学級委員長委員会委員 >> しあわせなせかい。 さてさて、学級委員長といえばしっかりものの多いこの頃でございます。 その子は学級委員長の肩書きを持っておりましたが、至極のんびりとした子供でありました。 名前を羽鳥幽助というこの子供には、いくつか好む場所がありました。 その中でも一等好む場所は、3つ上の4年生の掘る蛸壺の中であります。 そこは狭くひんやりとした空間で、そこで膝を抱えると落ち着くのだと、その子供は言いました。 羽鳥幽助くんは、きっと保健委員の誰かが落ちていたであろう蛸壺を見つけたようです。 よいしょと足からそうっと中に降りて、いつもの通りに膝を抱えています。 ぼーんやりと、小さく丸く切り取られた青空を眺めています。 日当たりのよい場所に作られた蛸壺は暖かく、羽鳥幽助くんはうつらうつらとし始めました。 「おやまぁ、またいる」 そこに穴掘り名人と名高い4年生がやってきて、穴の中を見下ろしました。 片手には愛用の踏み鍬、踏子ちゃんを大切そうに抱えています。 どこかでまた蛸壺を掘ったのでしょうか、頬に土がくっついています。 そういえば、どこか遠くで誰かが悲鳴を上げたような。 実は、羽鳥幽助くんのいる穴も、この綾部喜八郎くんが掘りあげたものです。 綾部喜八郎くんは眠ってしまった羽鳥幽助くんを見下ろしています。 そしてふと思いついたように手を伸ばして、まだまだ柔らかい頬をぎゅうとつまんでしまいました。 「ふえっ!」 羽鳥幽助くんが、ぱちりと目を覚ましました。 きょとんとして穴の上のほう、小さな青空を隠す人影を見上げます。 「あやせんぱい?」 「起きたの」 「だって、せんぱいがつねったもの」 ふにゃふにゃとした口調で、羽鳥幽助くんは言いました。 つられたように、綾部喜八郎くんはいつもより柔らかな口調で言います。 「よく眠っていたねぇ。でもそこで寝ていると怒られるよ」 実は羽鳥幽助くんは、一旦眠ると身じろぎひとつしないのです。 だからこういう狭いところで眠ると、組の子たちが心配をするのです。 「だぁって、ぼく、あやせんぱいのたこつぼだぁいすきです」 「おやまぁ」 羽鳥幽助くんは、そう言って何度も蛸壺の中で眠るのです。 だから綾部喜八郎くんは、のんびりと首を傾げて、しつこくは言わないのです。 前頁 / 次頁 |