学級委員長委員会委員長 >> る 無粋な客人。呼ばれてもいないのに、勝手に訪ねてきた客人。 それでも、訪れた客人を接待しないのは不躾だから、俺は忍術学園の広大な敷地を駆け抜けた。 驚いた顔をする子供たちに、心得たように3年生4年生が、屋内に入るよう促していた。 普段は不仲な2学年だけど、こういうときには息が合って頼りになるから不思議なもんだ。 それにしても、まだ明るい昼日中というのに、客人だなんて珍しいこと。 それほどまでに舐められているというのなら、それは不本意な話。 さてさてお呼びでない御客人がたには、早めに引き取っていただきましょうか。 樹上は枝葉が豊かに広がり、時折り風で揺れた葉が内緒話でもしているように囁きかける。 ひぃ、ふぅ、みぃ、よぅ、いつ、むぅ。いいや、7つか。 俺が感じ取れる敵の気配は、今のところ7人分。 やれるかな? いやいや、恐怖を抱くべからず。やるしかないのだ。 警戒されている。気取ったことを気取られている。 地形は俺のほうが詳しいが、人数で圧倒的に不利。……ならば、先手必勝か。 頃合いを見計らって地面を蹴りつけた。 斬った、ひとつ。斬った、ふたつ。斬った、みっつ。斬った、よっつ。 上々だ、傷はあるが深いものはない。あとで医務室に行こう。だが油断大敵だ。 毀れ始めた刃は、これが終わったら手ずから砥いでやろう。 今の用具委員会に愛刀を預ける信頼はない。心情的にだったり技術的にだったり。 別に作兵衛が頼りないわけじゃないんだ。ただちょっと、まだ心配でさ。 戦場で命を預けることになる武器だ、途中でぼっきりいって死んだら悔いが残ってやりきれない。 「この人数相手によく頑張ったと誉めてやりたいところだが、これ以上邪魔をされては迷惑千万」 「それにしても、忍たまが1人で応戦するというのも妙な話だ。あの噂、確かめるまでもないな」 「腐った学園に義理だてする、その意気やよし。その気があるのならば、我らの城で働かぬか?」 あぁそれってもしかしてもしかしなくてもすっごく魅力的な勧誘じゃないかな? 俺に新しい居場所をくれるってことなんだろう? 嬉しいね。 でもね残念、腐った学園だが中には俺を慕う後輩どもがいる。それさえなきゃ迷わず頷くけどな。 「やーなこった。俺は俺の居場所守るために戦う。だからお前らは死ね」 残るは3人。さっすが俺! なーんちゃって。 軽い自画自賛とともに気合を入れなおしていれば、……あらま、後ろから新しい気配。 「ひっ」 なんでこんなときにこんな場所にいるんだこのばか女!! ほんっとうに役に立たないくせに、役立たずは役立たずらしくしていればいいものを。 苛立った俺は悪くない、断じて。2歩と半分で天女サマと距離を詰めて突き飛ばした。 「目ぇ閉じて耳塞いでろ!」 この屑、と罵りたくなった俺は悪くない、断じて。 背後の気配が近い。距離を詰められた。踏み込んだ足を軸に振り返る。 駄目だ近すぎる。一閃するのは苦無か、きっとそうだった。 人身御供だ、腕を差し出せ。苦無は真横に、腕を垂直に。 手甲に仕込んだ棒手裏剣から骨にまで衝撃が響いた。 痛い痛い! 苦悶の声を飲み込んで。突き刺せ!! ぐちゅりだかぬちゃりだかわからないが、反りのない忍刀は生々しく突いた。 「いっ、いやああぁあああぁぁあああ!!」 うっ、うるせぇぇえぇぇぇええぇぇぇ!! てんにょって何!? てんで役に立たない女人の略!? かなり無理にこじつけて苛立ちを紛らわせようと試みる。 この努力もわずかももたないまま塵と消えたけど。 わずかな働きも見せない同輩たちがのこのことやってくる気配。 ほとんど隠されてない気配は2人分。……あれ? あれれ? なんでそっちに行くの? 駆け寄って、あれ、なんで俺のこと見ないの? なぁ、おい? 「あ! 怪我してるじゃねぇか!」 すっかり戦わなくなった会計委員長が目ざとく見つけて声を上げる。 気付いたのかと振り返って見れば、俺ではなく天女サマのことだったようだ。 大層心配そうに見ているが、どうやら突き飛ばしたときに掌を擦りむいたらしい。 そんなもの大したことないじゃないか。放っておいたって痕なんて残らないだろ。 舐めとけなんて言ったら伊作に怒られるから言わないけど、洗っておけば十分だろう。 大変だ大変だ手当てしないとと喚く同輩たちよ、俺を放置するのか。言いやしないけどな。 さらりと艶やかな髪を流して、普段は冷静な作法委員長がこちらに意識を向ける。 詰め寄られて、咄嗟に左腕を身体の後ろに回して隠した。 案じて欲しい、けれど。今のこいつらに気にかけられても嫌な気分になるだけだ。 「都竹! お前がついていながら何故歌に怪我をさせた!?」 「ついていながらって……、俺は天女サマを守るためにここにいるわけじゃない」 「言い訳をするな! 力なき女子が目の前で傷を負ったというのに、悔いはないのか!?」 別にさ、目の前で女子が怪我して、何も思ってないとは言ってないだろう。 俺の6年間は、どうやら数ヶ月過ごしただけの女にさえ劣るらしい。 そんな泣き言を当人に叩きつけるには、俺にだって矜恃というものがある。 だって、それではあまりに弱々しすぎるではないか。 そんな情けないことができるはずもなく、俺はすぅと目の前の2人を睨む。 怪我をしたって言うなら、俺だって怪我をした。それも深い切傷。 悔いがないかって、俺はむしろ巻き込まれた側だぞ。怪我をさせたことはそりゃ悪いと思ったけどさー。 俺がいなかったら今頃殺されていたか拐かされていたぞ。それでも守れなかったと言うのかな? なーんで俺だけがこう非難されなきゃなんないの。守れなかったっていうならお前たちだって同じことだ。 天女サマが狙われる可能性が高いことなんて、考える間でもなくわかりきったことじゃないか。 そんなに言うなら、どうせ働きもしないのだからずーっと張り付いていればいい。 もう、いっそのこと俺のいないところで永遠にそうしていてくれればいいのに。 そうしたら、なぁ、疲れたよ、俺は。お前たちは、そうしていれば満足なんだろうけど。 「……お前には失望したぞ、都竹」 「そんなの、」 なんで? なんで、なんでなんでなんで!? なんで俺ばっかり……!! お前たちだって、皆に失望されているくせに!! なんで俺を非難するんだ! 今のお前たちにそんなこと言われたくない! そんな資格ないくせに!! ふざけるなふざけるなふざけるなっ! ふざっけんな!! 「勝手に、ほざいてろ」 すげームカつく。 前頁 / 次頁 |