なんとかダンスについていけるようになったものの、やはり足元を気にしながらでないと踊れない私。
クラサメ君はというと、さっきからバレない程度にキョロキョロしている。
「クラサメ君、何してるの?」
「ターゲットを探してる。」
そう短く告げられて私はあっと気付いた。
ダンスをしながらだったらターゲットを見つけやすいし、バレにくい。
流石クラサメ君、頭イイね。
感心しながらも私はダンスに集中集中。
「いた」
ボソリと告げられて彼の目線の先を見つめると、ターゲットを発見した。
ターゲットは白虎の兵器開発研究所の主任の一人。
なんとも、上品とは言えない大声で笑いながらウエイターに悪態をついているようでかなり目立つ。
「ここから刺せるか?」
「刺せないことはないけど、ここじゃ人が多すぎるよ。ヤツがこの会場から出た時に刺す。ガードマンは……どうする?」
「俺が捻りつぶしておくさ」
「氷づけはやめてよ、魔法だってバレるからね」
白虎に捕虜としていくのは絶対イヤだ。
天地がひっくり返ってもイヤ!
暗殺計画が纏まったところでクラサメ君に手を引かれながらホールの中央から抜けた。
ターゲットが見える位置で、ごくごく普通にシャンパンをたしなむ。
10分くらい経っただろうか、ターゲットが動いた。
「行くぞ」
「うん」
ターゲットを見失わないようにするすると人込みをかき分けて追いかける。
会場を出ると、ターゲットはホテルフロアへと移動した。
これは丁度いいかもね?
「ところでクラサメ君、今回のターゲットになってる男の人ってどういう人なの?スパイ?いや、白虎のスパイが白虎にいるって変だよね…」
「俺も詳しく聞いていないが、研究所の運営に携わる人物らしいな。特に金銭面に大きく力を及ぼしているらしい」
「お金、ね…」
白虎の経済状況は、お世辞にも良いとは言えないらしい。こうやって晩餐会に出たり、こないだの市場で買い物をするくらいの層になれば話は別らしいが、度重なる課税に貧困層はかなり追い詰められているらしい。
事前資料でも大通りを少し外れたところにもいくつかスラムが形成されているという。
おそらく白虎という国の経済を回しているやつは自己中心的な考えのもとに自分の周りのしあわせだけを考えるやつなんだろうなと容易に想像できる。たとえばーーー
あのターゲットとか。
ゆったりとしたワルツが終わり、あたりは演奏家たちに向けた拍手の音でいっぱいだ。
わきあがる歓声と人ごみの中、怪しまれないようにかつ素早く抜け出し、ターゲットの男を尾行した。
そのとき、私は誰かの肩にぶつかってしまった。
もたもたしてはいられないけど、怪しまれたくないので礼儀をもって謝らなければ。
ぶつかった主を見てみると背が高く、少し厳つい雰囲気ではあったが、凛々しい顔つきの金髪が美しい青年だった。年齢は…きっと同じくらい。
「あの、ぶつかってしまって申し訳ありません…。」
「あ、いや…。こちらこそすまない」
くっと体を曲げて頭を下げてくれたあとに少しはにかんで青年は言う。
「とてもきれいな方で少し驚きました。私はカトルといいます。あなたの名前を伺っても?」
「あ、えっと…オリと申します。よろしくお願いいたしますわ」
「オリさんですか、覚えておきます。よろしければ1曲いかがですか?」
と慣れた感じでダンスのお誘いを受けたところで、クラサメ君がずいっと…
「申し訳ないですが、妻は慣れない場でのダンスで少し疲れてしまったようなのでこれからホテルに戻って休ませるところなのです」
つ、つま!?…そうだよね、そうだ妻なんだよ私……。
毎度のごとく頬に熱が溜まるのを感じた
「おや、そうでしたか…。というより、私と同じくらいの年に見えますがご成婚なされていたのですね、これは失礼いたしました。
機会があればオリさんとお連れの方もお茶でも…」
といい、笑いながらカトルさんは人ごみの中に消えていった。
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