学級委員長委員会委員 >> はっぴーらっきーしゃっきーん! さてさて、世の中には人には理解の及ばぬ不可思議な出来事が多々あるものでございます。 どういうことだかはわかりませんが、ふわふわと大層美しい女性が天から舞い降りたのです。 それはつい昨日のことでしたが、1日経ってその女性は学園に溶け込みました。 多くの生徒が一斉にその女性を天女様と呼び慕っているのです。 薄暗い雰囲気の漂う1年ろ組のよい子たちは、煌びやかな天女様をあまり好いてはおりません。 だって自分たちとはあまりに縁の遠いものですから、近づきがたいのです。 その隣の1年は組では、食堂のお手伝いとして雇われた天女様を慕う声がちらほら。 その反対隣の1年い組では、不思議な現れ方をした天女様に首を傾げております。 しかしそんなこと、この羽鳥幽助くんには関係ありませんでした。 のんびりやさんとは、えてして周りの出来事にあまり興味がないものですから。 1年ろ組の生徒たちはいつもの通り、長屋の近くで日陰ぼっこに勤しんでおります。 そしてそんな同級生たちを余所に、自由気侭な羽鳥幽助くんは、中庭の木陰にやってきました。 学級委員長の癖に、あまり協調性というものに恵まれていないようです。 いつもの通りに蛸壺を見つけて、足からそうっと中に降りました。 木陰に作られた蛸壺の中は少し寒かったようで、膝を抱えてぎゅうっと縮こまっています。 「おやまぁ、またいる」 天才トラパーと謳われる、綾部喜八郎くんがふらりと現れました。 今日も今日とて、踏み鍬の踏子ちゃんを大切に抱えています。 羽鳥幽助くんはぼんやりとした表情で穴の上を見上げました。 薄暗くて顔がよく見えませんでしたが、こんなところに来る人は多くありません。 「あやせんぱい?」 「行かないの?」 綾部喜八郎くんの言葉は唐突でした。突然過ぎて何がなんだかよくわかりません。 それでも、決して頭の悪いわけではない羽鳥幽助くんは、ちょっと考えて答えます。 「だって、あんまりきょうみないです」 天女様のことです。のんびりやの羽鳥幽助くんは、自分がのんびりできたら満足なのです。 ふんわり現れた天女様が、どれほど優しかろうとどれほど怪しかろうと、そんなことはどうだっていいのです。 好きも嫌いもありません。羽鳥幽助くんは狭い世界に生きていて、そこに天女様はいないのです。 「ぼく、あやせんぱいのたこつぼだぁいすきです」 「おやまぁ」 自分と、蛸壺と、ついでに綾部喜八郎くんと、そして級友たち。 そこに両親や委員会の先輩たちを加えて、それでおしまいです。 天女様は羽鳥幽助くんの世界の住人ではないのですから、どうだっていい存在なのです。 にこにこと笑う羽鳥幽助くんは、次の瞬間にくしゃみをしました。 綾部喜八郎くんはきょとりとした後、ちり紙を渡してやりました。 前頁 / 次頁 |