学級委員長委員会委員長 >> ぬ 天女サマのせいで泣いている人数は、天女サマを好いている人数よりも多いかもしれない。 というのも、天女サマに好意的なのは大半が上級生だからだ。 上級生よりも下級生のほうが人数が多い。これは考えるまでもないこと。 確かに下級生も天女サマを事務と食堂のお姉さんとして慕っていたようだが、今は違うようだ。 少なくとも、1年生は全員天女サマに対して否定的。 忍術は科学と言うし、い組はそもそも天女なんて非科学的存在は胡散臭いと断じている様子だ。 基本的に暗い雰囲気の漂うろ組は明るい天女サマに初めから苦手意識があったようだしね。 2年生も似たような感じだったな。否定的な1年生と色に溺れている上級生を見て、段々と不信感が出てきたようだ。 3年生は委員会を放置している5年生6年生にうんざりしている様子。孫兵は、きっとジュンコが理由だろうけど。 とまぁ、下級生が天女サマを倦厭しているのに対して、上級生は溺愛している。 おぉっと、4年生は半分と少しといったところかな。ろ組やは組は天女サマを慕っている。ただし学級委員長2人は例外だ。 残るい組はそりゃあもう、癖のある連中が思い思いに嘆いている。大体は委員会の先輩のことだが。 んで5年生と6年生は俺と現在不在の鉢屋三郎以外が陥落。鍛錬はサボる委員会はしない。 三禁を忘れた全員に告ぐ。もう学園出てけよ、お前ら全員本気で鬱陶しいわ。 参っちゃうね、ほーんと。下級生は情緒不安定だし、上級生はあのザマだし。どーすっかな。 鬱々とした気分で長屋に戻ると、7人分の気配がした。 以前は俺を入れて7人だった仲に、今は見知らぬ女子がいる。 気づかないふりで、忍たまらしくなくぺたぺたと足音を立てて廊下を歩く。 普段なら学園一忍者していると評判の男が、鍛錬が足りんと怒鳴り込んでくるはずだ。 そんな気配はなく、1つの部屋を通り過ぎると、ギンギン野郎の笑い声が聞こえた。 本当に変わってしまった。改めて思うと、なんだか腹立たしいなぁ。 部屋に戻って仕事をしようかと思ったけど、思い直して踵を返す。 無駄だろうが言ってやろう。4年生まで泣くほどになっているのだから。 見過ごしておけない。俺はそう思うし、それは俺の責務なのだ。 「よっす、皆ここに揃ってたんだな」 そんなこと長屋に入る前から気配でわかってたけど、あえてそう言った。 なぁ、文次郎、お前ならここは怒鳴るところだろう? いいよ、今回はあえて怒鳴られてやる。鍛錬も頑張って付き合ってやる。 だから、ほら、怒鳴れよ。バカタレ、鍛錬が足りん、俺が鍛えなおしてやるって。 大体お前は普段からーっていうおっさんみたいな文句も、今なら聞いてやるよ。 ほら、こんな俺の態度は忍たまとして間違っているだろう? 怒鳴ってくれ。 「やぁ、都竹。歌ちゃんに挨拶しに来たの?」 「……んん? あぁ、まぁそこにいるなら挨拶くらいはするさ」 さすがにそこまで礼儀知らずじゃあないからな。 顔あわせて、はいそこには誰もいなーい、じゃちょっとな、態度悪すぎだろ。 あんまり性格よくない自覚はあるけど、そこまで底意地悪くなりたくない。 「こんにちは天女サマ、今日もいい天気だな」 「あっ、こんにちはぁ、でもそんな呼び方しなくていいよぉ」 「……悪いけど、天女サマの名前知らないから」 情報としては知ってるけどね。愛識歌、だっけ。名前まで可愛いなんて出来すぎてるよな。 でもさ、自己紹介されていないっていうのはこれ以上ない理由になる。 俺が学園内の人間の名前を知らないなんて、普通ならありえないことだけど。 だって俺が名乗った後は自分が名乗るでもなく自分の世界にどっぷり沈み込んじゃってただろ。 俺は元々天女サマはどーでもよかったけど、あの礼儀知らずっぷりには呆れたよ。 もっとも、あのときはあまりに気持ちが悪くって非難することもせず逃げ出したけどさぁ。 あれで嫌われてたらもうちょっと優しくしとくべきだったかなぁ、なんて思うけど。 「それでさ、お前ら聞いてる? 委員会の話、ってお前ら全員だぞ! 最近委員会行ったやつ、挙手!」 なーんで、誰も手ぇ挙げないかな。知ってるよ、挙げるはずないよな。だーれも委員会行ってないよな。 ちょっと? なんで天女サマとお話してんの? 聞いてる? 聞いてないの? おーい!! 「その女じゃなくて学園運営に関わる委員会の話だっつってんだろーが?」 「はぁ、あのね、都竹。きみのところと違って保健委員会には優秀な生徒が多いから、僕がいなくても大丈夫だよ」 ……そーか、大丈夫な委員会か。委員長がいなくっても大丈夫か、そーかそーか。 昨日薬棚ひっくり返して、保健委員総出で朝まで片付けてたけど、そこんとこも大丈夫なんだな。 その旨しーっかり伝えとくわ。……後で後悔したって遅いからな。泣いて喚いて土下座させてやっからな。 早めに改心しねぇと、もう二度と委員長なんざ名乗らせねぇかんな。覚悟しとけよ。 つーか俺の学級委員長委員会舐めんなよ。