いろは唄 | ナノ
学級委員長委員会委員長

>> 3


あっれ、なぁにやってんのかなぁ、長屋の影なんぞで。

1年生はまだ声にさえ気づいていないけれど、はて。

2人分の気配がするなぁ。片方はやけに苛ついている。

そしてもう一方はやけに不安定に揺れている。


あぁ、これはそういうことか。そういうことなのか。

とうとう我慢の限界を超えたということだ。


それは、つまり。ようやく。


「だからね、迷惑だからもう僕の顔しないで」


僕の、顔。する。その言葉から導き出される2人組は。

考えるまでもない。この学園には1組しか該当しない。


あいつ、ふざけやがって。いっそ、殺して。


「……都竹先輩?」

「んん?」

「怖いお顔をしていらっしゃいます」

「そうかな、ごめん」


1年生の前で殺すなんて、あぁ、そんな物騒なこと考えちゃ駄目だ。

まだまだ未熟だなぁ、俺も。感情に流されるなんて。踏み留まらないと。

こんなんじゃ後輩に三禁がどうのなんて言えたもんじゃない。


「先に行ってくれるかい、俺は後から行くから」


視線を合わせて、小さな頭を3つ撫でた。


「「「はぁい!」」」


3人揃っていい子の返事。

俺はにっこりと笑って返してその場を離れた。


俺はこっそりと長屋の影を覗く。

1人はもう行ってしまったのか、三郎だけが残っている。

冷たい地面に膝を突いて、不破の去った方向に顔を向けている。


どんな表情をしているんだろうね? 泣いちゃったかな?


あぁ、なんて可哀相な子。ふふっ、あーぁ、可哀相にね。

とうとう雷蔵に嫌われちゃったな。とうとう雷蔵に捨てられちゃった。

あーぁ、やっちゃったやっちゃった、ようやくやってくれちゃったな。


あっは、あははははははははははははっ!! あー、おっかしい!!


と、いうことで不破くんはそろそろ舞台から降りてもらおうか。

だってこれは俺と三郎の物語だもの。役目を終えた役者はもういらない。

ここから先、終幕までお前はいらないんだよ。

お疲れ様ですではさようなら。出口はあちらですどうぞお帰りを!


下準備はもうおしまい。

後は目的を達成すればいい。


(さようなら、俺の恋敵よ)


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