いろは唄 | ナノ
学級委員長委員会委員長

>> 2


雷蔵たちは何を考えているのだろうか。

天女だなんて、そんな非科学的な。

忍術は科学じゃないか、そんな奇想天外を信じられるものか?


雷蔵は天然だし兵助も天然だし勘ちゃんも天然だし。

3人揃って何やってるんだ。突っ込み(ハチ)は何をしていたんだ!

まったくもう、これだから私がいないと駄目なんだ。


私が一等好きなのは雷蔵だけれど、都竹先輩に過重負荷が掛かっているのはいただけない。

何といっても都竹先輩は私に一等甘い先輩だもの。私は優しい人が大好きだから、雷蔵の次に都竹先輩が好きだ。


だから、私が雷蔵たちを諭そうと思ったのは至極当然のことだった。


「え、三郎!?」

「なんか久しぶりに見た気がするな」


驚きの声を上げた雷蔵とハチ。

むしろその驚きに私が驚いてしまった。


1月近く会っていないけれど、久しぶりも何もない。


「3週間前に、見送ってくれたじゃないか」

「そうだっけ?」


大雑把にも程がある雷蔵の一言。

怪我しないでねと、見送ってくれたのがまるで嘘のようだった。

私が忍務に出ていたことさえ忘れていたように。


「それより、愛さんにはもう逢ったか?」

「朱色の着物で、凄く可愛い子なんだけど」


兵助と勘ちゃんも、私が忍務に出ていたことは忘れているようだった。


なぁ、兵助。それよりって、何?


「ちがーうっ!! 愛さんって誰なんだ!?」

「誰って……」


雷蔵が首を傾げる。ぱちりぱちりと瞬きをした。

まるで、私が愛さんとやらを知らないことがおかしいかのように。


「天女様だよ。愛ちゃん、すっごく可愛いよ?」

「この世のものとは思えないくらいに」


ハチが笑って情報を補足した。

お前までボケに回ったら、ボケが飽和してツッコミが間に合わないじゃないか!


ばか、ばか。この世以外は全部非科学的じゃないか。

何だよ、何なんだ、天女だ歌ちゃんだって、そんなのくっだらない!

そんなもの、学園生活を軽んじるだけの理由じゃない。


「らいぞーっ! 聞いて! 私を無視するなーっ!!」


雷蔵たちは、結局お帰りの言葉もなく天女とやらについて語り始めた。

そんな光景を見て、私は地団太を踏んだ。

今までの経験からして、そうすれば雷蔵は私を構ってくれるはずだった。


雷蔵がおかしい。ハチもおかしい。勘ちゃんも、兵助も。

小松田さんもおかしかったし、全部がおかしい。

私だけがまるで現実から放り出されたように浮いてしまっていて。


「三郎、煩い」


雷蔵が私を見る。冷たい目で。

でもこれは、大丈夫。いつものこと、だ。

私が騒ぎすぎると、雷蔵は怒る。これは、普通。


「なんだ、拗ねてるのか?」


兵助が首を傾げる。

拗ねてるって、いや確かに拗ねてはいるけれど。

そうじゃなくって!


「天女とかじゃなくって! 最近みんなおかしいって学園長先生が仰ってたぞ!!」


勉強とか、鍛錬とか、委員会とか、忍務とか、全部疎かになっているって。

そんなのは間違っている。そうだろう?


ここは忍術学園で、私たちは忍者になるためにここにいて。

それなのに、必要なことが全部疎かになっているなんて、それはおかしい。


まだ逢っていないけれど、都竹先輩もさすがに怒っているだろうと思う。

学園長先生以外の先生方も、きっと呆れておられるだろう。


なぁ、私たち、一緒に卒業するって約束しただろう?

このままじゃ、卒業どころか進級だって危ういかもしれないぞ。


天女とかそんなのは絶対にありえないし、今のお前たちは絶対に三禁に抵触してるよ。


「おかしい? 僕たちが? 普通だよね、ハチ」

「普通だろ。おかしいっていったらあの人だよな、九十九都竹先輩」

「確かにおかしいよね。食満先輩だっけ、喧嘩したの」

「食満先輩っていうか、6年生全員だろ? 学園で孤立してるって聞いたぜ」

「それなら俺も聞いた。自業自得だ、愛さんを批判したくのたまの味方したんだから」

「俺は先輩が歌ちゃんを怪我させたって聞いたんだけど」

「勘ちゃんそれ本当か!?」

「そういう噂は確かに聞いたな」

「その噂が流れる前、歌ちゃん確かに怪我してたよね」

「掌だろ? 食堂で水仕事だってしてるのに、痛かっただろうな」

「健気だよな。痛くないよって笑ってたぞ」

「それは俺も聞いた。みんなの怪我のほうが痛そうだもんって」

「可愛いよなー」


話は変わって、いつの間にやら話題は結局天女とやら。


なんか納得いかない。

基本的に私には甘いのは別の問題として、確かに私たちには厳しい。

だけれど、それ以上に、都竹先輩は弱い相手には優しい。

敵でさえなければ、都竹先輩は誰かを傷つけたりしないだろうに。


「あ!」


もしかして、もしかしたら。

天女じゃなくってくのいちで、都竹先輩はそれに勘付いていて。

それで確証を掴むためにわざと怪我をさせた?

……いや、さすがに吹っ飛びすぎたか。


「何、三郎?」

「だから、そんなことじゃなくて、それ、本当に天女なのか?」

「……は?」

「皆を誑かして、堕落させてるだけなのに、本当にそれが天女なのか?」


百歩譲って、仮に天女が実在するとして。天女は天の御使いだろう?

人を堕落させる? それが天女? おかしい。絶対に。


「三郎、それ最低」


そんなの、天女であるはずがない。のに。


(問答無用の不合格だ)


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