学級委員長委員会委員長 >> 2 鉢屋が歌ちゃんに嫌悪を示したとき、ただの嫉妬だと僕は思った。 僕が歌ちゃんを好きになって、鉢屋に構わなくなったから寂しいだけだと思った。 今まで甘やかしてきたのに冷たくしたから、ちょっと拗ねているだけだと思った。 だってあんなに可愛くて優しくて素直な女の子を嫌うなんてありえない。 それだけの理由で歌ちゃんを受け入れられない鉢屋を、むしろ可哀相だとさえ感じた。 鉢屋が歌ちゃんを疑ったとき、僕は強い怒りを覚えた。 歌ちゃんは見知らぬ土地で心細いだろうに頑張っているんだから。 それをくだらない嫉妬で疑うなんて、そんなの正気じゃない。 鉢屋はおかしい。そう判断するのに、迷う必要なんてなかった。 そんなことを言いあって絶縁した後も、鉢屋は僕の顔をやめなかった。 正直に言うと、その顔面を潰してやりたいほどに腹が立った。 図々しいし、それ以前の問題として、僕の顔でいられると迷惑なんだ。 鉢屋が僕の顔をしていると、歌ちゃんは僕を鉢屋と間違えてしまうかもしれない。 鉢屋が僕の顔をしていると、歌ちゃんは鉢屋を僕と間違えてしまうかもしれない。 僕は鉢屋と一緒にされたくないし、鉢屋が僕のふりをして歌ちゃんを傷つけるのも嫌だ。 そんなのは絶対に駄目だ。だからやめさせようと、迷うことなく思った。 僕が強く言えば、鉢屋はたいてい僕の言うことに従う。 鉢屋は僕に嫌われることを極端に恐れているから、僕が本気になれば鉢屋は逆らわない。 もっとも、僕はすでにこれ以上なく鉢屋のことを嫌悪しているけど。 そうと決まれば、行動はできるだけ早いほうがいい。 のんびりしているうちにも、鉢屋は歌ちゃんを傷つけるかもしれないもの。 さて、鉢屋は一体どこにいるんだろうか。 足早に探していると、鉢屋のほうから声をかけてきた。 周囲に人影はないし、普段なら人目を憚って言わないことも言えるだろう。 そう思って、とりあえず笑顔を作った。 油断させて突き落とそうなんて意図はない、多分。 「まだ、僕の顔を使ってるんだね」 「え、あ、あぁ。うん、私は雷蔵が大好きだからな!」 自分で思っているよりも冷めた声だったけれど、鉢屋は気付かなかったようだった。 満面の笑みを浮かべ、珍しいほどの喜色を声に滲ませている。 「なぁ雷蔵、もうあの女に飽きたんだな?」 その言葉を聴いた途端、表情から笑みが抜け落ちるのが自分でもわかった。 「私、雷蔵と仲直りをしたくって!」 「まだそんなこと言ってるの?」 仲直り? 冗談も大概にして欲しいな。 歌ちゃんを傷つけかねないやつと、仲良くできるはずないじゃないか。 「僕が言いたかったのは、その顔をするのはもうやめてってことだけ」 迷惑だし、気持ち悪いし、しつこいし、鬱陶しいし。 僕がいなきゃ何もできないっていうの? なんかもう、全体的に面倒臭いっていうか。 「ら、雷蔵?」 「名前で呼ぶのももうやめて。顔も見たくない。大っ嫌い」 あーぁ、僕はどうしてこんなやつと仲よくしてたんだろう。 前頁 / 次頁 |