あのあと、私たちはそれぞれの荷物の紐をほどき、タンスやらクローゼットやらにしまいこんだ。
クローゼットも開けてびっくり。これから着ることになる衣服がたくさん入っていた。
夕食は簡単ではあるが飛空艇で済ませたので、あとはお風呂に入るだけ。とりあえず、お風呂を沸かすことにした。
「クラサメ君、お風呂沸いたら先に入っていいからね。」
「ああ。」
適当に機械を操作したら、お風呂にお湯の入る音がした。
本当にこの部屋すごい。
冷暖房完備、家電完備、衣類完備、食糧完備。冷蔵庫には、3日分くらいの食材が入っている。食器棚にもたくさんの食器が入っていて、全部ピカピカの新品だ。
……魔導院、恐るべし。
*
「お風呂沸いたよ」
「分かった。」
クラサメ君はベッドルームに行き、着替えとバスタオルを持ってきて、バスルームに向かった。
「着た物は洗濯機の中に放り込んどいてね」
さっき確認したところ洗濯機まであったので、早速使ってみる。
クラサメ君がいなくなった瞬間に全身の緊張が抜けて、私はソファに崩れた。
「ううう、精神的にツラいよ…!」
任務とはいえ、彼と3カ月同じ屋根の下。同じベッド。
「うぉおおお……」
同じベッドというのは予想していなかった。
さすがにベッドくらい2つあると思っていたが、まさか2人一つのベッドに寝なきゃいけないなんて……!
ここはミリテス皇国。極寒の地だ。
そんななかで布団もかぶらずに寝れば凍死は確実だ。そして布団も1セットしかない。
ああああ、私どうなっちゃうんだろう……!
私は顔に集中する熱を抑えられずに、ソファにうずくまった。
*
「…オリ、入ってこい」
「あ、はい…。」
暫くすると、クラサメ君がお風呂から出てきた。黒いパジャマを見に付けていて、髪の毛は濡れている。
――畜生、なんだってイケメンだな。
バクバクとうるさい心臓の音を無視し、私もお風呂に入るべく着替えを持ってきてバスルームへ。
ちなみに私はピンクのパジャマだった。なんなんだ、このチョイスセンス。
―――まぁいいや、早くお風呂に入って、早く寝よう。
そう思って服を全部脱ぎ、脱いだものを洗濯機に入れようと、洗濯機のフタを開けたら。
「ひゃあああああ!!」
私は絶叫した。だってだって……!
洗濯機の中に、クラサメ君の下着が…。黒いボクサーパンツ…。
腰を抜かして顔を真っ赤にしていたら、脱衣室の扉が開いた。
「オリ!一体どうし―――」
あ。
クラサメ君は私を見るなり固まった。
あ。あ。
クラサメ君が、みるみるうちに顔を真っ赤にしていく。
そして、ハッと気づくようにして、
「わ、悪い……!!」
風のようにドアを閉めた。
ヤバい。見られた。
洗濯機に放り込もうとした衣服がかかったお陰で見えなかったと思うけど、もしかすれば見えていたってこともある。
よし、まずは冷静に。
立ち上がって洗濯機に衣服を投げ込み、バスルームに入る。勢い余って、ドアを強く閉めた。
すると、
ガツン!!
「あ」
かかとに直撃した。
いったああっ!!!
と叫びそうになったのを抑え、もう一回扉を閉める。
なによ、何動揺してんのよ……!
まずはお風呂。と決めたものの。
「これって、クラサメ君入ったお風呂だよね……?」
乳白色の湯船。とりあえず、入浴剤があったから入れてみたのだが。
またしても動揺する私。
緊張するな…、でも入らないと寒いし……!
―――ええい!入っちゃえ!
私は意を決して湯船に浸かった。
*
「ふう、良いお湯だった。」
髪の毛を乾かし終わってリビングに戻ると、クラサメ君はコーヒーを飲んでいた。
そして私を見た瞬間、なぜか顔が真っ赤になる。
「お、俺は何も見てないからな…!それより、コーヒー飲むか?」
「あ、う、うん。」
会話がどことなくぎこちない。
魔導院ではいつも一緒にいるはずだけど、何故か今はぎくしゃくしていた。
良い香りのするコーヒーを飲み、体もぽかぽかしている。壁に掛けられた時計を見ると、もう零時を過ぎていた。
時間を認識すると、体も自然と眠くなってきたようで。
……そろそろ寝ようかな。
そう思ってソファを立ったのとほぼ同時に、クラサメ君も立ち上がった。そのまま一緒に脱衣室へ。ほぼ同時に色違いの歯ブラシをとり、順番に歯磨き粉をつける。そうやってハミガキをして、また順番にうがいをする。そして、順番にベッドルームに入った。
―――なんだこの一連の動作。
あ、そういえば。
「クラサメ君、化粧水ってどこにある?」
「そこの鏡台の引き出しの中とかに入ってるんじゃないか?」
そう言われて、鏡台の一番上の引き出しを開けてみた。
「ひゃ、ひゃああぁあ……!」
私はまたしても絶句した。
「オリ、今度はどうしたん……」
クラサメ君も、固まった。
鏡台の一番上の引き出しには、コンドームが3箱も入っていた。
*
「……オリ、どっちがいい?」
「……私は右。」
「じゃあ俺は左だな。」
ご丁寧に枕が2つ用意されているベッドに入った。
ドキドキドキドキ
緊張する。
クラサメ君と同じベッドで寝る日が来るなんて、夢にも思ってなかったなあ。お互い背中を向けて、横になる。
「…おやすみ?」
「…おやすみ。」
なんか変に疑問形になってしまった。
なんだろう、今日は疲れた。ドキドキするし、心臓に悪い。
―――もう寝よう。
私は静かに瞼を閉じた。
おやすみ。
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