学級委員長委員会委員長 >> ふ なにやら不穏な空気を感じて6年長屋に足を踏み入れれば、そこではハブとマングースが睨みあっていた。 あぁ、もちろん比喩表現さ。都竹先輩と天女派の6年生が都竹先輩のお部屋で睨みあっていた。 都竹先輩の看病についていた反天女派の4年生2人が、居心地悪そうにその様子を見やっている。 喧嘩しないでとほざく天女と冗談じゃないと嘲笑う都竹先輩と、ふざけるなと睨みつける6年生たち。 あーぁ、都竹先輩も意地張っちゃって。 知ってるんですよ、私。都竹先輩って意外と寂しがりでしょう? 信じてるのに信じてもらえないって辛いでしょう? あなたの6年間を奪ったあの女が憎くて憎くてたまらない。 でももっと嫌いなのは、別のもので。 言えば言うほど嫌われるとわかっているのに、でも言ってしまう。 それって、あなたが今もその人たちを慕っているからでしょう? ……仕方のないお人ですね。私は何度も助けられたから、今度は私がお助けしましょう。 ですから、私だけを愛してください。私だけを好きでいてください。 それ以外のものなんて、何もいらないでしょう? ねぇ、都竹先輩。 私のすべてを差し上げますから、あなたのすべてを私にくださいね。 長屋の部屋まで駆け足で引き返して、顔を変更。装束もちゃんと着替えて、これでよし。 私は都竹先輩より1つ年下で、その分経験も浅いけれど、私だって忍たまだ。 都竹先輩がただ優しいだけの先輩でないことくらい、ちゃんとわかってる。 ただ優しいだけの人が、最高学年になんてなれるはずないもの。 いいんですよ、都竹先輩が私を陥れていたって。騙されていたって構わない。 お傍にいさえすれば、都竹先輩はそれで私を抱きしめてくれる。 好きの表現はとんでもなく捻くれていても、その好きだけは本物だと信じられる。 愛してくれなくっても、私を好きでいてくれる。私だけを好いてくれる。 私のすべてと先輩のすべてを分け合って、それからずっと一緒にいましょうね。 そうしてくれたらきっと、私はずっと幸せだ。 あぁそうだ、それがいい。そうしよう。そうしてもらおう。 たまたま通りがかったような顔をして、都竹先輩の部屋を覗く。 何も知らない顔で事情を訊いて、どうすれば事が収まるか考える。 どっちが悪いかなんてわかりきっていた。 だけどきっと向こうは非を認めない。だから。 「都竹、少し言い過ぎておらんか?」 「……非礼を詫びましょう、天女サマ」 自分が下級生に天女に喧嘩を売るなと言ったのに、自分で率先して喧嘩を売るなんて。 都竹先輩は本当はもっと温厚なんだから、穏便にすませておけばいいのに。 「申し訳ありませんでした」 都竹先輩は殊勝な表情で深々と頭を下げた。 厄介ごとを増やすよりそのままさっくり流す方向を選んだに違いない。 先輩、先輩。表情が胡散臭いです。 都竹先輩は明らかに天女を見ていたけれど、先輩方はぐだぐだと言っている。 曰く口先だけだ。曰く反省が伺えない。曰く誠意が感じられない。要するに胡散臭いと。 何を勘違いしているのか、しばらくして満足したのか帰っていった。 なんて不愉快な。 「てっめ、おい三郎、なんで山田先生?」 「先輩、山田先生に弱いので。 それより、なんであっさり見破ってしまうんですか?」 「おい。……ばかだな、俺がお前を見間違えるはずがないだろ」 あぁ、都竹先輩は私を見間違えたことなんてなかったっけ。 私が誰に変装しようと、何に変装しようと、都竹先輩にだけは通じた例がない。 もし私が変装していて都竹先輩が本気で気付いてなかったら、それは都竹先輩の偽物だ。 先輩のおそばに座り込んだら、頬を指先でつつかれた。 ちょっと痛い。 ちょちょいと書き換えられて。 この顔の人、いったい誰だろう。 先輩は、たまに勝手に私の顔を変えてしまう。 困った人だ。 部屋の隅にいた四年生が、安堵の表情で都竹先輩を見ている。 「先輩、先輩」 「んー?」 「痛いですか?」 「いや……痛く、ないよ」 そう、痛いんですね、都竹先輩。痛むんですね、ねぇ? 前頁 / 次頁 |