一対 | ナノ




何故ですか。


何故僕はこんなところにいるのですか。




「新宿かぶき町から来ていただきました、宇宙生物定春くんと飼い主の坂田さんファミリーです」




何故ですか。


何故僕は坂田さんファミリーとやらに組み込まれているのでしょうか。




「ちょっと銀時! どういうことですか?」


「いーから黙って出演しとけって」


「……へぇ、僕にそういう口の利き方をするわけですか」




CM入ったら舞台裏まで来てくださいね。


はい? お前に拒否権はありませんよ。


来なさいと言われたら黙ってついて来なさい。




「はい、すいませんでした」




まぁここまできてしまったからには仕方ありません。


僕も男です、ここで逃げ出すわけにはいきませんよ。




「え、えーと……こちら坂田さんに食いついて離れないのが定春くん?」




おぉ、流石はプロだけありますね。


上手く流しましたよ。


土方副長あたりだと長々と突っ込んでくるからウザ……いえ、鬱陶しいんですよね。




「大丈夫ッスよ、定春は賢い子だからちゃんと手加減してますからね〜」


「血ィ出てるんですけど……」


「そのまま噛み砕かれてしまえばいいのになァ」


「え!? えぇっ!! 悠助さんってそんなキャラだったんですか!?」


「え? 嫌ですね、眼鏡くん。人をそんな隠れ腹黒キャラみたいに言うのはやめてくださいよ」




斬り殺されたいなら話は別ですが。




「新八です。ってやめてくださいよはこっちのセリフですよ!

 定春は神楽ちゃんの言うことしか聞かないんですから」




神楽ちゃん?


その子の名前ですか?


神楽って、確か宗教儀式ですよね。


随分と神聖な名前ですね。




「……えー、ペット以上に個性的な飼い主さんたちみたいですね。じゃあいったんCMでーす」


「じゃあ銀時、来てくれます、よね?」


「これが可愛い女の子のさそ──


「そんな都合のいいものがあるはずないでしょう? たかが天パの分際で」


「バカヤロー、俺が──


「あ? 誰が馬鹿だと?」




 ドカッ バキッ──


 ドゴォッ──




「はーすっきりしました」




 パン パン──




軽く手を叩きます。







「じゃっ、じゃあそろそろCM終わりまーす」


「あ、戻らないと……。銀時? 返事がありません、ただの屍ですね」


「……ハーイ、じゃあ次のかたどーぞ。

 続いての変てこペットは宇宙生物エリザベスちゃん、そして飼い主の宇宙キャプテンカツーラさんです」




……。


眼帯とかして、確かに何かのキャプテンみたいではありますが……。


あ、今自分の心にも何かがぐさっと刺さったような気がしました。




「……攘夷浪士、」


「……何やってんのアイツ?」




僕の幼馴染みらしい桂小太郎。


次の飼い主って、君が?


ちなみに宇宙キャプテンカツーラっていうのはどういった趣旨でつけた偽名ですか。




「指名手配中の奴が変装までしてテレビに出てきたよ」


「よほどペットが気に入ってるよーですね……」


「ペットもそーだけどあの衣装も気に入ってるアル」




でも常識に則って考えますと普通指名手配犯はマスメディアなんかに顔を出しませんから。


……盲点と言えば、盲点ではありますよね。




「それじゃアピールタイム終えて対決にうつらせてもらいますよ。

 私の投げたこのフライドチキンの骨を先にくわえ持って帰ったほうが勝ち、飼い主の誘導もけっこーですよ」


「案外単純なルールですね」




と、振り向いて見た先には誰もいませんでした。




「んなまどろっこしーのやめて男らしく殴り合いでいこーや」


「望むところだ!」


「いやオメーらじゃねーよ! いい加減にしろよオメーら!!」




何処に行ったかと思えば、ガンを飛ばしあって司会に怒鳴られていました。


……何をしているのだか。


更に違う方向では神楽ちゃん? がアシスタント化していました。緊張か何かですか?


何なんですか、坂田さんファミリーは。


え、僕は違いますよ。


僕は坂田さんファミリーとやらとは関係ありませんよ。




「この番組は……普通には終われないでしょうね」




そんな不安をよそに番組は進行していきます。




「それじゃあいきますよォオ! 位置についてエェ、よ〜いド〜ン!!」




2匹は……単位は匹でいいのでしょうか。


でも宇宙生物ですし……、いえ、宇宙生物ですから?


