一対 | ナノ





『お前は何のために戦ってんだ?』










その問いに、当時の僕は信念をもって答えた筈です。









『自分たちの居場所を護るために戦うんだ』









今はどうでしょうか。


何かのためだと、明確に答えられますか?


にしても、当時の僕は攘夷浪士だった……のでしょうか。


会話を聞く限りはそのように感じられましたが……。




とりあえず、僕たちは今日も仕事です。




「で、あのガマなんですか? 見物ガエルですか?」


「お前、話聞いてた?」


「いいえ、まったく」


「ちょっとは悪びれろや!!」




 ゴツン──




「いだっ! 何するんですか副長!」


「てめーが悪ぃんだろうが!」


「……沖田隊長なんか彼処で惰眠を貪っています」


「てめっ、総悟ォ!!」




あんな海賊とつるんでいたかもしれない天人なんか、嫌ですよ。


何故護らないといけないのですか。やる気がでません。


厠行きましょう……。


難解な屋敷の造りに少し迷いながらも、厠で用を足すことに成功します。


スッキリして水を流します。




 ジャー──




……あれ、水の流れが悪いですね。


巷じゃあタンクのなかにボトルを沈めて節水なんてありますけど。


まさかこんな屋敷で? お金持ちじゃないんですか?




 ガタン──


 バチャン──




電化製品を直すときと同じ感覚で、蓋を軽く殴ってみます。


あ、あれ? 殴ってみたら、何かが落ちました?


