入ったお店は、落ち着いた雰囲気のお店。
メニューには様々なパスタの写真がついていた。
ちなみに私はカルボナーラで、クラサメ君はペスカトーレを頼んだ。
「すごく美味しいですー!」
「そうかい!俺たち、この店気にいっててさ。」
「ええ。週に1回は来ますよね?」
「すごい、そんなに…?」
私の頼んだカルボナーラは、クリーミーだけど黒胡椒が聞いていて大人の味。
クラサメ君はというと。
トマトソースがたっぷりかかったペスカトーレを美味しそうに食べている。
アサリと茄子も乗っていて、すごく美味しそうだ。
―――よし、夫婦らしいことしてみるか。
「ねぇあなた、ちょっと頂戴?」
クラサメ君は器用にフォークにパスタを絡めて、ずいっと差し出してきた。
「……ほら。」
一瞬このノリに戸惑ったものの、私は差し出されたフォークにかぶりついた。
「んー!美味しい!」
「あらあら、二人ともラブラブねぇ」
マールさんがくすくす笑う。
こ、ここは恥ずかしいのを我慢して……!
「そ、そうなんです!毎日ラブラブですよ!あはは!」
この言葉にクラサメ君はギョッとしていた。
ごめんね、クラサメ君。
「ははっ、なんならここでキスしちゃえよ!」
―――なんだって?
そう言われた瞬間、心が冷や汗をかき始める。
ヤバいよね、コレ。
夫婦役とはいえ、こんなことは予想外だった。
私が少し固まると、目の前の二人は『キース!キース!』と音頭をとりはじめた。
―――どうしよう、そんなことできるわけ……!
と、思っていたら。
「……っ、オリ」
ぐっと肩を掴まれ、クラサメ君と向き合う形になる。
クラサメ君は顔が赤い。
え?ちょ、何この展開……。
まさか、と思い、顔が熱くなる。
『我慢してくれ』
クラサメ君は口パクで私に伝えた。
そうして、だんだんクラサメ君の顔が近くなっていく。
え、ちょ、待って―――。
恥ずかしくなってぎゅっと目を瞑った。
次の瞬間、唇に柔らかいものが触れる。
バクバクバクバクバクバク
刻む鼓動は、心臓が破裂する勢いで止まらない。
唇から伝わる体温のせいで、よりいっそう恥ずかしくなる。
ヒュー!!なんて二人の声が聞こえるけど、今はそんなのどうでもよかった。
そして、ゆっくり唇が離れていく。
「……。」
「……。」
どうしよう、心臓が煩い。
物凄い速さで脈打っている。
「いやいやぁ、キスくらいで顔を赤くするなんて初々しいねぇ!!」
「フフフ、二人とも可愛いわね!」
フレオさんとマールさんはキャッキャしてるけど、こちらはそうはいかない。
クラサメ君と喋らずに、パスタを平らげた。
*
「じゃあなお二人さん!」
「気をつけてねー」
「「ありがとうございました!」」
時刻は午後4時。
パスタを食べた後、街の案内をしてもらった。
大体の街の様子が分かったから、二人にはとても感謝している。
で も 。
「……帰ろう」
「……うん。」
あんなことがあったので、少々、いやかなり気まずい。
無言で、朝通った路を歩いていく。
季節の所為で日没が早く、あたりはうす暗い。
「……オリ」
クラサメ君が歩みを止めた。
「ど、どうしたの?」
「今日はすまなかった……。」
「え…」
驚いた。
クラサメ君の口から謝罪の言葉が出てきた。
「その、あの時はああする以外に方法が浮かばなかったんだ…。仕方なかったとはいえ、嫌…だっただろ?」
「うっ、ううん!!全然イヤじゃなかったから…!」
私は即座に否定してしまった。
クラサメ君は目を見開いている。
なにこれ、まるで私がクラサメ君とキスしたかったみたいじゃん!
恥ずかしくなった私は、クラサメ君の肩に頭を預けた。
好きとか、そういうわけじゃないけど…。
クラサメ君からキスを受けたとき、ちょっとだけ『心地いい』とか思ってしまった。
そしてキスを受けた後から、ずっと心臓が鳴りっぱなしだった。
なんか、キモチが変。
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