とりあえずお部屋を出発した私たちは、道路脇の標識に従って市場に向かう。今日はあまり雪が降っていなくて、太陽の光に当てられて、積もった雪が輝いていた。
市場へ向かう間にも、しっかり人間観察。
ここは白虎の首都で、私たち朱雀の人間が敵のように思っている国の街。
どんな人間が暮らしているのかと思っていたけれど、実際来てみると、雰囲気は朱雀となんら変わらない。みんな幸せそうだ。
15分くらい歩くと、だんだんと人が多くなってきた。人ごみの先には長い道路が合って、道路の脇に様々な露店があった。
いわゆる「マーケットストリート」というヤツだ。
「わあぁ…!すごい…!」
露店にはたくさんの品物が溢れんばかり並べられていた。色とりどり果物が大量に並べられていて虹色になっていたり、様々な種類の豆が量り売りされていたり。
とにかく、こんなの初めてだった。
「折角だから、見て回るか?」
「うん!」
クラサメ君にエスコートされながら、私は市場をみることにした。
まずは野菜。見たことのない色のトマトが、ずらりと並んでいる。
「すごい、黄色いトマトだよ!」
黄色いのはもちろん、赤いのも微妙に色彩が違っていたり、形が丸かったり楕円形だったり、とにかくいろんな種類があった。朱雀には市場があまりないし、あったとしてもごく小規模だから、こんなにたくさんの種類を見たりしたことがなかった。
「どうだい、1つ食べてみるかい?」
この露店の店主らしき女性が話しかけてきた。見たところ、いい人のようだ。
「え、いいんですか?」
「もちろんよ!アンタみたいなカワイコちゃんにはサービスせんとね!!」
おおう、ハツラツ。
とりあえず、最初に目に入った黄色いトマトをもらった。
おそるおそる口の中に入れて、噛んだ。そしたら、
「うわぁああ!美味しいこれ…!」
噛んだ瞬間に果肉が裂け、中から冷たくて甘いジュースが溢れてくる。果肉も歯ごたえがあり、それでいてさっぱりとした甘さだ。これは凄い。
「ほれ、旦那さんも食べてみるかい?」
「旦那」という言葉を聴いて少しドキッとした。クラサメ君を見てみたら、
「じゃ、じゃぁお言葉に甘えて…。」
ほんのり頬を染めながらトマトをもらってた。クラサメ君も私と同じようにトマトを頬張った。
「クラ……こほん、あ、ああ、あなた、どう…?」
「ん、美味い…」
「そうかい!あたしゃ嬉しいよ!」
ニコニコする店主の女性。なんか、これはヤミツキになりそうだ。
そう思った私は、
「このトマト、ください!」
トマトを買おうと思った。
「毎度あり〜」
とりあえず、500ギル分くらい。そう注文したのだが。
「可愛いお二人さんにサービスだよー!」
紙袋に、予想外の量のトマトを入れられた。
「いいんですか、こんなに頂いて…!」
「いいんだよぉ、ウチは儲かってるからネ!!」
ふふ、と店主は笑みをこぼした。つられて、私まで笑顔になってしまった。
そんな感じで何件か露店を見て、いろいろ購入してしまった。パン、野菜、コーヒー豆に岩塩、それとチョコレートも。
「オリ、お前少し買いすぎだ…」
当然、お荷物係はクラサメ君。様々な模様が入った紙袋を腕にぶら下げている。
「いいじゃない、監査もできるし!クラサメ君は旦那様でしょっ」
そう、彼は旦那様。旦那様。
―――あ。
つい勢いに乗って旦那様とか言ってしまった。
(わぁあああ!私なんて事を……!)
またしても恥ずかしくなり、あわてて顔を手で覆う。
「……そ、そうだったな」
クラサメ君も恥ずかしいのか、言葉がぎこちない。
そのまま5分くらい、何も話さずに歩いていたのだが、
「おーい!」
後ろから、何やら声が聞こえた。どうやら私たちを呼んでいるのか。
声がした方向を向くと、そこにはフレオさんがいた。
「君たちー」
ぶんぶん手を振りながらこっちに走ってきた。
「フレオさん…ですか?」
「いかにも!奇遇だね、こんなところで会うとは!」
鼻を赤くし、鼻水をすするオーナーことフレオさん。
面白い人だ。
そしてフレオさんの隣には、女性がいた。
「フレオさん、そちらの女性は……?」
「ああ、コイツは俺の嫁さんだ。マールってんだ。」
へへへ、と言いながら紹介されている女性はマールという名前。
見たところ40代前半の女性で、物腰柔らかそうだ。
「初めまして、マールと申します。よろしくお願いしますね」
「私はオリと言います。で、こっちが夫のクラサメです」
軽く自己紹介をし、握手をする。
「夫から聞きましたわ。新婚さんなんですって?」
「あ、はい。ははは…」
しっかり認知されていた。
「そうだ、アンタら二人、昼飯食ったか?」
「いえ、まだです」
「じゃあ、俺におごらせてくれよ!引越祝いってことで!」
マジすか!私はクラサメさんのほうを見た。
「ど、どうするあなた…」
「…そうだな、俺はお言葉に甘えたいんだが…」
「じゃあ、御馳走になります!」
するとフレオさんとマールさんはニコニコして、近くのお店に案内してくれた。
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