学級委員長委員会委員長 >> 2 情けない話、忍たまの大半が彼女に溺れちゃってんの。 三禁はどーした、三禁は。おいこら6年生しっかりしろ! 何やってんだお前らは。言ってみ? うん? しかし、守っとかなきゃなー程度に思ってた三禁も、実は凄い重大だったと。こりゃ教訓だな。 同輩が身をもって教えてくれたことだ、お前らの犠牲も含めて、俺は絶対に忘れないぞ。 皮肉ってる? 違うって、何だろうね、ちょっとばかし寂しいだけ。 天女サマ御光臨以来、同級生とメシ食ったことないんだぜ? 6年間寝食を共にした仲だってのに。 俺は構わないんだって、天女サマだぁいすきでも何でもさ。好きにしろって感じ。 学園が駄目になったって、同輩が駄目になったって。俺は大丈夫。 学園を退学してもやっていけるし、同輩との別れも覚悟できている。 そうだよ、あいつらが天女サマ追っかけたいんなら好きにすればいい。 たださ、最低限の責務は果たして欲しいわけ。それって忍術学園にいる全生徒の義務だからね。 集団で生活してる以上、どこかで綻べば全体がふらつくわけ。 学業を疎かにするのは個々の勝手。駄目だけどね。それで困るのは本人だし。 落第するなり、何なり。自分のケツは自分で拭いて欲しいもんだよな、忍者になるからには。 責務の話だっけ。まずは委員会? っていうか基本的に委員会? っていうか全体的に委員会? あ、あと忍務もか。上級生どもがまともに機能してないから、忍務ができない。 いや、でもやっぱり委員会だな。委員会がないと学園が回らない。 ある程度は事務でやってくれるけど、そんなことじゃ今後どうするんだ、うん? だってさ、上級生の仕事まで下級生が背負い込んでるんだぜ? まず会計委員会がないと予算が組めない。俺は学級委員長委員会所属だから直接の問題はないけどな。 でも予算が組めないと他の委員会が動けない。必要なのは、人と金だ。 ただでさえ仕事が多いって言うのに、1年生2人と方向音痴1人じゃ仕事できてないぞ。 おい、6年い組潮江文次郎! どこいった? また天女サマのとこか! 仕事しろ、仕事を! 忍者しろ、忍者を!! 外敵はお前の近くにいるその女だぞ! そして用具委員会が動かない限り、授業でも使う忍具の整備ができない。 自前のを持ってる上級生はいいが、下級生がろくに鍛錬もできずに……なぁ、今鍛錬してる生徒っていんの? あとそこちょっと壁崩れかけてるとこあるけど、平気か? 直さないでいいのか? なぁ、穴の開いた壁があるんだが? いいのか? 外に直結してるぞ? 侵入も脱出もできるぞ、これ。 ……とりあえず作兵衛と一緒に外壁だけでも修理するか。 忍具といえば、火薬を管理する火薬委員会もかなり重要な位置だよな。 火縄銃はもちろんのこと、焙烙火矢なり百雷筒なり、他にも火薬がなけりゃ使えない忍具も結構多い。 いざ必要というときに火薬が湿気てて使えませんーとか、火薬がありませーんとかないだろうな。 俺もそうだし、火薬を使う生徒は案外多いから、なくなると相当困るんだが。 注文しても、整理する人手が足りないしなぁ。土井先生の胃に穴が開いてないといいけど。 それ以前に忍具を扱って怪我した生徒が治療できない。なぜなら、保健委員会が機能していないからだ。 え、伊作? あいつなら天女サマにぞっこんだよ。初めに天女サマ受け止めたの、伊作だからな。 ……あそこでいつもの不運発揮して天女サマ受け止め損ねてりゃよかったのに。え、いやなんでもない。 べっつにぃ? もしそーだったら、学園としては幸運だったんじゃないかなーって思っただけ。 もしこの状況が不運なんだとしたら、それは超大型巻き込み式不運の再来だ。あな恐ろしや。 命に関わる重要な委員会といえば生物委員会もか。命は大切にってのはどこぞの5年生の受け売りだけど。 あそこが管理してる有毒生物が飢えて脱走したら大変だし、掃除しないと変な病気発生しかねないし。 孫兵が頑張ってるけど、手が回りきらないのも確かだ。あまり危険な生物の世話を、下級生に任せられない。 毒関係ならもう完全に任せちゃおうとも思えるけど、さすがに狼だとかそっちはなー、がぶりとか洒落になんねぇし。 俺の腕と1年生の腕とでは、同じ噛み付かれ方でも受ける影響が違うだろうし。 そういやぁ、体育委員会だって命に関わる重要な委員会だよな、保健や生物とは違う意味合いだけど。 お前が長距離マラソンしなくなったから、見回りも不足しちゃってるって気付いてるかな、小平太? いくら先生がたが見回りを強化してるからって、それだけに力を注げるはずもない。 