ぐにゃぐにゃのわたしであります


「くっくく、くくくクラサメ士官!!」

やばい、ついに呼んでしまった。
クラサメ士官が私のほうへ体を向ける。

私が右手で握りしめているのは俗に言うラブレターとか恋文の類である。

「こ、これ!!!」

ばっと手紙を押しつける。
どうしよう、さっきから顔が真っ赤っかだ多分!

「よ、よよよよ、っよ…」

読んでくださいの一言が言えずどもりまくる私。
そして…。


「よーーーー!!!」

って叫んで私は彼から全速力で逃げた。


あぁっ、どうしよう、嫌われちゃった!
絶対変な奴だと思われちゃったよどうしよう…!

でも、大好きって気持ちに偽りはないんだけどね。










「ぎゃああああ!」

部屋に戻って早速私は悲鳴を上げていた。
なぜなら、渡したはずの手紙が机の上に残っているからだ。
これは間違いなく、

「間違った…?」

おそらくクラサメ士官が今持っている手紙は友達に宛てたものだ。
今日は友達の一人がめでたく誕生日を迎えた。だから私は他の友達と企んでパーティーをしようと考えていたんだけど…、まさかその招待状を渡してしまうとは…。

その前に問題なのは手紙の内容だ。
恋文のほうには、「ずっと前から大好きでした。返事はいらないので、気持ちだけ受け取ってください」とかそういうの。
招待状には、「夜空が今宵の月のペンダントで着飾るころ、私の部屋においでください」とか恥ずかしすぎる文章。
やばい、どうしよう……!
友達に手紙を渡してからそのほか協力員を呼びに行こうかと思ってたから、もしかしなくてもこのまま行けばクラサメ士官と二人っきり…!?

「よ、よし、クラサメ士官を止めに行こう…」

もったいない気もするけど、仕方ないんだ。

現在、午後3時だった。









「エース!!」
「あぁ、オリか。どうしたんだ?」
「クラサメ士官見てない?」
「あぁ、アイツならクリスタリウムに入っていくのを見たぞ」
「ありがと!」

瞬間、猛ダッシュ。




「クオン!クラサメ士官を見てない?」
「クラサメ士官はさっきあの本棚のところにいましたね。というか、クリスタリウムでは静かにしたm(ry」
「どうも!」

猛ダッシュ。



ガラガラ。
「カヅサさん!クラサメ……?」
シュー、ドサッ

2時間後。

「ん…?」
「やぁ、お目覚めかい?」
「そうだ、クラサメ士官は?」
「さっき出てったよ。リフレに行くとか行ってたなぁ」
「ありがとうございます!」
「あっ、ちょっとオリくーん…、
 …まったく、すごいすれ違いだよね」


リフレ
「セブン!クラサメ士官は?」
「あぁ、さっき何か買って行ったぞ」
「ありがと!」






「っあぁああ、もう疲れたぁ〜!」

時刻は既に7時。
走りまわって、カヅサに眠らされて、また走り回って。
窓の外は真っ暗だ。

「部屋に帰ろうかな…。」

なんだか泣きたくなってくる。
やっぱり嫌われちゃったよね、あんな変な渡し方だもん。
それに武官は忙しいもん。
私なんかに目をくれる暇はないよね。
うん、多分来ないよ!

若干こぼれた涙をぬぐい、私は自室へ戻った。










「え…?」

自室の扉の前まで戻ってきたのだが、扉に何か紙が挟まっていた。
恐る恐る引き抜いて文字を見る。

「…っ!」

並べられている文字は綺麗な大人の字。
サインも入っているから、あの人が書いてくれたもので間違い無いんだろう。
思わず心臓が音を立てて鳴り始める。



 オリへ
 仕事があって今日は行けそうにない
 だから、明日午前2時に私の部屋に来てくれ
 遅い時間だから来なくても構わない
 待っている


紙の下の部分には、紛れもなく「クラサメ・スサヤ」と書いてある。

「起きてられるかな…?」

緩む頬の赤らみを抑えきれず、思わずはにかんでしまった。











午前1時55分。
男性武官のフロアに到達した。
あの紙の隅っこに書いてあった番号の部屋を目指す。

寒いのでセーターを着てきた。
ついでに、渡すはずだった手紙もポケットに入れてある。

「…ここかな?」

伝言を見てから速攻買いに行った差し入れのコーヒーを持って、髪の毛が乱れてないか確認して。
ドキドキ、ドキドキ。

コンコンコンコンコン
…焦って5回ノックしてしまった。

「……」

シーン。
ね、寝てるのかな?
と思いきや、がちゃりと扉が開いた。

「あぁ、入ってくれ」
「し、失礼します」

出てきたのはいつもと違うラフな格好のクラサメ士官。
マスクは…付けてない!?