子供の癖に凄いんだからな、将来有望株を集めたんだからな。 まだ数ヶ月の付き合いだけどちょっとした以心伝心くらい簡単にできるんだからな。 「それより、その女なんて言い方酷いだろう? ちゃんと歌に謝れよ」 落ち着けー落ち着けー落ち着けー落ち着けー。 話し合いー話し合いー話し合いー話し合いー。 よし、頬の筋肉は引きつってるけど、俺は冷静だ。 「……委員会の話っつってんだろ? 俺にはな、学級委員長委員会委員長として、学園の委員会活動を円滑に行う義務があるんだよ。 それを下らん色欲に現抜かして遊び呆けてるてめぇらに糺される筋合いはねぇ。……なんだ反論か、逆らおうってんなら言ってみろよ」 睡眠足りてないんかねー、なんかほんっとに苛々するわー。 駄目だなー、忍者は常に冷静じゃなきゃ駄目なのになー。 「彼女のことを悪く言うな」 「彼女に酷いこと言うなんて、見損なったぞ」 「お前、最低だな」 ……ごめん、最近理解能力落ちてんのかな? まるで俺が天女サマを貶したかのごとき受け取られ方してんのって俺の気のせい? ねぇ、天女サマのことなんか言ったっけ? 下らん色欲って言い方が悪かった? え、でも色欲を抱くのはお前らなんだから、俺は結局お前らを非難したつもりだけど。 確かにある程度否定的な発言だったけど、非難されてんのって結局お前らなんだけど。 「……や」 「何だと?」 「もういーやって言ったんだけど、あぁ耳まで悪くなったの」 「ちょ、ちょっと! 都竹くんっそんな言い方って酷いよ!」 「酷いのはどっちだよ。俺がこいつらに一体何をやらかしたってんだい?」 俺があんたに何かしたか? 俺たちがあんたに何か不快なことでもしたか? 人を傷つけるなって、あんた俺たちに死ねって言ってんだろ、あんたのほうがよっぽど酷いじゃないか。 何なんだ、あんた。忍者が人を傷つけるなって、何? 動く肉の壁にでもなれって言うの? 騙すなってどういうこと? 俺たちに一方的に騙されていろと言うの? 欺くなって、欺かれていろってことだろう? 傷つけるなって、向こうはこっちを傷つけてくる、殺しに来る。それでもやるなって、あんた言える? あんた、自分の目の前で誰かが武器持ってても話し合おうって思えるってこと? 大したお人よしだこと! あんたは男にちやほやされてりゃ満足だろうけどね、こっちは大迷惑もいいところだ。 下級生は戸惑ってるし、委員会はまともに機能しない。上級生は鍛錬はしない忍務は行かない。 これでどうしろってんだ、これのどこが平和なんだ。天女サマ、あんたがもし平和を齎しに来たのなら、説明してくれ。 「でももういいんだ、後輩に委員長が委員会に来ないって泣きつかれて来たけど、もういい。 お前たちのことはもう知らない。お前たちがあの子たちを忘れるなら、俺が抱きしめてくる。 俺はあの子たちに教えるよ。お前たちが不要だとあの子たちが思うくらい、全部教えてくる。 お前たちはそこいらで遊び呆けて、勝手に死んじまえばいいよ。笑って踏みにじってやる」 そんなこと、思ってない。死なないでほしいよ、傷つかないでほしいと思うのは、誰だってそうだろう? だけど、お前らこのままじゃあ殺されるよ。卒業とか就職とか、それ以前の問題として。 なぁ、昔まだまだ純粋だった頃にした約束、お前たちはもう忘れてしまったの? 俺は今でも大切に覚えているけれど、お前たちにとって、あの約束はもう終わってしまったもの? あぁ、そう。お前たちにとって、俺はもうどうでもいい存在になってしまったのか。 そこいらって、学園の外のことだから。忍術学園に関わらないところへ消え失せろって話だから。 俺にそんなこと決める筋合いはない? そうだな、勝手に生徒を追い出すことはできない。 言うだけなら自由さ、言うだけなら。しかし参った。 「都竹くんは、どうしてあたしが嫌いなのぉ? あたし、都竹くんに何かしちゃったかなぁ?」 「じゃあ聞くけど、そいつらはどうしてあんたが好きなんだ? 多分、それと同じ理由だよ」 好きになるのに理由はいらないし、嫌いになるのにも理由なんていらない。 ぶっちゃけ、人を好くより人を嫌うほうが簡単だ。そう思わない? 好きな人は好きだし、嫌いな人は嫌い。誰だって同じようなもんだろう。 好きなところを嫌うのは大層捻くれてればできるけど、その逆はすごく難しいよ。 それだけのことに理由をつけたがるなんて、天女サマは面倒なところから来たんだな。 何か1つを嫌いになるとどんどん欠点が見つかって更に嫌いになっていくのです。 あんたにたいして批判的視点から見始めたから、簡単にはあんたを好きにはなれないよ。 とはいえ、俺の好意の容量はそれほど大きくないから、まぁあんたは枠外かな。 あぁ、そろそろ各委員会の収支報告書を回収しなければ。つっても、それ書くの俺だけどな。 作成も受理も俺。公平も何もあるもんじゃない。 知んねぇからな、終わった後にこんな決済許可してないとか言われても俺は認めねぇかんな。 前頁 / 次頁 |