おかげで最近妙な侵入者が増えてるんだよなー。現状じゃあ、偵察目的の忍びだって帰すわけにはいかない。 戦う術もろくに持たない下級生が遭遇してみろよ、どんな惨事になることやら。 作法委員会が動かないから喜八郎が掘った蛸壺だけがばかみたいに増えてしょっちゅう小松田さんが落下してるし。 一昨日も落ちてたし昨日も落ちてたし今日も落ちてたし、きっと明日も落ちるんだろうなぁ。あと保健委員も。 あ、今なんか競合区域のほうから妙な落下音がした。……小松田さんもさ、通らなきゃいいのに。 近道なんか知らないくせに近道しようとするんだから、まったく。あ、小松田さんの愚痴になってた。 とにかく、喜八郎が欲求不満の解消として掘った蛸壺をなんとかしないと。 生死に直結するわけじゃないけどさ、図書委員会が管理してる重要書物もそうだ。 あれだって、もしかしたらふとした危険から救ってくれる可能性があるだろう? 知識はあって損はない。 古びた本もちゃんと補修してないから読めないし、新しい本が入っても古い本があるから図書室に出せない。 廃棄するにもどれを廃棄していいか下級生は知らないし、本の補修だって知識がないとできない。 ある意味専門性があって、補修は時間が掛かるし、本の管理は思っているよりも大変だ。 長々と語って、結局俺が何を言いたいのかだって? つまりさ、自分の仕事は自分でやれってこと! 忍術学園にある委員会は9つ。そのすべてが学園の機能の一端を担う重要なもの。 くだんねぇ女に現抜かしてんじゃねぇぞ色呆けどもが!! ……他の連中に言うのかって? 言わないよ、言えるはずがない。天女サマは大半の生徒に慕われてるんだ。 「つーことで、今日の議題はわかってるな? 間違っても学園長先生の思い付きじゃないぞ」 「都竹先輩。残念ながら、僕たちはやることがあるのですが」 庄ちゃんたら相変わらず冷静ね、ということだろうか。 やべぇ、1年は組の学級委員長がめちゃ怖い。 「うん、見りゃわかるよお前らそれ。庄左ヱ門、念のため聞くけど、その手にあるトンカチはどうしたの?」 「あの女を殺そうと思って、用具委員のしんべヱに借りてきました」 「……うん、だよな、わかってた。でも駄目だ、お前たち全員、その手にある武器を下ろしなさい」 学級委員長委員会の6年生は俺しかいない。人数が少ないから必要ないからだ。 ぶっちゃけ俺はただのまとめ役として起用されただけなんだがな。まぁいい。 5年生が壊滅している今、構成員16人のうち、3人が欠席。嘆かわしいことだこと。 大半の4年生が天女を慕う中、うちの学級委員長たちは優秀で何より、ではあるけれども、だ。 しかしその12人が手に手に苦無やらトンカチやらはたまた材木やら持っててごらんよ。 結構怖いから。何だ、お前たちはそんなに天女サマを殺したいのか? 駄目駄目、せっかく守られてるんだから、もうちょっと守られてりゃいいのさ。 どーせ後何年かしたら殺したくなくても殺さなきゃなんなくなるんだ。急ぐこたない。 「このままじゃ、学園のためにもなりません。ですから、ここは天女様を殺すという事で穏便に済ませましょうという考えなのですが」 「悪い、俺はお前より年上で経験もあると思ってたけど、それのどこが穏便なのかさっぱりわからない」 「でもこのままじゃ、埒があきませんよ!」 「わかってるよ、彦四郎。俺が何とかする。でも、学園から許可が下りないんだ、まだ様子見」 「だけど、都竹先輩! 委員会活動だって儘ならないじゃないですか!」 そんなに叫ばなくたって、俺もわかっているよ。あの天女サマはただの害だ。 天女サマはくのいちじゃない、それは確かだ。そんなことは疑っちゃいない。 だって、あの白魚のような綺麗な手は、美容に気を使ってるくのたまたちだって持ってない。 町娘の手だって、もっともっと荒れている。あれはまるで姫君の手。……いや、見たことないけど。 水仕事もなーんにもしたことのない、苦労を知らない手だ。羨ましくて、恨めしい。 都合のいい話さ、負担をかけてごめんよお前たちには悪いと思ってるんだ。 だけど惜しい、捨てきれない。6年間一緒にやってきたんだ。初めての後輩だったんだ。 お前たちも可愛い後輩だけど、あいつらを悲しませたくないとも思う。 「学園が天女サマの排除を決めたら、俺が殺す」 とりあえず状況確認に下級生を送り……いや、駄目だ。まだちょっと危ないだろう。 大体は大丈夫だろうけど、生物委員会や火薬委員会に送り込むには、まだ早い。 前頁 / 次頁 |