飛び立った飛空艇の甲板から見下ろした景色は、ゆっくり遠ざかる。
建物が小さくなっていく。
遂に出発してしまった。
これからクラサメ君と二人きりで3カ月。


「…はぁ」

ため息をつかずにいられなかった。

大丈夫かな、うまく成功するかな。
二人きりというのも気がかりなのだが、一番心配なのは「生きて帰れるか」ということだ。
考えてみれば、敵軍の首都に2人だけで潜入。バレたらまず命取りだ。
どんなに二人の実力が高かろうと大量の魔導アーマー相手なら、1時間もつかもたないかで死ぬだろう。

不安だ。













船室に入ると、クラサメ君が私に近づいてきた。
右手をグーにしてるあたり、なにか持っているんだろうか。

「…オリ、ひ、左手を出せ」

ものすごい噛み噛みだ。クラサメ君は、寒さの所為か少し頬を赤くしていた。
言われるがままに左手を差し出した。

手のひらを見せるように出したら、くるりと手の甲を差し出すように反転させられる。そして、クラサメ君が私の指にはめようとしたものに絶句した。

「く、クラサメ君…、それって…」
「…しっ、仕方ないんだ…!任務なんだ……!」

左手の薬指に、冷たい感覚。はめられたものは、他ならぬ結婚指輪。シルバーの、ごくシンプルなもの。
クラサメ君の薬指にも、同じものがはめられている。

まさか、本当に夫婦役だなんて。
顔が真っ赤になる。

「…クラサメ君、その…、これからよろしく…。」
「こ、こちらこそ…。」

お互い顔を真っ赤にして、船室のソファに座る。
ちゃっかり、2人掛けのソファにちゃんと二人で座った。




暫く沈黙。




ガチャ、と扉が開いた。

「じゃぁ、今回の作戦の注意事項とか話すわね。」

私たちは上官から、指示を聴いた。















とりあえず、理解した。
まず、COMM以外で味方と通じる手段がないこと。
やはり夫婦役を装うこと。
1日1枚の報告書を作っておくこと。
もしも危うくなったら、戦闘を避けること。
など、いろいろ聞いた。

「ごめんね、君たちみたいな若い子にこんなことやらせて…。」
「いえ、大丈夫です…。」
「そうそう、二人にもう一つ注意なんだけど…、ちゃんと夫婦らしく、もといラブラブしなさいね?」
「え…」

ラブラブ…。クラサメ君と…。
私はクラサメ君と顔を見合わせた。

「でないと怪しまれちゃうからね。よろしく!もうすぐ着陸予定地に着くわ。クリスタルの加護あれ〜!」

そう言って、上官は出て行った。














雪の上に立ち、あたりを見渡す。

「うひゃぁ〜、雪景色!」

さすがに首都まで飛空艇に乗るわけにもいかず、少し離れたところにおろしてもらった。

「街に着いたら、この住所をたずねて。おうちを用意してあるからね。」

そう言って、飛空艇は去って行った。





にしても寒い。やはりルブルムのほうが過ごしやすいね。
私たちは、首都イングラムに向けて歩き始めた。

「……寒いね」
「…そうだな」

ぎゅっぎゅっと、雪が軋む音がする。

「わ!?」

不意に手を引っ張られ、クラサメ君のほうへ倒れ込む。思わず、クラサメ君に抱きつくような形になった。

「クラサメ君…?」
「こうしたほうがあったかいだろ?」

そのまま腕を組むような形になる。

「それに、夫婦だからな。」

そう言ってクラサメ君は苦笑いした。
どきん、と一瞬だけ心臓が躍った。
恥ずかしいぞ…!
でも、クラサメ君の体はあったかかった。










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