学級委員長委員会委員長 >> な ということで、ようやく始まる学級委員長委員会臨時会議です。 後輩たちに盛大な遅刻を詫びるところから始まり、議題は各委員会の活動状況について。 というかうちの下級生は揃ってしっかりしすぎ。後進に安心すべきか、自身を憂慮すべきか。 まぁ、俺にとっては自慢の種なんだし、それはそれでいいんだけどさー。 出席している委員を全員振り分けてはいるけど、やっぱり人手が足りない。 っていうか、慣れない作業だから上級生たちには劣るところがあるというか。 そもそも保健委員会だの生物委員会だのは専門性があるからな。 体育委員会だって並大抵の体力じゃあ、本来の活動をこなすことはできない。 体力づくりだの経験だのの利点がなきにしもあらず、だけどそれだけに集中できない。 暇だ暇だと言われていても、俺たちには俺たちの仕事がある。全員を他所に回すことはできない。 肩代わりできることとできないことがあるということで、結局俺たちだけで万全の体制は作れない。 つまり、本来所属している下級生だけでもうまくやっていけるように目指さなければ。 今年で俺は卒業する。来年で三郎は卒業する。 そのときには5年生になった4年生だけでも十分に回せるだろうけれど。 まぁ、それもこれもそれまで現状が維持されればの場合のこと。 だから細々と調整を繰り返して、最善でなくとも次善には近づけるように。 気を抜く時間なんてないし、手を抜く余裕なんてないし。 あーぁ、忙しい忙しい! 「都竹先輩! この帳簿はどこに置けばいいですか?」 「あーそれ、そっち、押入れの前の右から三つ目の文机の真ん中の山」 この言葉で、そこにどれほどの紙の束があるか察して欲しい。 各文机に紙束が3つづつ。はい、おかしいですね。 その文机がいくつあると思うよ、まったく。把握できてる俺がすごい。 保健委員や小松田さんであれば崩落して大惨事を引き起こしかねない量だ。 顔を上げたついでに右肩をくるりと回すと、鈍い音がした。 ……こらそこ、親指立ててこっち向けんな。 下級生の集中力もそろそろ途切れてきたみたいだ。 俺もちょっと疲れたし、このあたりで休憩挟むとするかな。 筆を置いて書き上げた帳簿を閉じたそのときだった。 がらりと、締め切ったはずの扉が開いた。 「……あ?」 尾浜と、天女サマ……? 何故、ここに。 「あっ、都竹くん! あのね、学級委員長委員会が忙しいって聞いて、あたしたちお手伝いに来たの!」 「は……?」 え、え? えぇ? えぇっ!? 何それ聞いてねぇよ!! てゆーか、は!? 何言ってんのこのばか女。 どういうことでしょう。とりあえず尾浜に視線で回答を求めてみた。 「最近お忙しくしていらっしゃると伺ったので、俺も学級委員長ですし」 俺から求めてなんだけどさー、以心伝心できたことに物凄い苛立ちを感じた。 お前さ、まだ学級委員長委員会に所属してるつもりだったの? 一応、俺としてはとっくに除名処分にしたつもりだったんだけど。 後ね、その心がけはおかしいっしょ。 なんで俺たちが急がしそうで、お前は手伝いに来るの? お前も主力となって働くべきなんだよ、本来なら。 5年生だろうが、ふざけんな。 爽やかな笑顔を欠かさないという評判にかけて、俺は笑顔を作った。 多少の爽やかさは失せていただろうが、引きつってはいないと思う。 そして見るのは尾浜と天女サマの足元。 そこから先は学級委員長委員会会室であって、すなわち学級委員長委員会委員長たる俺の領域だ。 つま先が一寸でも敷居を越えてごらんよ、俺がすぐさま排除してやるからさー。 俺が笑顔を浮かべたからか、にこにこと笑って天女サマが足を上げた。 はい駄目。その足の運び方ははしたない。まぁそれはどーでもいーとして。 彼女もいい加減に学ばない。俺があんたをどれだけ嫌っているか、そろそろ理解して欲しい。 俺の笑顔は現在、愛しい愛しい後輩たちのためだけに浮かべられているのである。 「……はいっはーい、注目! 4年生以下は速やかに解散、残りの仕事は明日の昼に集まってやろうなー」 そうそう、以心伝心はこっちとやりたかったんだよな。 ささーっと資料を纏めた後輩はささーっと委員会室を出て行く。 