一対 | ナノ




俺は人前では寝ねェ質だ。


それは昔から、長州に住んでいて攘夷なんざとは無縁だったころから変わらねェ。


ついでに俺の双子の兄、シンのほうもなァ。


だが……、互いが相手なら話は別だ。


むしろ相手がシンなら、そこにいてくれたほうが寝やすい。




だからずっと一緒だった。


朝起きた後とかじゃねェ、寝る前から、物心ついたときから。


ずっと隣にいた。時に前、時に後ろ。


そこにいて、それが当然。


俺はお前、お前は俺。


不確かな世界で、それだけが真理。




薄い朝日の差すなか、正面の寝顔を見つめた。


何年ぶりかに見る、幼い寝顔。


懐かしい、っつー単語は、ここで使っていいものか。




「ん、ぁ……あさ……?」


「おはよう、シン」


「……ン、」




シンの寝起きが悪ィのは昔から。


俺の寝付きが悪ィのも昔から。




「起きねェか?」


「まだ、寝る……」




言うが早いか、既にシンは寝ていた。




俺の寝起きがいいのは昔から。


シンの寝付きがいいのも昔から。




それでも、互いに隣にいれば関係ねェ。


肝心なのは俺とお前が揃ってるってことだ。




さて、シンも寝ちまったことだし……、俺も──




 ガチャ──




あ? なんだァ?




〈起きるッスよ!! 朝メシの時間ッス……!!〉




 キィーン──




あ、耳鳴り。


っつーか、うるせェよ。


これから毎朝これで叩き起されンのか?


土方に起されるよりキツいじゃねェか。




「なん、だぁ?」


「来島とやらの放送だな、朝飯らしい」


「……あの女、ここには放送すンなっつったのに……」


「そいつァ災難だな」




そろそろ諦めて起きよーぜェ。


ンな大声聞かされりゃ、否応なく目醒めちまったじゃねーか。




「仕方ねェ、起きるか……」




渋々ってな感じだけどな。


諦めたようにシンは身を起こした。




「頭跳ねてンぞ」


「そっちこそな」




互いの寝癖を撫で付けて、シンとは対照に地味な着流しを羽織る。


……あ、なんだこの手ごわい寝癖。戻んねーぞ。










座っているのは広間の上座。左にはニヤニヤと笑うシン。


正面には、ぶしつけな視線を送る幹部陣が居並ぶ。


当然だが、俺の知る当時の幹部はそこにはいねェ。


そのことに否が応でも年月を感じて、苦しさにうんざりする。




これだけの年月、俺はシンと引き離されていた。


どれだけの年月、シンは俺と引き離されていた。


甦った記憶が静まっていたはずの感情を揺らす。




だから、もう二度と。


離れねェ、離さねェ。




隣に座るシンに視線を送ると、笑みが返ってきて。




「……ユウ、」


「面倒がんなよ」


「やなこった」


「……そーかよ」




やりたくねーことは何があってもやらねーってか?


相変わらずで何よりだよ、シン。


ここはお前に紹介してもらいたかったんだがな……。


やらねーってんなら仕方ねーか。


昔から、粘ったところで根負けすンのは俺だしなァ。









「あー、鬼兵隊副総督になる、高杉悠助だ。気に食わねーなら相手してやらァ」




全員まとめて返り討ってやるがな。




「違ェだろ」


「あぁ?」


「てめェは昔から副総督だろうが」




ンだよ、俺が帰ってくるって信じてたのかァ?


……あんま喜ばせンじゃねーよ。嬉しいじゃねェか。




照れてンのか?


うるせーな。








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