夜の雪原を1時間ほど歩くと、首都イングラムに着いた。




予想していた街並みは本で見た資料のようなさびしい街並みだったけど、私たちの任務地はそうではなく、賑わいのある元気な街だった。


とりあえず、教えられた住所の通りに目的地を探した。


「うわぁー、綺麗!」


街路樹は氷の模型のように雪で輝き、イルミネーションが鮮やかに彩られていた。
すれ違う人々も皆幸せそうだ。



目的地周辺に着くと、一つの建物の前に誰かを探しているような人を見つけた。
じっと見つめていると私の視線に気づいたのか、こっちに駆け寄ってきた。


「お、あんたたちが今日から入居するオリさんとクラサメさんかい?」
「そ、そうです。」


気さくに話しかけてきたのは、見た感じ40代の男性。とても明るそうな人だった。


「俺はこの物件のオーナーのフレオだ。よろしくな!」

そう言って、握手をした。

「じゃぁ着いてきな。案内してやる。」


陽気なオーナーに笑えてきて、クラサメ君と顔を見合わせて笑った。













「いやぁ、お二人さん結婚してるんだって?」


いきなり矢を刺された。ドキッとしてしまう。


「あ、はい…。」


ドギマギしているせいで、組んでいる腕に力を込めた。


「お似合いだよお二人さん!旦那さんはどうなんだい?嫁さん可愛いかい?」


クラサメ君の体が一瞬跳ねた。これは思ったよりも大変だ…!

クラサメ君を見上げると、顔が赤くなっていた。



「…そ、そうですね……。」


なんと肯定したクラサメ君。気恥ずかしくなり、私は俯いた。



「ほほ、初々しいねぇ!新婚さんだな?」
「は、はい」



階段をのぼったり通路を歩いたりしていると、一つのドアの前に立ち止まった。どうやら、ここが私たちの部屋なようだ。


「ここがあんたらの部屋だ。合い鍵は部屋の中に置いてあるから、出かけるときはキチンとかけるんだぞ!」


じゃぁなーと手をひらひら振りながら、フレオさんは戻って行った。













部屋の中に入ると、私は驚いた。


「わぁ…、すごい……!」


まだ作って間もないのか、床も壁もピカピカだ。家具は事前に用意されているようで、生活に必要なものは大体そろっている。


「全部そろってるんだね」
「あぁ、なかなかいい部屋だな…」


とりあえず荷物をそこらへんに放って、部屋の中を散策し回った。


キッチンも広い。お風呂も広い。そんなに部屋数は多くないものの、丁度いい広さだった。


「わぁー、この部屋は何かなぁ…」


リビングにあるドアのうち、一つを開けてみた。







中を見て、私は絶句した。


「な、なにこれ…!?」


私の声はただならぬ声色だったらしく、クラサメ君が急いで駆け寄ってきた。


「どうしたオリ、何かあっ……」



クラサメ君も固まった。




部屋の中には、クローゼット、タンス、デスク、そのほか家電、あと……


大きいベッドが一つ。
思考回路が停止しそうになった頭を回転させ、他の部屋も見てみる。



バスルーム、リビング、トイレ、玄関……。そんなに部屋数がない。

どこを探しても、ベッドはなかった。





――つまり?

「ねぇ、クラサメ君…、これって…」
「一緒に寝なきゃダメ……だよな」

夫婦設定は、家の中でもだった。











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