いろは唄 | ナノ
学級委員長委員会委員長

>> ち


最近、俺のところに来る後輩はみぃんな泣いているなぁ。

可愛い後輩たちにはあまり泣いて欲しくないし、笑っていて欲しいと思うのに。

辛い思いはできるだけさせたくないし、幸せであってくれればと祈るのに。

みぃんな泣いてるなぁ。寂しいなぁ、悲しいなぁ、切ないなぁ。


ほーら、今日も泣いている。綺麗な顔をくしゃくしゃにして、辛い辛いと泣いている。


「都竹先輩っ、都竹先輩っ!」

「どうしたの、お前は何のために泣くの」


向かい合って座ると、縋るように抱きつかれてしまった。

お前はどうして泣いているんだろう、心当たりが多すぎてわからない。

濡れた胸元がじんわりと暖かくなったけど、どうしようもなかった。


泣かないでというのは意味がないと、俺は学んでいた。

だからくっついてくる身体を抱き返して、黙ったままゆっくりと静かに背を叩く。

いっそのこと、泣き止まないのなら一度泣き疲れて寝てしまえばいいのだ。

そうして起きてから、ゆっくりと話してくれればいい。

俺は子守唄を知らないから、抱きしめてやることくらいしか出来ないけれど。


「ゆるりとお休みよ、滝夜叉丸。俺がここにいるからね」


しばらくそうしていると、抱きしめていた身体がちょっと重くなった。

あぁ、ようやく眠ったかと思い、でももうしばらくそうしていようと決めて、天井を見上げる。


数刻が経って、目を覚ました滝夜叉丸から、ようやく事情を聞くことができた。


「七松先輩が、委員会にいらっしゃらないんです」

「あぁ、そうか……」


それだったのか。そうか、小平太も委員会には出席していないんだったか……。

委員会活動は小平太の大のお気に入りだったはずなのになぁ。


ぐすりと洟をすすりながら、滝夜叉丸は涙声で言う。俺は静かに納得した。

小さくなって腹に顔を埋めようとしてくるのを抱え直した。


さて、困った同輩に対する愚痴なら、いくらでも聞こうか。

寂しいと泣く後輩には大きく笑い飛ばし、愚かしいと憤る後輩には凛々しく宥め。

本当は俺はだって、愚痴りたいことも少しならずともあるのだけど。


あぁ、いーよ、大丈夫、わかっているよ。

だって俺は6年生で、頼れる最上級生だもの。

学級委員長委員会委員長はいつだって素敵に無敵さ。


「随分前から来てくださらないんです。三之助も四郎兵衛も金吾も寂しがっていて……」

「ほら、泣くのはやめてくれよ。それで小平太には言ってみたか?」

「言いました、何度も言いました。でも、歌さんに逢うから、委員会に割く時間がないと……!」

「そう、そうか……じゃあ次の委員会には俺も行こうかな。小平太の代わりにはならないだろうけど。
 鬼ごとでもするか? 球技かな? それとも塹壕掘り? お前は何がしたい?」


気休めにもならないだろうなぁ。

とはいえ、小平太をどうこうする方法は思いつかねぇし。

さて、どーしたもんかねぇ。


(困ったもんだよ)


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