室内楽団が優雅に奏でるメロディーに合わせ、紳士淑女たちはステップを踏む。
いいなぁ、私もああいう風に踊れたらいいのに。

今宵は晩餐会。
いろいろ変装して参加して、今はテーブルでジュースを飲んでいる。
ちらりとクラサメ君を見たら目が合って、ぱっと視線を逸らされた。

(もしかして私、似合ってない……?)

用意されていた変装用のドレスを身に纏っているものの、露出が多くて落ち着かない。
背中はばっくり開いているし、胸元なんかもオープンだ。
ドレスは買ったばっかりだったのかタグがついていて、「宵闇の蝶」とかって書いてあった。
私はもともと童顔でちみっこいから、「明け方の幼虫」だろうな。


「見つからないね…。」
「…あぁ」

要人が見つからない。というか、この位置からだと全く分からない。
ダンスをしているあたりに行けばぐるりと見回せるだろうけど、ダンスをしている最中にズカズカと入る勇気はない。
さてどうしようか…と悩んでいたら、クラサメ君は立ち上がった。

偵察にでも行くのかなと思ったら私の前に来て手を差し伸べた。

「……を…、ど……」
「え?」

「っ…、お、お手をどうぞ」

恥ずかしそうに私に手を差し伸べるクラサメ君。
これはもしかして…。

「…踊るの?」

と問うと、こくりと肯かれた。
瞬間、かぁっと顔が熱くなった。

(やばい、どうしよう…、なんかドキドキしてきたかも…)













「きゃ…」

手を引かれて辿り着いた先はダンスホール。
引っ張られるや否や腕の中で、なおさら鼓動が速くなる。


「…っ」

ひんやりとした手が剥き出しの背中に触れて、若干息をつめた。
戸惑いながらもクラサメ君の腰に腕をまわして手を繋ぐ。

「俺がリードするから、適当についてきてくれ」

なんということだ。クラサメ君は勉強も戦闘も一番なのにダンスもできるのか!
惚れ惚れしてしまう。
…あれ、何惚れ惚れしちゃってんの私…!


「っわわわ」

ダンス慣れしてない私はことごとく不可解なダンスをしてしまう。
足を動かそうとしてもどう動かせばいいかわからないし、無駄にもつれて何度も転びそうになった。

「ふごっ!」

そして遂にバランスをくずしたぜ!
やばい、倒れる!と思ったところ、なんとかクラサメ君がギリギリ抱きとめていてくれたおかげで大理石と後頭部がゴッツンコは避けられた。

音程ならまだなんとかなるが、リズム感はというと、エミナ曰く「外しすぎてむしろ褒めたいくらい残念なリズム音痴」だそうだ。

なんとか体制を直してまた踊り出すものの、やっぱりテンポを掴めない私はあたふたと不可解なステップを踏む。
それを見兼ねたのかどうなのかわからないけど、クラサメ君が私の背中に回る腕に力を込め、私を引き寄せた!

「きゃ!な、なにすんのクラサメく…」
「あまり大きい声を出すな…。テンポが分からないんだろ?俺がテンポ口ずさむから、それに合わせて踊れるか?」

つらつらと耳元で言葉を並べたクラサメ君。
こくりと頷けば、クラサメ君は言葉通りにテンポを口ずさんだ。

「1,2,3,1,2,3…」

耳元でテンポを刻んでくれる優しい声色。だけど思わずぞくっとした。
なぜなら…。

「っ…(み、耳に近いっ!)」

周りが結構ワイワイと煩いので物凄い耳元でテンポを刻んでくれるクラサメ君にはとても感謝してるけど、ちょっと近いですよ…!
動くとそれなりに距離も動くのでたまに唇が耳に触れてしまって、びくっとしてしまう。

やばい、今わたし絶対顔赤いよ……!

クラサメ君の腰にまわした手でクラサメ君のスーツを必死に握りしめながら耐えたのである。











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