「あ、クラサメ君。」
「オリか。」

軍令部室の前でばったりと会った。
私はクラサメ君やエミナやカヅサとは同期で、いつも仲良くしている。

「クラサメ君も、何か呼び出しされたの?」
「まぁな。」
「奇遇だね。私も。」

とりあえず、呼び出された時は「急ぎ」だと言われたので急いで軍令部室に入る。
見なれた上官が手招きをしていた。

「おお、来たか。こっちに来なさい。」

どうやらクラサメ君に対して手招きしていると勘違いして、私は動かなかった。だが。

「オリ君も来なさい。君たち二人に用事があるからね。」

なんだろう、私とクラサメ君でタッグを組むなんて。
疑問に思いながらも、とりあえず上官のもとへ駆け寄った。













上官は作戦内容の書いた紙を持ち、内容を噛み砕いて離す。

「オリ・イザナギ。クラサメ・スサヤ。君たち二人には、3か月の長期任務についてもらう。」
「3か月…!?」

かなり長い。
しかもクラサメ君と一緒なんだ…。

「この作戦は非常に重要だ。しかも隠密に遂行してもらう必要がある。なので、今回作戦に直接参加するのは君たち二人だけだ。」
「「え!!?」」

私はともかく、クラサメ君まで声を上げた。
普段は冷静沈着で、何事にも動じない彼が、私の隣で声をあげた。

「お言葉ですが、何故俺とオリなんでしょうか。何か理由があるのですか?」

クラサメ君は焦りながらも、質問をした。
そうだ、なんで私とクラサメ君なんだ。

「さっきも言った通り、この作戦は重要かつ隠密に行わなければならない。そこで、魔導院で一番機動性があるのはこの組み合わせだということだったので、君たち二人にやってもらおうと思ったのだ。」

確かに、私は1組で一番隠密性とスピードに優れている。
そしてクラサメ君は1組でもトップクラスの実力の持ち主だ。

「では、詳しい作戦内容について話をしよう。」













「それ本気ですか…!?」
「…すまないな、君たち。」

作戦内容はこう。
・ミリテス皇国の首都に潜入。
・皇国の民になりきって、皇国の街、並びに住人を監査。
・この作戦では、二人に夫婦を演じてもらう。
……だった。
項目2つは当たり前だ。
だけど最後が納得できない。

「どうして夫婦なんですか…!?」
「そうです!何故俺たちがそんなことを…!」
「すまないが2人侵入させるとて、兄妹の2人暮らしだと怪しまれるだろうし、仮に男同士で2人潜入させるとなると、あまりにも見つかるリスクが高すぎるんだ。
大丈夫だ。君たちくらいであれば、十分夫婦に見える。歳はいくらか若いがな。」

そ、そんなぁ…!
ふと隣を見ると、クラサメ君は顔を真っ赤にしていた。
……そんなにイヤなんだろうか。

「……もし俺が辞退したら、誰がやるんですか?」
「そうだな、今回は調査が目的だから、カヅサ・フタヒトあたりに頼むんじゃないか?」

カヅサ・フタヒト。同じく、仲の良い同期の候補生だが。

「クラサメ君、お願い、辞退しないで!ね?ね?」

あいつは友達だけど、ちょっとというかかなりヤバい性格をしている。
あんなヤツと3カ月夫婦役をするのは、かなり嫌だった。
何をされるかわかんないし……!

「…仕方ない……」

ものすごく眉間にしわを寄せながら、クラサメ君は承諾した。

「そうか!よかった。では、早速荷造りをしてくれ。出発は12時間後だ。」

それはいくらなんでも早すぎませんか!!?
軽く心の中で絶望しながらも、私たちは軍令部室を出た。











「……ごめんね、クラサメ君。」
「いや、別に……」

なんでも、衣服などは準備してくれるそうだった。
とりあえず簡単に支度を済ませて、クラサメ君の部屋に来ていた。

「3ヶ月かぁ…。その間はエミナやカヅサとも会えないんだよね?」
「そうだな」

3か月。3か月。
同じ屋根の下、しかも異性と二人きりで、夫婦のつもり。
考えてみたら、顔が熱くなった。
だってそうだ。クラサメ君はかなりの美形の部類に入っている。今、院で一番人気がありそうな人だ。
成績優秀、文武両道、眉目秀麗。完璧だ。
そんな人と、果たして上手くやれるのだろうか。

「……オリ?」
「え!?あ、ごめん、考え事。」

どうやらかなり顔が赤かったらしい。
誤魔化すために、もらったアイスコーヒーを一気飲みする。




「オリ、これ。」

何かと思ってクラサメ君のほうを向いたら、紙袋を差し出してきた。

「なにこれ?」
「皇国で着る服だってさ。準備出来たらこれ着て、飛空挺発着場に来いと言われた。」

紙袋を受け取り、中から服を取り出す。
中に入っていたのは、ピンクとベージュと基調にしたドレスと、その下に着るのであろう白いシャツ。
そのほか、装いのために必要なものがすべてそろっていた。
意外と、可愛い。

「俺はもう着替えるが、お前はどうするんだ?」
「じゃぁ私も着替える。脱衣室借りるね。」

荷物をすべて持ってこっちに来ていたので、いちいち部屋に戻るのはめんどくさい。
クラサメ君は一瞬驚いたような顔をしたけれど、普通に貸してくれた。
出発まで、あと1時間だった。









「おーい、こっちだー!!」

着替え終わり、私たちが飛空挺発着場に来た時には、飛空艇がスタンバっていた。

「おうおう、君たちなかなか似合ってるじゃないか。」
「え、あ、はい……」

何故か、顔が熱くなった。
隣にいるクラサメ君は、黒いボトムとシャツ、ブラウンのニット着て、その上からロングコートを着用。
……なんだ、やけに似合ってる。

「おーい!オリ君、クラサメ君!!」

いきなり後ろのほうから声が聞こえてきたと思って振り返ると、そこにはエミナとカヅサがいた。

「エミナ!カヅサ!」

嬉しくなって、私はエミナとカヅサに抱きついた。

「3か月かい?大変だねぇ」
「そんなに会えなくなるのね…」
「さみしいよ……」
「大丈夫だよ、僕たち応援してるし、旦那様と一緒だろ?」

ニヤニヤしながらカヅサが言った。
う、やっぱり分かるのか…。

「まぁ、帰ってきたら僕が旦那様になってあげてもいいけどね?」
「それはやめて!あんたが旦那とか毎日何されるかわかんないじゃん!」
「オリ、それはカヅサがかわいそうよ!」

3人で笑う。心があったかくなった。

「……そろそろ行くね!」

私は二人から離れ、クラサメ君のほうへもどった。
飛空艇に乗り込み、甲板に出る。

「クラサメ君、がんばろうね」
「ああ」

甲板からカヅサとエミナを見下ろす。
二人はぶんぶん手を振っていた。

「クラサメくーん!お幸せにーーー!」
「オリーー!お幸せにー!!」

ちょっと、二人ともやめてよ…!
二人はいい笑顔だ。
しかたないな、もう。


私は大きく手を振った。
クラサメ君も隣で小さく手を振っていた。





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