まぁとりあえず2匹は同時に飛び出しました。




「あぁーっと、これはっ……!!」


「おわァァァアア!! バカ、おめっ、あっちだって! いだだ……」


「定春ちゃんイキナリ逆走して飼い主に食らいついたァ!! 一体何なんだ、お前らの関係は!?」


「……」




そんなグダグタな展開はありなのでしょうか。


本当に、銀時は何時から餌になり下がったのでしょうか。


土方スペシャルと同じ程度ですか。犬の餌で、同系列ですよね。




「一方エリザベスちゃんのほうは、もの凄いスピードだ!! 一見不利と思われたエリザベスちゃん、凄いスピードで駆けてゆく!!

 あれ? 気のせいか!? 一瞬オッさんの足のよーなものが……」




それなら僕にも見えましたから恐らく気のせいではないと思われます。




「言いがかりはやめろ、エリザベスはこの日のために特訓を重ねたんだ。オッさんとかそんなこと言うな!」


「あ……スンマセン」




そしてヅラは司会者を恫喝しないでください。




「はぁ……いいからさっさと終わってくださいよ」




どうせ碌でもない終り方でしょうけどね。


それでも早く終ってください。


今からなら半日は仕事できます……かね。


有給返せ。




そのような感じで、とりとめのないことを考えていますと、ですね。


銀時が神楽ちゃんの傘に吊り下げられていました。




「オイオイ、下ろせクソガ──


「その後にキとか言ったら首と胴体が泣き別れしますよ?」


「ごめんって悠助!」




教育上悪いじゃないですか。


一応これは生放送なんですから。


カットとかそんな、不都合を抹消するなんていうことはできないのですよ。




「いけェェエ!!」




神楽ちゃんは傘を振りかぶりまして、銀時を投げました。


投げられた銀時のほうはですね、エリザベスにぶつかりました。


痛々しい音が響きます。




「これは坂田さん、定春くんが自分に食らいついてくるのを利用して餌になった!」




さっきまでは定春ちゃん、じゃあありませんでしたか?


定春って。オスですか、メスですか。


むしろ宇宙生物に性別はあるのでしょうか。




「猛然と駆ける定春くん!! しかしエリザベスちゃん! 既に骨に手を……」




 ガッ──




「豪華商品は渡さん」




汚いですよっ!


銀時はエリザベスの首……あたりに木刀を回します。


ニンマリと悪役っぽい笑みを浮かべています。




 ガッ──




「エリザベスを離せェェ!! 豪華商品は俺とエリザベスのも──




汚いですってば!


ヅラは銀時の首を固めてしまいました。


かなり必死の表情です。




 ツー──




だから……もういいですよ。


定春がヅラの頭に噛みつきました。


表情は伺えません!




「……フン、なんだかんだ言っても御主人様が好きか?

 だがそれ以上噛みつこうものなら君の御主人様の首を折るぞ! さぁどーする?」




どーする……って、言葉が通じる筈もありません。


なんというグダグダな展開を向かえるのでしょうか。


まぁ正面から見る分には面白い構図ではあります。


トーテンポール……ですか? そんな感じです。




「てめーらよォ! 競技変わってんじゃねーか!! 頼むから普通にやってくれェ!! 放送できねーよコレ」


「放送など知ったことか!!」




こんなことだろうと、思いましたよ。


銀時が出演した時点でマトモに終わる筈がないのですよ。


そこにヅラが加わればなおさらですよ。




「あーもういいっスわ〜」


「!?」




……。


い、今……エリザベスのなかから、オッさんの声が……?




「なんかだるい」




やはり聞こえました!?




「もう帰るんで、ちょっと上どけてもらえますぅ?」




エリザベスの口からオッさんの腕が這い出して来ます。




「あああ、コレは……」


「……ウソだろ、エリザベ──




すみません。僕も男です。


一度決めたことは貫くと、そう誓っていました。


ですが、ごめんなさい。


これはちょっと語れません。無理です。


精神的外傷になりましたよ。深く傷つきました。


要は、トラウマですよね。




このあと真撰組屯所に戻ったあと近藤局長や沖田隊長にも訊かれましたよ?


土方副長にも訊かれましたよ?


ですが、僕も人の子供なのです。傷つくのですよ。


強いて一つだけ言わせていただきましょう。




「すみませんが、あの出来事はその場にいた人間の心の内に留めておくべきなのですよ。

 態々知る必要のあるほど、優しい出来事ではなかったのですから。

 知らないことが幸せという場合も、時には存在するのです」








前頁 / 次頁