いろは唄 | ナノ
学級委員長委員会委員長

>> 4


都竹先輩が三郎先輩を何よりも大切にしていることは、委員会のみんなが知っている。

誰も口に出しては言わないけど、確認するまでもないくらいに浸透した事実だ。

だって都竹先輩は三郎先輩が笑っているだけで楽しそうに笑っていらっしゃるから。

もっとも、都竹先輩はどんなときにだって何らかの笑顔を浮かべているのだけど。


いつだったか、僕が都竹先輩にわからないところを教えていただいているときだった。

そこにふらりとやってきた三郎先輩が何気なくとりとめもない用で都竹先輩に声をかけて。

都竹先輩は勉強を手早く取りまとめてそっちに構い始めてしまった。

必要最低限の簡潔な解説で、疑問を解消することに支障はなかったけども。


そのときに気づいたのが、優先順位というものの存在。

あれが好き、これが好き。でもそれがもっと好き。

学園が好き、後輩が好き、でも三郎先輩がもっと好き。そういうこと。


不思議と寂しいとは思わなかった。

多分、都竹先輩は僕たちのこともちゃんと好きだから、かな。


今だって、何があったかわからないけど、ただの気まぐれとは考えがたい。

きっと、また三郎先輩だ。都竹先輩が委員会の仕事を後回しにするのは、それくらいしか理由がない。

僕たちが仕事を始めて四半刻も経たないうちに委員会室に来てくださると思うけど。

適当そうに見えて存外生真面目なお人だもの、都竹先輩は。


「都竹先輩ったら」

「いますぅっごく」

「悪どいお顔だね」


都竹先輩は僕たちを保護対象として護って下さっているけれど。

何があったかはわからなくても、子供は子供で聡いんですよ。


大人に近づいてしまった都竹先輩には、もうわからないでしょうけど。


そして四刻半、僕たちは何も知らないふりをして先輩を迎えるのだ。

下級生は保護対象。年下の子供は保護対象。力なき存在は保護対象。

助けるべきは、護るべきは、手の届くところにいる力のない女子供。


都竹先輩はとってもお優しいから。


(先輩先輩、大好きですよ)


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