最後に若干戸惑っている彦四郎を庄左ヱ門がひっぱっていったのを見送って、これにて終了。 い組は咄嗟の事態に弱いな。やっぱその点は実戦経験豊富なは組に負けるか。 よし、今度時間が空いたときに学級委員長委員会主催不意打ち大会でも開こう。 内容は簡単、俺たち学級委員長が通り魔的に人を驚かすだけの企画である。 驚かせ役を経験し、人がいかに驚くかを知り、どういう場合に驚かされる可能性があるかを知る。 上級生の娯楽にして下級生の勉強という素晴らしい思いつき。 ……学園長先生的な発想とか言うなよ。自分でもちゃんとわかってるから。 あれよあれよと言う間に人のいなくなった委員会室で、残るは4人。 書類を纏めて見えないところに隠す俺と三郎、それから驚く尾浜と天女サマ。 さて、あの子たちはそろそろここから十分に離れた頃合いだろうか。 言い始めたら冷静でいられる自信がない。俺の耐久力はここ数ヶ月で随分と削られている。 時折発散してはいるが、しかし精神的負荷は想定以上に俺の余裕を奪っている。 「尾浜さ、それってふざけてんの?」 あれま、自分で思ってたよりも低い声が出た。まるで唸り声のよう。 多分、というより絶対。今の俺は凶悪な表情を浮かべているのだろう。 「わかってんだろうね、学級委員長委員会と会計委員会は特に重要な学園の機密事項を扱ってんだ。 それを易々と、よりによって学園内部の人間が身元も定かでない女を招きいれるようなことがあっていいと思ってんのか? 冗談じゃないな。情報ってのは時として何よりの武器であり防具でもある。それを誰がお前らに与えるかよ。 どいつもこいつもさ、三禁はお忘れかい? 優秀揃いと名高いい組が情けないこったな。 お前ら出て行け、こっから、今すぐだ。さもなきゃ俺がお前らを学園から叩き出す。さぁ今すぐ消え失せろ!」 今までの鬱憤を晴らしたと言っても、それは偽りじゃないだろう。 言い終わったとき、確かに俺は爽快感を得ていたのだから。 だが言われる方が悪いと思わないか? だって俺が言っているのは極々当然の心得だ。 だからちょっと辛そうな顔した三郎だって何も言わないだろう? 尾浜だって、言って聞かせれば理解できるよなぁ、赤ん坊じゃないんだから。 「そ、そんな言い方酷いよぉっ!! 勘右衛門くんは、あたしに学園について教えてくれようとしただけなのにぃ……!」 「あははっ、天女サマってばことごとく俺の神経を逆なでするよねー。男受け以外にも何か狙ってんの? 部外者は黙ってろこのすっとこばーか。委員会活動の詳細は俺が把握してるんで、引っ込んでてくれる? あんたがここの活動内容を知る必要性は皆無なの。つーことなんで二度と学級委員長委員会室に立ち入らないでね。 これは学級委員長委員会委員長たる九十九都竹からの正式な要請なんで。 あとあんたが俺の許可なくこの部屋に立ち入った件は学園長先生に報告しとくから。そこんとこ覚悟しといてくれよ」 あぁ? 何ナマ言ってんの? 尾浜は自業自得とあんたのせいで怒られてるんだっつーの。 何一人前に尾浜を庇おうとしてんの? あんたって本当にばかだよね。 俺さ、同輩や一部の後輩には何もしないことを怒ってるんだけどさ。 あんたは別なの。あんたに対してはやらかす愚行について怒ってんの。 自分が何もしないでさっさと学園から出て行けば、俺だって尾浜を怒らずにすんだんだけど? たかが一事務員(仮)ごときに、この部屋に立ち入る資格なぞない。 後始末のことを思うと小松田さんは別だけど、事務のおばちゃんなら気にしないんだ。 (仮)っていうところがいけない。だって本当、事務員なのかそうでないのか。 目障りだの穀潰しだのだけならまだ見逃してやるが、重要機密の覗き見は許さんぞ。 さぁさっさと消えろ、とっとと失せろ。暴言を吐いていようが、まだ表面上は穏やかに笑っているうちに行け。 放課後にはまだまだ無邪気な後輩たちがここを使うんだ、そこに生々しい血痕がこびりついていたら恐ろしいだろうが。 後は最近忙しいから畳を剥がすのとか替えるのとか、ぶっちゃけ面倒臭いし時間勿体ねぇし。 「うら、出てけ。もう来んじゃねーぞ」 ぽいぽーいっとばか2人を放り投げれば、掃除完了。 前頁 / 次頁 |