いろは唄 | ナノ
学級委員長委員会委員長

>> え


ちらりと空を見上げれば、忍者の大敵である満月が見えた。

本当はこんな明るい月夜に、忍ぶべき私事をするべきじゃないんだけど。

ほら、こういう夜だからこそ、こんなことするなんて思わないだろ? 裏をかくわけだ。


廊下を歩き、厠に向かう。用を足していると、長屋に近づいてくる気配が1人分。

懐を確かめて、誰もいないことを確認してから、俺は天井裏に這い上がった。

そのまま天井裏伝いに6年生長屋を出て、くのたま長屋に向かう。

くのたま長屋に忍び込むほど愚かなこともないが、致し方ない。つーか許可取ってるし。

いくら俺が6年生とはいえ、1人の協力者もなしに計画を遂行する気はない。


「こーんばんは」

「こんばんは、都竹先輩」


いつだったか、食満から庇ったくのたまだ。名前は唯ちゃん、可愛いよな。

技術面では特に秀でたところのない子だが気が強い。ちなみに行儀見習いだそう。

くのたまはみーんな度胸あるけど、この子もかなり度胸が据わっている。


「夜這いですか?」

「そんなはしたないこと言わないの。ちょーっと天女サマに、ね」

「彼女は、ぐっすりお休みですよ」

「そなの? んじゃあ諦めるよ」

「はい。ではお気をつけて」


決行ですか? そうです。天女様は寝ていますか? ぐっすりです。では今から行きます。

ま、そーゆうことで、今から天女サマを抹殺、じゃなかった、暗殺してきます。

あ、ちげーや、天女サマには土だか天だかに還ってもらうんだった。


くのたまたちからの信用はあるので(舐められているわけではない、はず!)、俺が長屋に忍び込んでも黙認。

彼女たちからすれば、俺が教師陣に見つかりさえしなければ、何も言う必要がないんだろう。

天女サマはほとんどの男に好かれてるけど、逆に女子には大層忌み嫌われているってことです。

異性に好かれる人間は同姓に嫌われるんだよ。妬み嫉みってやつだな。

やっぱ人間地盤が大切だよなー。空ばっか見上げて歩いてると蹴躓いちゃうから。


いつもは張り巡らせられているえげつない罠も、今日ばかりは気持ち程度に撤去されている。

頑張れば通り抜けられるよ、程度にだ。えげつない……。

おい、モテない忍たま諸君、今が好機だぞ! 返り討ちにあう覚悟があるなら来い。

唯ちゃんの案内で天井裏をするすると進み、天女サマの部屋の天井板を外す。


「では、私はこれで」

「うん、ありがとう」

「では、御武運をお祈りいたします」


ちょっと大げさだよ、それ。


苦笑して、部屋に忍び込んだ。唯ちゃんが天井板を戻して部屋に帰っていく。

天井裏を通った後は、抜け目なく綺麗にしてくれることだろう。

くのたま長屋のそこかしこで人の動く気配がする。今から罠の再設置か。

もう戻れないなぁ。戻るつもりは、ないけど。


肝心の天女サマはぐっすりと眠ってる。味方のいないくのたま長屋で熟睡とは恐れ入る。

それだけ肝が据わっているのか、それともただの無知ゆえなのか。きっと後者。

布団を捲って天女サマを担ぎ上げる。


くのいちとして殺そうと思ったこともあったけど、それはしない。天女様として消えてもらう。

死後の名誉だけは精々守ってやるよ。あんたには言葉にならないほど感謝してるんだ。


気取られてはいない。気配を消して体育委員会がよく走っている道を駆ける。

自慢じゃないが脚力には自信がある。たったかたーっと走り、目的地へ。

それにしても、体躯の割にはなんだか軽いな……?

(真っ向勝負の騙し合いといこう)


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