その醜い心にくちづけを






「お世話になりました」

まだ日も昇らぬ朝方、私は店主にあいさつした。
売られて間もないのに娶られるなんぞ異例の異例だ。
何を言われるか分からないので下を向いていたら、頭にぽんと手がおかれた。

「折角拾われたんだ、幸せになれ」

これが売られた女に言うべき言葉なのだろうか。
涙があふれて頬を伝う。

私は素早く一礼して、これから人生を共にする人の許へと歩んだ。


「オリ」

優しく私の名を呼ぶその人の名前は。

「クラサメさん」


さぁ、天邪鬼で、醜い私の心にくちづけを。




END