……何でしょう? 開けてみますかね。


といったふうに軽いノリでタンクを開けてみました。


そうしたら……。




「これ麻薬じゃないですか……?」




こいつは隠しだての仕様もなくクロですよ。


あのガマカエル、攘夷派に突き出してやりましょうか……。


……でも、近藤局長はそれでも護れと言うんでしょうね。


あの人はお人好しですから……。




 ドォオン──




「っ! 何が……、」




手にした袋をポケットに、蓋を元通りに戻して厠を出ます。




「副長! 一体何があったのですか?」


「てめぇ、悠助! どこほっつき歩いてたんだ!」


「……厠ですよ、何の騒ぎですか?」


「近藤さんが撃たれた、」




……。


あの音は、やはり銃声でしたか……。





「ところで副長、先程厠で麻薬と思われる粉を発見しましたが……」


「それがどうした」


「……僕たちは近藤局長に従えばいい、ですよね?」


「たりめーだ、俺の大将は昔から近藤だけだ」




……まったくですね。


それなら僕も、ただ局長に従いましょう。




「さて、まぁ動いてみましょうかね」


「あ? 何するつもりだ」


「攻めの守りですよ、土方副長。待っているなんて性にあわないのです。

 ……あ、沖田隊長ー」


「あ、コラ! 待ちやがれ!!」


「何でさァ?」


「少し面白いことを思いつきましたので助力を乞おうかと思いました。実はですね……」




そして、夜。


僕と沖田隊長はかねてより打ち合わせたとおりにガマを引きずって来ました。


そこへ土方さんがやってきて、発情期の猫のように喚き始めました。




「何してんのォォォォォ!? お前ら!!」


「大丈夫大丈夫、まだ死んでませんぜ」


「土方副長、……これ、暖かいです」


「要は護ればいいんでしょ? これで敵誘きだしてパパッと一掃」


「これこそが、攻めの守りです」


「貴様ァ、こんなことしてタダですむと思って……モペ! ムガッ」




ガマの口に次々に焚き火用に用意した薪を突っ込んでいきます。




「土方さん、俺もアンタと同じでさァ。早い話ここにいるのは近藤さんが好きだからでしてねぇ。

 でも何分あの人ァ人が良すぎらァ。他人のイイところ見付けるのは得意だが悪いところを見ようとしねェ。

 俺や悠助や土方さんみてーな性悪がいて、それで丁度いいんですよ、真撰組は」




あ、なかなかの殺し文句ですね。


これで断れる人間がいたら、そいつは人として失格ですよ。


でもひとつ言わせてください。僕は決して性悪じゃありません。




土方副長が焚き火に手をかざします。




「あー、なんだか今夜は冷えこむな……。薪をもっと焚け」


「はいっ!」「はいよ!」




沖田隊長は焚き火に薪をくべて、僕は炎を扇ぎたてます。





 チュインッ──




「天誅ぅぅぅ!! 奸賊めェェ! 成敗に参った!!」


「どけェ幕府の犬ども、貴様らが如きにわか侍が真の侍に勝てると思うてか」




ようやく、でしょうか。


開け放してあった門から攘夷浪士たちが20人ほど入って来ました。




「おいでなすった」


「予想通り、ですね」


「派手にいくとしよーや」




すっと剣を抜き放ちます。


さぁ、──




「まったく、喧嘩っ早い奴らよ……。

 3人に遅れをとるな! バカガエルを護れェェエェ!!」




寝込んでいた筈の、近藤局長の声が聞こえます。


……今度こそ、始めますよ?




「《双牙》が片割れがこのような所にいようとはな!」




 ガキンッ──




一番手前で、一人と鍔競り合いになりました。




「《双牙》ですか? そんなものはいません、よっ」




何なんですか、ヅラにしろ何故僕を《双牙》と呼ぶのです?


そんなふうに呼ばれた覚えはありません。


……覚えはありません? 記憶喪失の僕が、そんなふうに言いきれますか?







「クククッ、貴様ら何も知らんのだな!」


「何を、」


「此は愉快なり!! 噂はどんどん広まっている! 直に高杉も動くであろうっ!!」


「そんなこと、関係ありません! 僕たちはただ……」




そこで言葉を止め、半身引きます。




 ズバン──




「ぐあっ!」


「攘夷浪士を叩き斬るだけです!!」







刃についた血と脂を払い、次の獲物を定めます。




「っく、高杉は必ず、片割れを取り戻す……!

 《双牙》が揃ったときが貴様ら真撰組の潰れるときよ!!」




そいつは言いたいことだけを一方的に喚き散らして勝手に事切れました。




「騒がしい男ですね……、終わったらさっさと終わればいいのです」


「悠助、何やってんでィ!」


「今、戻ります!」




それにしても、《双牙》……。


そろそろ、本腰入れて調べたほうがよさそうですね……。




それから程なくして攘夷浪士の捕縛も終了しました。







『おい、ユウ。見てみろよ』


『何、……兄弟刀?』


『俺たちにピッタリだと思わねェか?』




晋助が見ているのは鍛治屋の壁に飾られていた鍔のない黒い刀。


俺は、浅い息を吐く。




『……  、ああいうものは一度手にとってから馴染むかどうか確認して買うもんだぜ』


『さっき持ってみた』


『で、どうだった?』


『俺たちにあう得物はあいつらしかあるめーよ』


『そこまで言うのなら叩くか』




ニッと笑う晋助に、俺も同じように笑い返す。


まどろんでいた鍛治屋の主に刀について問いかける。




『妖刀というわけじゃないが、この刀には不思議な力があってね』




主は刀の目釘を確認しながら言った。




『どんなに遠く離れていても共鳴して互いを巡り逢わせると云われているんだ。

 それに、この刀は2振り揃ってないと本来の力を発揮できないらしい。

 ……この刀は2振りで初めて存在の意味をなすんだよ』


『ますます、俺たちに見あうなァ』


『本当に、俺たちと同じだろォ?』





そう、あの子は僕と晋助を繋ぐ大切な刀。


僕と晋助とは、同じ関わりを持ちます。


え? 何故僕たちと刀が同じなのですか?


そんなに大切な刀なら、何故僕の手元にないのですか?


何故僕はここにいるのですか?


何故僕は探されているのですか?


何故僕は独りここにいるのですか?


……わからない。


思い出せません。




「しん、すけ……」








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