学級委員長委員会委員長 >> れ 私が違和感に気付いたのは、学園に戻ってきたその日のことだった。 もの言いたげな小松田さんにふにゃりと迎えられた数刻後だ。 違和感に内心首を傾げたけれど、小松田さんの思考回路がよくわからないのはいつものことだ。 何かいいことでもあったのだろうと結論づけて、私は学園長先生の庵に報告のため足を運んだ。 「……は? 天女、ですか」 考えるまでもなく、私はその言葉を冗談だと認識した。 もしそれが本気だとしたら、学園長先生はもう引退の時期だな。 「生徒らは天から降ってきたと言っておった。ふむ、お主はどう思うかの?」 「ありえません。忍術は科学です。大方、凧で侵入しようとして失敗した間抜けでしょう」 「あれはくのいちではないというのが、儂らの見解じゃ。九十九都竹もそう言うておる」 「くのいちでないにせよ、天女の存在は非科学的です」 「それも言うておった。ただの気狂いか、あるいは神隠しにでもあったのだともな。まぁそれはよい」 ……都竹先輩、神隠しだって十分に非科学的ですよ。 「と、言うのもな」 「はぁ……」 「上級生の大半が色に溺れておるのじゃよ。嘆かわしいことにの」 上級生の、大半が、色に、溺れた? 話の流れからすると、その天女とやらに惚れこんだということか? 「最初は恋は盲目などと笑っておったがの、現状には相当腹を立てておる。 先だっては同じ6年生の食満留三郎と昼の食堂で殴りあいになりかけたそうじゃ」 それはまた、勇気があるというか無謀だというか。 よりによって食事時間に、よりによって食堂で、よりによっておばちゃんの前で。 恐ろしい三連撃だ。都竹先輩と食満先輩には、さぞ厳しい罰が下されたことだろう。 「喧嘩両成敗で2人も夕飯を抜かれておった」 「都竹先輩は、どうしてそんなことを?」 「本人は黙秘しておったがな。あのものの陰口を言うたくのたまの3年生を食満留三郎から庇ったそうじゃよ」 あぁ、あの都竹先輩なら、そんなこともやりかねない。 くのいちもくのたまも皆等しく女子であると素で言える人だ。 性別的にも学年的にも劣るそのくのたまを、放っておけるはずがない。 「啀み合った末のことでの、6年生から孤立しておるようじゃ」 それは、信じがたいことだった。 6年生が啀みあうなんてよくあることだ。 朝一に潮江先輩と立花先輩が睨みあい、昼には食満先輩と七松先輩が騒ぎ、日暮れには潮江先輩と食満先輩が取っ組み合い。 最終的にはそれを強制的に黙らせるのが都竹先輩で、善法寺先輩は怪我をした先輩がたを治療しようとして穴に落ちる。 それらの光景を、少し離れたところから中在家先輩が静かに見守っている。それがいつもの6年生7人。 仲良しとは決して言えない。それでも、それが後に引くようなことが、そうそうあっただろうか。 あの先輩がたは、何だかんだ言っても私たちに負けず劣らず仲がよくって。 比較的地味な私たち5年生と比べれば、6年生はいささか個性的過ぎる。 1人ずつならばらばらになるような集団を、繋ぎ止めるのが都竹先輩で。 くだらない些事に揉めつつも心を許しあっていたのが、あの7人の6年生ではなかったのか? 「まぁそれもよい」 「何故ですか?」 「つい先日山田利吉くんが来てな、息抜きはできておろう」 何故だか知らないけれど、都竹先輩は山田利吉さんと親しいから。 年下の私たちには話せないことも、あの人になら話しただろう。 それはなんだか寂しいけれど、仕方がない。年の差は生きている限り覆せない。 私が都竹先輩より年上になるとしたら、それはとても悲しいこと。 で、学園長先生は一体何を言いたいのだろうか。 さっきから何か言ったと思えばそれはすんだからもういいの繰り返しだが。 「今学園の全委員会の仕事は学級委員長委員会にかかっておる」 「……は、」 じゃあ、学級委員長委員会委員長の都竹先輩には。 一体どれほどの負担がかかっているのだろうか。 その双肩にどれほどの重責が課せられているのだろうか。 「ガッツじゃよ! 励むのじゃ」 前頁 / 次頁 |