゆえんでした。 蛸壺が見つからないのであれば、別の場所に行こう。羽鳥幽助くんはそう考えました。 綾部喜八郎くんの掘る蛸壺と出会う前、お気に入りだった場所があります。硝煙庫跡地です。 今の6年生が1年生だった頃の6年生が、事故で爆発させたという硝煙庫跡地です。 そこは季節も時間も関わりなく薄暗く、空気が淀んでいます。 黒く焼けた土はひっくり返されたものの、未だに草のひとつも芽吹かないのです。 委員会の先輩は気味悪がって近づかない方がいいと言いましたが、好きなものは好きなのです。 薄暗く寂しい場所で、羽鳥幽助くんは1人膝を抱えました。 寂しいときに寂しい場所に行くと、余計寂しくなってしまいます。 のんびり気侭な羽鳥幽助くんも、その例外ではありませんでした。 なんだか余計に寂しくなってきて、大きな瞳からぼろぼろと涙が零れ落ちます。 井桁模様の水色の制服が濡れても、誰も涙を拭ってくれません。 そう思うと、余計に寂しかったのがもっと寂しく思えてきました。 「あらぁ、坊や、泣いてるの?」 ぐずりと鼻を啜って、羽鳥幽助くんは顔を上げました。 声も顔もすべて女性のものでしたが、赤紫色の制服を着ていました。忍たまの4年生です。 知らない人だったので、ふいと下を向いて、羽鳥幽助くんは泣きました。 知らない人が何千といたところで、知っている人がいなければ意味がないのです。 そして羽鳥幽助くんが今求めているのは、綾部喜八郎くんの掘った蛸壺1つなのです。 「寂しいのねぇ。我慢しなくっていいのよ、存分にお泣きなさいな」 ぎゅうと抱きしめる知らない先輩は、ふんわりと甘い香りをしていました。 衣に香を炊き込めてあるのですが、そんなことを知らない羽鳥幽助くんはちょっと笑いました。 家を思い出します。お母さんと違って、でも同じ、優しい匂いです。 前頁 / 次頁 |