やばい、めっちゃドキドキするやん…。







「そこにかけてくれ」
「っはい」

指さされたソファーはめっちゃ高そう。
恐る恐る座ってみると、ふっくらやわらか。
おもわずぽんぽん触ってしまう。

「…ソファー好きか?」
「あっ、いえ、…」

慌てて姿勢を正すとクスッと笑う気配がした。
クラサメ士官でも笑うことあるんだ…。

「私だって笑うさ」
「ですよね…って、なんで考えてることが……!?」
「声、出てたぞ」

かあああっと頬が赤くなって恥ずかしくて、私は顔を両手で隠した。

「あ、あの、これ、よろしければどうぞ…」

おずおずとリフレの紙袋を手渡す。
すまないな、と紙袋を渡した瞬間、ちょんって指先が触れ合った。

「っ!」

思わず手を引っ込めてしまった。

「そう緊張するな、ここは公式の場じゃない。…で、私に用事があったんだろう?」

そうだ、私は間違って手紙を渡したんだった。
手紙でだったら素直に伝えれたけど、面と向かってなんて言えないよ…。
もっともっと顔が熱くなってきて、ガチガチに緊張してしまう。

「わ、私…、クラサメ士官が……す、」
「す?」
「す……」
「酢?」
「…っす…」
「洲?」

「っすき焼きってやっぱり冬の食べ物なんでしょうか!!?」
「…、まぁ、そ、そうだろうな」

ああああああ私のバカバカバカバカ!

「そうですよね、やっぱりすき焼きって鍋ものですから冬に食べるものですよね。しかも熱いから夏になんて食べられたものじゃないですよね!あっ、やっぱり夏は冷たいものですよね!そうめんとか冷や奴も美味しいですし、アイスクリームも食べたくなりますよね!っていうより私が言いたいのはそういうことじゃなくて、私は、クラサメ士官の事が…っ」
「ん、何か落ちたぞ」

と言ってクラサメ士官が手に取った手紙…。
手紙…?

「私宛て…?読んでいいか?」
「っあ…!」

待って、と言うには既に遅く、クラサメ士官は封筒の中から便箋を引っ張り出して中身を見ていた。
恥ずかしくなってまた顔を両手で覆った。

少し、沈黙。

私は変な子だもん、出てけとか言われちゃうかな。
呆れられちゃったよね。
もう、自分が嫌い……!
じわりじわりと涙が浮かぶ。


逃げよう。
そう思って立ち上がった瞬間。

「待て」

手首を掴まれ引っ張られ、もう一度ソファーに座らせられた。

「っ、離してくださいっ」
「何故だ」
「だって、私は…っ可愛くないし変だし…っ!」
「オリ」
「呆れたでしょうクラサメ士官も。だからいいんで―――」
「オリ!」

聞いたことのない、本気で怒ったような声。
びくりと体が震え、動けなくなる。
涙が出る。

っ怖い、怖い怖い。
どうしよう。怒らせてしまった。




次に来るのはビンタか拳骨だと思っていたけど、違う。
俯いて涙を流す私の肩にクラサメ士官の手が添えられて、クラサメ士官のほうへ向けられる。

「顔を上げなさい」

戸惑いながらもゆっくり顔を上げると、クラサメ士官の指が頬に触れて、涙をぬぐった。

「怒鳴ってしまってすまない」

綺麗な顔で苦笑される。
不覚にも、その綺麗なエメラルドに見つめられて心臓が音をたてた。

そして…。



「―――っ!?」

ぎゅっと抱きしめられた。
あまりにも唐突過ぎて思考が追いつかないけど、どうやら私はクラサメ士官に抱きしめられているらしい。
胸と胸がくっついてクラサメ士官の鼓動が伝わってくる半面、私の早すぎる鼓動が伝わりそうで恥ずかしい。

―――温かい。

「っ、クラサメ士官…?」
「今は君の想いに答えることはできないが―――」
「っ…!」

耳に唇が触れ、直接低い声が吹き込まれていく。
思わず息を詰めた。

「君が大人になるまで、待ってる」

そう言われた瞬間、嬉しさでまた涙が込み上げてきた。
ほんと、なんて人を好きになってしまったんだろう。
好き、大好き。

「…っ、約束です…!」
「あぁ、もちろんだ」

ぎゅっと強く抱きしめられる。




「きゃっ!」

ぐっと体重をかけられて私は倒れた。
私の上にはクラサメ士官が覆いかぶさっている。

「っクラサメ、士官…?」
「士官はやめろ、クラサメでいい」
「…クラサメ、さん?」
「……合格」

そう言うなりセーターのボタンが1つずつ開けられていく。
ぷちっ、ぷちっと。

「えっ、ぁ、何を…」

水色のマントも取られ、制服の金具も1つ開けられた。
首元が外気にさらされて少し寒い。
やんわりと制服の襟元を開かれて、羞恥で顔が赤くなる。

「…や、だめ…!」
「大丈夫、味見するだけだ」

あ、味見…!?
言うなりクラサメさんは私の首元に顔を埋めた。
首筋をぺろりと舐められる。

「ひンっ!」

あられもない声を上げてしまう私。
そのままちゅっと口づけられて吸われて、ちくりと其処が痛んだ。

「ぁ、…」

するりと内太ももを撫でられて体が跳ねた。

「お、大人になるまで、待つんじゃないんですか…?」
「だから味見だけだと言っただろう……それとも、もっと欲しいのか?」

そう言ってクラサメさんの口角が上がる。
思わずドキリとしてしまい、慌てて起き上がった。

「く、クラサメさんのえっち!!」

私は一目散にクラサメオオカミのお部屋から逃げたのである。






自室に着いて着替えようとしたら、首筋に赤い花が咲いていた。

「っクラサメさん…」

どうしようどうしよう、期待していいんだよね?
大人になるまで待つって言ってくれたけど、これじゃあ私が……。

「我慢、できないかも…っ」

緩みまくる頬をつねってから、私は就寝した。





END





「クラサメ君おめでとー!ずいぶんオリ君にお熱だったもんね」
「うふふ、でもいじめちゃダメよ?」
「それなら心配ない。味見済みだ」
「「!!?」」






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