いろは唄 | ナノ
学級委員長委員会委員長

>> ね


俺の思っていたよりも自己確立が曖昧だったなー。俺の観察眼もまだまだということだ。

いやな、前々から選択を投げてる気はしてたんだ。

ほら、悩み癖といえば不破だろう? んでもって大事なときにはざっくり大雑把。

三郎はその正反対。普段はざっくり決められるくせに、肝心なときに腰が引けて他人に投げる。


でもほら、今回は珍しく重大な事項で2人の意見が真っ向から対立しただろう?

だから俺は天女に対する嫌悪が確実と認識して、しかもそれが本人の意思だと判断した。

放っておいたのはそういう認識と判断があったから。それがなけりゃもうちょっと早めに手を打っていた。


ところがどっこい、そうしたらあのざまだったというわけだ。

嫌いは嫌いなんだけど、雷蔵が好きだと言うから自分が間違ってるんじゃないか、なんて。

普通の頭で考えることじゃない。あんまりだ、自分の判断すら他人に委ねるなんてな。

しかも判断基準を預けていることに自覚がある。恐ろしいとしか言えない。


そう、俺の誤算はそこだったんだよ。無自覚だとばかり思っていた。

自覚ありと気付いて改めて思い返せば、そんな節もちらほらあるのだけど。

無自覚なら、そう、話は簡単だったんだ。抜けた軸に成り代わってしまえばいい。

方法なんてザラにある。簡単だ。軸が俺であると認識させればいいだけのこと。

こう言ってしまえば、下世話だけど、まぁ躾と似たようなもん。

誰がご主人様? 俺だよねってこと。この場合は誰が依存対象……、かな?


とまぁ、俺は三郎が自覚なしに判断基準を不破に預けていると思ってたわけ。

んでもって、俺はそれを前提に諸々の計画を立てていたわけですよ。

だって思わないじゃないか! 誰が他人の判断を自分の判断にするんだ?

自分のことは自分で決めて当然だろう? 少なくとも俺はそれが当然だと思っていた。


ところが想定外。本人に自覚があったんだから、それはもう大変なこと。

不破雷蔵と認識された軸が抜けて、そこに俺が入ればそれはもう別のもの。

いや、別のものであるのはそれでいいんだけど、それでうまく均衡を保てるか。


やれやれ。これまで幾度となく三郎に対する認識を訂正してきたけれど。

これはまた大きく変わってきそうな気がする。とりあえずちゃんと考え直そう。

ようやく手の中に落ちかけてきたんだ。ここで壊れては元も子もないもの。

それはいただけない。それだけは、絶対にいただけない。


それか……あぁ、それでもいいな。それでもいける気がする。よし。

決まりだ、それでいこう。計画修正計画修正っと。

それじゃあ、不破はもういいや。不破は捨てる。はい、さようなら。

後は俺が1人で支えます。お疲れ様でした。もう来ないでくださいね。


俺にだって築き上げた関係性というものはあるんだ。それでなんとかできる。

だって俺はその関係性を一度も断ち切ってはいない。

あぁ、最後の抵抗として委員会だけでも一緒にしておいてよかったよな。

そのおかげで、なんとかできるんだから。


基軸ではないけれど、俺だってちゃんと三郎を構成する一因ではあるということ。

その点、ゆめゆめお忘れなく。三郎の依存が自分専用だなんて思ったら大間違いだ。

俺が学園で何をしてきたか、こと三郎に関してならお前たちだって詳しいだろう?


「都竹先輩?」

「んん、あ、ごめん、行こう」


おぉっと、忘れてた。委員会だ。行かないと。

俺の悪い癖の1つ、三郎のことについて考えると思考が止まらなくなること。

下級生の頃は三郎についてとめどなく考えているうちに空が白んでいたこともある。

放課後から考え始めて、そのまま翌朝を迎えるとか、ばかすぎる。

最近は要領もよくなったからあまりないけど、あの頃はよくやったなぁ。

代わりに授業中に寝ちゃって先生に課題出されたりとか。

ほんっと、俺ってば学習しないなー。


さ、行こうか。


俺は上衣を整えて。三郎は顔を整えて。


(叶わないなら、あの手でこの手で)


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